キミもまた、偽恋だとしても。1〈上〉 (オーバーラップ文庫)

【キミもまた、偽恋(オタク)だとしても。1(上)】 渡辺恒彦/wingheart オーバーラップ文庫

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関東圏のとある田舎町。物欲と引き替えに、私立岩下学園に越境入学して間もなく、村上政樹は転機に直面していた。「お願いしたいことがあるんだけど駄目、かな?」何の前触れもなく、学級委員の長島薫子に頼まれたのは「偽装恋人」になって欲しいという事。薫子の家は地元では有名な旧家で、お見合いを回避するために恋人役を頼んだのだ。しかし、政樹が薫子の親に紹介されると思わぬ事実が発覚!それは村上家こそが長島家の主筋だった事。そして、瞬く間に話は「恋人」から「婚約」へと発展してしまい!?そんな二人はお互いに、一つだけ大きな秘密を抱えていた。―それは「隠れオタク」「隠れ腐女子」という秘密であった。

わはは、これいいなあ。たったひとつ、相手に知られたくない秘密があるばかりに、家柄的にも性格的にも趣味趣向的にも行動パターンすらもぜんぶ運命的と言っていいくらいに相性ピッタリにも関わらず、すれ違ってしまう、というこの痒いところにあとちょっとで手が届かないラブコメが実に素晴らしい。
このすれ違いが絶妙で、すれ違ってはいるんだけれど思いっきり紙一重の背中合わせで平行に同じ方向に進んでいるんですよね。いやもう気づけよ、というくらいお互い露呈してしまっているのですけれど、思考パターンが噛み合いすぎているが故に、お互い同じタイミングで一歩ずらしてしまうので気づかない、どうしても気づけない。
お互い、相手に見られたくない買い物を偶然取り違えて持って返ってしまったケースなんて、これだけど両者ともにどうしようもないバレ回避の展開は見たことがなかっただけに、苦笑するばかり。可愛いなあ、もう。
ただこの二人、本当に相性が良くてお互いの一番の本性であり見せたくない部分であるオタク趣味を隠した状態でありながら、一緒に過ごせば過ごすほどお互いのことが気に入って好きになっていくのですね。ただ熱量が高まっていくばかりではなく、一緒にいて居心地が良い、安心感がある、なにより無性に楽しい、というのは得難い相性なんでしょう。政樹の方は積極的に告白して関係を進める意気と覚悟があり、薫子の方もまんざらではなく傍からするともう完全に好きになっちゃってる関係なんですよね。
ただ、お互いに秘密にしているオタク趣味の部分と、お互いの家柄の関係で付き合う以前に外堀が埋められ切っていて、付き合う=結婚というお膳立てが出来上がってしまっているが故の躊躇が、最初の偽装恋人という関係を安易に崩して本物に出来ない慎重さを二人に強いてしまっている。
まあお互いマジで好きになっちゃったからこそ、簡単に本性を明らかにできなくなってしまったのだけれど、逆にオタク趣味抜きで着々と好意を積み重ねていけている現状は悪くはないはずなんですよね。最初の段階でオタク趣味同士で意気投合してしまうと、まずそれがあったから距離が埋まったという感触が生じてしまって、それが本当に恋なのか、という疑念が生じかねないところがあったと思うのだけれど、それを抜きにして一つ一つ時間を共有し好きを積み重ねていけている現状は、本当の好きをじっくり確かめながら関係を深めていけてると思うんですよね。
ぶっちゃけ、二人が隠している秘密がバレてしまっても全然大丈夫どころか、むしろ決定打になることを読者の方はわかっているだけに、ひたすら気楽にニヤニヤしながら眺めていられるスレ違いラブコメなんですよねえ。
自分たちだけで勝手に右往左往している彼らが可愛い可愛い(笑

惜しむらくは、ちと文章が硬いというか滑らかさが足りないと思われる文体なところか。多少状況説明がクドい感じがあり、三人称の書き方もちょっと登場人物から距離が遠いんですよね。だから、自然に物語に没入しにくい。こればっかりは、作者の文章の特徴なんで仕方ないんでしょうけれど、自分としてはいささか引っかかってしまいました。