甘城ブリリアントパーク (8) (ファンタジア文庫)

【甘城ブリリアントパーク 8】 賀東招二/なかじまゆか 富士見ファンタジア文庫

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まもなく甘城高校の文化祭!地上界の学生たちが繰り広げる祭典にラティファは興味津々で、西也もクラスの喫茶店のマネージャーを引き受けたりと意外にやる気満々?しかし、いすずは西也の残した意味深なメッセージが気がかりで悶々としていた。そんな折、西也から物件の内覧にと誘われる(まさか自分との同棲を考えているのでは?)―だがそんなわけもなく、訪れたのは廃墟と化した遊園地跡だった―。そこで明らかになる甘ブリの未来の姿とは!?そして、奇妙な現象に巻き込まれた西也といすずは、ふたりっきりでラブホに一泊することに!!甘ブリは、そして彼と彼女の関係はどこへ向かう!?
うわぁ……なんかもう色々な意味で転換点の回だったんじゃないだろうか。西也もいすずも自覚あるように真面目なんですよね。真面目が過ぎるとどうしても手を抜けなくて、意図してではなくふっと無自覚に弛緩してしまう瞬間が在る。緩急が取れてない分、普段できているコントロールが緩んできてしまう。今回、西也は顕著にそうした面が出てしまっていたんだけれど……むしろ今回の目玉は西也といすずの生真面目な部分の衝突から作用した化学反応なんですよね。真面目に自分の気持とか相手の様子とか現在のシチュエーションとか目を逸らさず把握して考察して噛み合わない部分をぶつかり合わせながら合致させようとすると、いざ合致してしまった時にえらい勢いで収まるところに収まってしまう時がある。流されるのと違って、理性を理性的に放棄してしまう時があるわけだ。客観的に理性的に、今は理性を放棄して感情に任せるべきだ、という判断をしてしまう。だから機が去ってしまうとそのまま流れ込めないし、逆に決定的瞬間があったという事実をなかったことにはできなくなる。
この時、西也といすずは肉体的な一線は越える機会を得られなかったけれど、越えようという同意が生まれた瞬間にすでに精神的にはもう越えているのだ。そして、真面目な二人はその事実から目を逸らさないし、逸らせないまま擦りあわせていくしかなくなっていく。問題は多々あれど、二人の中ではすでに結論は出ていることが言動から窺い知れる。
なんにせよ、衝撃的ではあった。偶発的な展開にも関わらず、二人共後ろめたさや後悔を感じさせず、結論に対して腹が据わっている様子も、その衝撃に輪をかけていた気がする。二人とも年齢的には高校生かもしれないけれど、既に他者や組織に対して大きな責任を負う立場を背負った社会人、管理者、責任者であるからか、子供扱いしていい貫禄じゃないんですよね。決して精神的に成熟しているとは言えないかもしれないけれど、浮ついた子供ではもう居られないものを背負わされて、否応なく大人となってしまっている。そんな大人同士の、本気の情念の絡み合いなのだ。青春だの青い情熱だのと言ってられない粘度があり重さが在る。なんちゅうか、相手の人生を一生背負う覚悟を既に持っているような貫禄があるんだよなあ。
バクの夢を通して、西也の末路が語られたせいもあるかもしれない。いずれにせよ、ラブコメなんて言ってられない「生々しい」迫真の求愛活動だった、と言えよう。

しかし、前巻のラストに書き残されていたEXODUS。まさか文字通りの意味だったのか。でも、これは無理だよなあ。交通アクセスの問題は一番致命的だもの。より交通の便が良いところに移転するならまだしも。
ホームを変える、というのは生半な問題じゃないもんなあ。しかし、西也の見積もりが甘かった、とは言い辛い。どうやったって300万人の動員が物理的に不可能である以上、盤をひっくり返して逃げることは生き残る手段としては決して間違っていないし、彼が信頼するスタッフたちからも概ね消極的ながらも同意が得られたのだから、間違いではないはずだったのだ。この時点では。
若くして、自分の人生の末路を見せつけられた西也の絶望たるや如何ばかりだっただろう。ってかさ、本来彼には関係のない話で、自分の人生を投げ打ってまでやるべきことでもなかっただろうに、この男は決して逃げなかったんだよなあ。最後の最後まで大事なものを守ろうとし続けたわけだ。それだけは尊崇に値すると思うし、同時に馬鹿じゃないのか、と思う。ラティファさまも、罪な女じゃないですか。
彼女自身、今の時点ですらその自覚は凄まじく重く抱えているのかもしれないなあ。あの学園祭での様子を見る限り。
あんな確定未来を見せつけられて、なお諦めずに逃げ出さずに、戦うために打って出る主人公。一人では無理だろう、一人で出来ることには限界がある。一人で引っ張るのは不可能だ。にも関わらず、彼がさっさと勇躍出来たのは、それだけもう、いすずをはじめとしたスタッフたちへの信頼度が満タン貯まってたんだろうなあ。それだけ、今までの積み重ねが積み上がっていたんだ、きっと。
そして何より、やはり「一線を越えた」のが決定的だったんじゃなかろうか。最後の方の場面での明らかに今までと違う西也といすずの雰囲気に、そう思うのでした。
……こいつら、事務所で二人きりになったらえらいこと仕出かしそう。前言を翻して、真面目だけれどいきなり発情してやらかしそう。要監視である。

シリーズ感想