血翼王亡命譚 (2) ―ナサンゴラの幻翼― (電撃文庫)

【血翼王亡命譚 2.ナサンゴラの幻翼】 新八角/吟 電撃文庫

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王女と護舞官が失踪した――。そう記された歴史の影で、それでも二人の物語は続いていく。「翼」と呼ばれる古代遺産を探す猫耳娘のイルナに誘われ、ユウファたちはかつて翼人が繁栄を極めたとされる秘境ナサンゴラへ向かうことに。亡命で全てを失い、言血の記憶が呼び起こす終わりなき悪夢に苛まれながらも、ユウファは様々な出会いを通し、己の宿命を見つめ直す。しかし旅の果てに待ち受けていたのは、街全体が湖の底へ沈むという突然の凶報。一行の運命は「親子」を巡る長大な悲劇へと呑み込まれていく。そしてその時、ユウファとアルナ、二人を繋ぐ大いなる因果が静かに胎動を始めていた――。
正直、このシリーズは第一巻で完結するほうが自然な物語だと、あの一巻を読み終わったときには感じたものでしたけれど、そうかなるほど……大きすぎる欠落を抱えてしまったユウファが歩き始めるはじまりに至るまでの物語なのか、これは。
人生そのものを損なうほどの喪失を抱えた人間が主人公、というのは珍しくはないのだけれど、それを過去の回想ではなく、シリーズの第一巻まるまる使って描いたというのは考えてみればすごい話である。その上で、生きる理由、人生そのものである大切な人を喪ってしまった青年を、目的も何もないまっさらな状態で放り出して主人公として第二巻をはじめたわけだからえげつないと言えばえげつない。
アルナを喪って、何故生き続けるのか。何を支えにして、これから過ごしていけば良いのか。何もないまっさらの状態で、イルナの翼人伝説を追う旅に同行するものの、彼の心にぽっかりと空いてしまった穴は一欠片も埋まる様子もなく彼自身を苛み続けるのである。
まだ、空隙を埋めることが出来たら、と思っているだけ前向きなのかもしれないけれど、一向に埋まる様子がないんですよね。アルナのためだけに生きてきたユウファが、そのアルナを喪って簡単にその喪失感を埋めることが出来るはずがないのですけれど、そうなんですよね、これって失ったものを取り戻す話でも、失ったものを代わりのものを見つけてぽっかりと空いた穴を埋める話でもないわけだ。
大切なものを喪ってしまった自分を受け入れる話。心に大きな穴を空けてしまった自分と、生涯付き合っていく物語なのか。その上で、死んだように生きるのではなく、哀しみを背負ったままでもきちんと生きていく、自分を立て直していく物語なのだ。その為に、改めてアルナが考えていたこと、思っていたことを掘り返し、自分の中で消化し、清算し、彼女が望んでいたものを自分なりに反映していかなければならない、と。そう思い至るのに、アルナの傷の一つでもある「家族」にまつわる話を、このジルとサーニャという血の繋がらない親子との出会いと、その故郷で起こった事件を通じて自分の中で形にしていくわけだ。
彼が、ちゃんと自分の足で歩きはじめるために必要だったんだな、今回のは。未だ、血翼王亡命譚というタイトルがどういう意味なのかがハッキリとはしていないんだけれど、自分の居場所を得られない人たちのために、という理由が、徐々にユウファの中で浮かび上がってきている。それがちゃんとした形になったときこそ、ユウファの始まりなのだろう。
それにしても、冒頭しばらくのユウファって完全にイルナのヒモだよなあ、これ。無職だし、食べさせて貰ってるし、何の目的もなくフラフラとイルナにくっついてるだけだし。護衛という名目はあっても、実質養ってもらってるようなものだったし。その上に、抜け殻同様の精神状態でイルナがつきっきりで支えていてくれたりしてたのを見ると、精神的にも経済的にも全面的にイルナに背負われっぱなしという状態でしたしねえ。イルナに感謝するのは大前提として、もっとヒモとして養ってくれる女性はチヤホヤするのが良いのよ? 少なくとも、他の女性に構うのはいいとしても、ヤキモチ焼いてることに気づくくらいはしてあげないと。

それから、魅惑的ではあってもややフワフワとして浮ついた感じのあった世界観が、馴染んできたのかグッと実像が出てきてバックグラウンドとしての存在感を見せつけ始めてきた。ナサンゴラの街の設定が非常に重厚であり、物語の要でもあったという要素もあったんだろうけれど、この独特の……普遍的な常識や価値観がどこか異なっている、まさに別の世界という「ファンタジー世界」感は素晴らしい。

1巻感想