火輪を抱いた少女II 悪鬼

【火輪を抱いた少女 2.悪鬼】 七沢またり/流刑地アンドロメダ エンターブレイン

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新たな仲間を従え、快進撃を続けるノエル隊。神出鬼没、逆らう者は全て煉獄に叩き落とすとノエルの評判は戦場に知れ渡っていた。しかし、戦況は一筋縄ではいかない。敵・味方それぞれの思惑が入り乱れ、一寸先には闇が待つ。それでも戦い抜くことこそが幸せへの近道だと信じて疑わないノエルは災厄をはねのけるように、戦場を駆けぬける。
降り注ぐ土砂降りの雨の下で天を振り仰ぐノエル。この二巻を象徴するシーンでもあるのだけれど、当シリーズのジャケットデザインはどれも珠玉ですなあ。
戦い続けることで、生き残り、仲間を得て友達と呼べる人、呼んでくれる人を得たノエルは、戦うことが幸せを得る手段だと信じて、戦場を渡り歩く。決して戦狂いというわけではなく、幸せにならなければならないと自分を縛る生き方故の彼女なりの人生観であるのだけれど、その苛烈な戦いぶりや容赦のない所業は彼女の名を「悪鬼」として高めていく。もっとも、ノエル自身は自分の評判というものには殆ど関心というものを持っていないのですけれど。彼女の関心はかつての家族たちの屍との約束、幸せになるということ。幸せになるとはどうすればいいのか、を探し尋ねながら行き着いた生き方が悪鬼と呼ばれるそれなのは皮肉な話なのかもしれないけれど、それでも彼女には一緒に幸せになりたい、と思える人たちが周りに集ってきたんですよね。一方で、彼女の中の敵味方のラインというのは恐ろしく厳格で曖昧な部分がなく、常軌を逸していてすらいて、どう言い繕ってもノエルって、まともな人間ではないのである。その意味では同じ計画の出身者でありただ二人の生き残りであろうファリドの方が、まともな人格の持ち主なのでしょう。
そんな人として危うい部分を備え持ったノエルが仮にもそれなりにまともにやっていけてるのって、彼女自身の一線を跨ぎこえさえしなければかなりファジーに何でも許容してしまうファジーさと、まず何よりもシンシアという彼女を叱ってくれる人が居たからなのでしょう。シンシアと出会うまでのノエルって、ちょっとしたことで均衡を崩しかねない何か境界線上をフラフラしているような尖った危うさがあったものですけれど、シンシアが何かノエルが突拍子もないことを仕出かしたり、言い出したりした時にすかさず叱りつけ、怒って矯正する関係になってからは、もちろんノエルは基本的にこうと決めたことは揺るがさないんだけれど、ふらっとまともではない「あちら側」に行ってしまいそうな危うさはなりを潜めたんですよね。
それになにより、シンシアにゲンコツを落とされているときのノエルの痛がりながらも嬉しそうな様子、シンシアがノエルの理不尽な扱いに自分のことでもないのに代わりに怒り狂ってくれたのを目の当たりにした時の、そしてハッキリとノエルのことを友達だと言ってくれたときの、あの心からの笑顔。どこか壊れているノエルが、やっぱりシンシアと一緒のときには一番自然に笑えてるんですよね。
だからこそ、だからこそ、幸せになるという約束が潰えそうになったとき、シンシアによって引導を渡されることになったとき、あれだけ反抗し、泣きじゃくることになったのでしょう。シンシアがあくまで友達であるが故に、ノエルと共に死ぬことも厭わない覚悟を示していただけに、なおさらに自分の手の及ばない場所で決まってしまった運命に、あれだけ荒れ狂い、そしておとなしく従うことになったのだ。
ノエルがどれほど強くても、戦争に勝てる可能性のある作戦を提示出来ても、獅子身中の虫があれほどの規模で味方の中で蠢動していたら、そりゃあどうにもならない。否応ない理不尽を、仕方ないと割り切りながら出来る範囲で出来る限りのことをしつくすことで生き切ってきたノエルにとっても、この一事はあまりに痛恨で、仕方ないと笑えなかったんだろうなあ。あの涙は、半狂乱の姿はあまりに痛切だった。
それでも、山を乗り越えればまたあっけらかんと笑えるノエルと違って、ずっと引きずるシンシアの姿がまた胸を突くんですよね。ノエルが明るく振る舞えば振る舞うほど、シンシアの落ち込みが濃く写って、この二人の関係に影を落としたあの裏切り者二人には、どれだけ言い分があろうともどうしたって仄暗い憎しみが湧いてくる。
臥薪嘗胆のときである。
最後まで天真爛漫に、そして虎視眈々と瞳の奥底に復仇の炎を燃え上がらせているノエルが、なんとも頼もしい。そう言えば、この巻ではもうノエルが誰彼となくどうやったら幸せになれるのか、と尋ねることはなくなっていた。もう、彼女は何が幸せなのか、漠然としているのかもしれないけれど、その方向性は見つけていたのかもしれない。シンシアと笑っていたあの姿に、そしていつか戻ってくることを宣言して去っていくその背中に、ノエルのたどり着こうとしている先を見た。

1巻感想