さよなら、サイキック 1.恋と重力のロンド (角川スニーカー文庫)

【さよなら、サイキック 1.恋と重力のロンド】 清野静/あすぱら 角川スニーカー文庫

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その能力(チカラ)は、戦うためのもの――?

幼少期に重力を操る能力に目覚めるも、怠惰で平凡な高校生に落ち着いた獅堂(しどう)ログ。ある冬の夜彼は、“最後の魔女"という運命を背負った少女・星降(ほしふり)ロンドと出会い惹かれ合う。

その年の夏。クラス一の美少女・木佐谷樹軍乃(きさやぎ ぐんの)に強引に誘われ、共に郊外へ向かったログは、「鉄塔に登った距離に比例してスカートの裾を持ち上げる権利」に釣られ、頂上の絶縁碍子(ぜつえんがいし)を目指すことに。はたして、軍乃の強引なアプローチの真意は……!?
あ、これ表紙絵、軍乃だけじゃなくてロンドとログもちゃんと居るんだ。

あの【時載りリンネ!】の清野静の新シリーズ。あの、あの、あの!!時載りリンネ!の、である。どれだけMARVELOUS!! と鳴きながら、かの作品の名文に耽溺したか。あのシリーズは今なお我がバイブルの一つとなって深く刻み込まれている。
思えば、かの作品の素晴らしさの要であった美しい文章にあれほどの躍動感が漲っていたのは、登場人物であるリンネたち小学生諸氏の生命力の強さそのものがこの上なく描き切られていたからなのでしょう。
小学生くらいの子供ほど、生きる! という現象を炸裂させている生き物はいないでしょうから。一日一日、繰り返していく日常を、毎日を全力全開で走り抜けていく。全身全霊で楽しみ切っている。それを、余すことなく描き切っていた作品が【時載りリンネ!】でした。
翻って本作は、登場人物たちが小学生ではなく、繰り上がって高校生なんですよね。小学生ほどには純粋では居られず、世知の辛さというものを味わって、眩しく光り輝くものに思わず背を向けてしまう、そんなお年ごろ。
超能力というこの世ならざる力を持ってしまったログにしても、軍乃にしても、そうした十代後半のしがらみからは逃れられず、囚われ絡まれ……その上で、実に高校生らしい、十代にしか得られないかけがえのない時間に浸りきっている。
そう、青春まっただ中なのだ。青々として、どこまでも落ちていきそうな空のような時間の只中にいる。遮るものの何もない高い高い鉄塔の上で、橋桁の上で、何者にも邪魔されない世界を見下ろす時間のただ中にいる。これはこれで、実に実に、生命力を迸らせた涼やかな力強さの権化ではなかろうか。なんて鮮やかな青春たるの清々しさか。その上で、燎原の火のように恋の炎が燃え広がっていく。力強く、熱い熱い、吹き抜けるような炎だ。
空を駆け巡る奔放な風のようなロンド。赤々と真っ直ぐに照らしだす焼き貫く炎のような軍乃。なんと対照的で、どこか似た者同士な躍動感に満ちたヒロインたちだろう。それほどまでに生命力を漲らせた二人だけれど、それでいてどこか二人ともにふとした瞬間に消えてしまいそうな儚さを懐に隠し持っている。普段は少年を思う存分振り回し、引っ張り回す彼女たちを……ともすれば、吹き散らされて消えてしまいそうな彼女たちを最終的に大地につなぎ留めているのは、獅堂ログの重力なのか。
恋をすることで訪れる結果は、果たしてサイキッカー共通のものなのか。検証されているのがたった一人ということで、果たしてそれは証明されていないのだけれど、もしその定理が正しいものだとすればログ少年の今現在の心の在り処もまた証明されてしまう。木佐谷樹軍乃の、凄まじきかな宣戦布告同時攻撃じゃああるまいか、これ。

ロンドの方は、またこれリンネを彷彿とさせるキャラクターなんだよなあ。長く不治の病に冒されていた状態から復活したせいか、まさにいま全力で生を謳歌している真っ最中。本当に全力全開で、後ろも見ずに突っ走っている。その様子に、後ろを振り返ることを恐れる気持ちが隠れていることを、いつまた病気が再発しても後悔がないように、というどこか箍の外れた前向きさが潜んでいることを、ロンド自身の吐露によって明らかにしてしまうんだけれど、そうした気持ちを素直にログに話すあたり、ロンドがどれほど自分の全部をログに受け止めて貰えると信頼しているかが伝わってくるんですよね。生きる喜びも楽しさも、全部全部ログと一緒に! という気持ちが弾けている。こんな目いっぱいに思いを全身ダイブでぶつけてきてくれる女の子が居る、というのは冥利に尽きるんだよなあ。軍乃がこのカップルを前に怯んで避けてしまうのも無理からぬことだと思うんだけれど、そんな彼女を捕まえ離さず逆に引きずり回して馴致してしまったのがロンドのそのてらいのない元気一杯さだというのだから、何とも皮肉な話である。いや、ロンドにとっては結果はどうあれ皮肉とは思わぬか。
彼女は、ロンドは自分の世界を小さく完結させようとは露ほども思わなかったのだ。小さな身の回りの関係、執事さんにJJに、そしてログという王子様だけの完結した世界の中で耽溺することも出来ただろうに、彼女の迸る生命力は、そんな小さな世界の中では満足できず、外に外に広がろうとした。もっと友達を、もっと知らない世界を。その暴風に否応なく取り込まれてしまった軍乃。孤独な世界の中に閉じこもろうとしていた彼女を、ものすごい勢いで巻き込んで逃さず振り回して、友達にしてしまったロンド。
始まる予定のなかった物語を、ロンドの元気が起爆してしまったのだ。はじまるはずのなかった、恋の炎を弾けさせてしまった。
一人の男の子をめぐる、二人の魔女と超能力者の恋の輪舞曲のはじまりである。

清野静作品感想