個人と国家 人魔調停局 捜査File.02 (Novel 0)

【個人と国家 人魔調停局 捜査File.02】 扇友太/天野英 Novel 0

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国籍を持たない不法移民−−通称『ベイグラント』と呼ばれる社会的弱者。主人公ライルに持ち込まれたのは度重なるベイグラントの暴走事件だった。
時を同じくして、クリアトと冷戦状態にあるヘクト連合王国からコスタス少佐が入国。少佐の目的はヘクトを裏切りクリアトに密入国したテロリスト・ヴォルフの殺害だった。
2つの事件を追う人魔調停局。だが、その背後には恐るべき陰謀が隠されていて……!?
新相棒カエデと共に、ライルはクリアトの街を疾走する。
これなー、これなー。ヴォルフのあの時の慟哭、どうしてこうなってしまったんだ、という嘆き。これ、ラストで真実が明らかになったあとに振り返ると、胸を掻き毟られるんですよね。前回のラスボスもそうだったんだけれど、あまりにも個人に対する扱いが非道すぎて泣きそうになる。国家への忠誠に対する報いがこれなのか、これなのか。駒の扱いとしても酷すぎるんですよね。平和を守るための正義とは、いったいなんぞや。
ただ、国家という秩序を守るためのシステムの無機質さが原因のみならず、より酸鼻を極める状況をもたらしている悪意が、裏側にあるんですよね。本能派……各国からテロリストとして追われる一団、これは予想以上にえげつない集団なのかもしれない。魔物種としての本能を重視する姿勢とは、魔物種たちの人としての在り方、善意や義侠心、優しさや仲間意識、愛や平和を尊ぶ心、といった人らしい想いすらも全否定するようなものじゃないか。魔物が人であることを、貶めるかのようなその行動原理。まさに人類の敵である。
が、そんな彼らの活動に相乗りするもの、同調する原理が社会の中に厳然と蔓延っている、その結果が地獄めいた幾多の現実であり、それを正そうとする行為すら酸鼻を極める悲劇となってしまう。
苦しいなあ。
でも、それをなんとかしようという正義もある。やっぱり、自分ロイヤーたちのような人たち、好きですわ。権力構造の内部から、構造そのものに喧嘩を売るものたち。それこそ、現場で働くライルのような戦士たち、いや騎士たちか、が居ないとその力を発揮しきれない人種かもしれないけれど、逆に言うならどうやったって現場で頑張るしか無い、既に起こってしまっている現出した地獄を対処療法で鎮圧していくしか無い現場の人間でしか無い彼らに、さらに最奥まで届く道を示してくれる、或いは道を創りだしてくれる支援者というのは、得難い相方なんですよね。今回のロイヤーとの共闘は前回にもましてガッチリ四つに組んでのもので、その行き届いた支援は非常に頼もしかったものの……同時にドツボにハマってしまった、戻れないところまで組んでしまったなあ、という感もある複雑さ。

にしても、相棒ってユニコーンのアルミスじゃなくて、毎回変わるのか! いやいやいや、人間種のライルの体の弱さからして、アルミスの回復魔法がないっての致命的じゃないの!? 前回なんて戦闘あるたんびにアルミス居なかったら死んでた状態なのに! と、思ってたんだけれど、案の定くたばりそうになりまくるライルくん。回復支援役がいないのに、簡単にボロボロになりすぎだ、この男!
だが人魔調停局最強の近接戦闘能力者にして、最高の剣士というだけあって、烏天狗のカエデ姐さん、強い強い。もう頼もしいのなんの。いや、この戦闘力、いわゆる警察の範疇に入る人魔調停局で扱われるレベルじゃないでしょう、強すぎだろう。元は移民局の特殊部隊に居たっていうけれど、尋常じゃないですよ。おまけに、空を飛べる! 空を飛べるのである。しかも、一人だけじゃなくてライルを抱えて飛ぶことも出来るという飛行能力付き。この近接戦闘力と飛行能力で、ライルのことを助ける助ける。ってか、ライル助けられすぎだろ、ってくらいに死にそうな場面で助けにきてくれるカエデ姐さん。絶体絶命のピンチで助けられるのって、1エピソードで一回あれば十分だろうに、ライルくん何回助けられましたか、あんた。口も態度も軽いお調子者でありながら、カエデの頼もしさたるやまったくまったく。
いやもうライルって、頼りになる相棒がいないと普通に死にますね。それでいながら、毎回毎回殺し合いの場に突入するはめになってるし。最初から戦闘になる前提で突っ込むシーンって何気にあんまりないんですよね。ただ、事情聴取とか張り込みとか聞き取り調査に向かった先で面白いくらい毎回死体の山が出る場面に出くわしてしまうこのトラブル吸引体質。別にライルの血の気が多くて余計な戦闘を彼が起こしている、というようなわけでもないのが尚更に可哀想というかなんというか。
そりゃ、これだけトラブル吸引してたら、家に帰れないよなあ。ただ、ライルに家で待ってるクーへの意識が薄いというのも確かで、あれだけ気にかけているのに仕事が煮詰まるとあっさりクーとの約束とか忘れてしまっているあたり、まだまだ家で家族が待っている、という状況に彼自身が慣れていないのが伝わってくる。アルミスやカエデにあれだけ注意されているのに。
だからこそ、クーの「自分には文句言う資格がない」という言葉がしみるんですよね。ライルの揺るぎない正義こそが、クーの命も尊厳も何もかもを救ってくれたことをクー自身が誰よりも知っているからこそ、余計に彼が戻ってこなくて寂しい思いをしてしまっている自分の気持ちに嫌悪をいだき、苦しんでいる、というのが痛々しくて。そりゃ、アルミスがガチ激怒するよ。
ただ、このクーの想いの吐露が、ライルにクーとの関係、家族を持つということの覚悟を改めて据え治させた気がします。彼が戦おうとしている巨悪、彼が貫こうとしてい正義には、クーのような家族というアンカー、そして精神的な支えがやっぱり必要なのかなあ。
ラストで自分の弱さをこの上なくキツい形でつきつけられたからこそ、余計に、尚更に、クーのような家族、アルミスやカエデたち人魔調停局の仲間たちとの関係が大事になってくるのかも。

さて、次回もどんどん地獄行しそうですけれど、またぞろ相棒変わるんだろうか。ちらっと出てきただけでも人魔調停局は個性的で魅力的な連中が揃ってるので、誰が相方になっても面白そう。もちろん、再び変態ユニコーンになっても全然構わないのよ。

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