浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。 (富士見L文庫)

【浅草鬼嫁日記 あやかし夫婦は今世こそ幸せになりたい。】 友麻碧/あやとき 富士見L文庫

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Kindle B☆W

浅草に住み、浅草グルメをこよなく愛する女子高生、茨木真紀。人間のくせに日々あやかし関連の厄介ごとに首を突っ込んでは腕力で解決する彼女には秘密があった。それは真紀が前世の記憶を持っていること。その前世は人間ではなく、平安時代にその名を轟かせた鬼の姫“茨木童子”だということ。前世で「夫」だった“酒呑童子”の生まれ変わりである同級生の天酒馨を引き連れ、ブラックバイトに苦しむ手鞠河童や老舗そば屋を営む豆狸の一家など、悩めるあやかしたちのために「最強の鬼嫁」は今日も浅草中を駆け回る!
ほんとに通い婚だなあおい。
基本メンバーとなる真紀、馨、由理の三人は同じ作者が別名義で書いていた【メイデーア魔王転生記】とほぼ同じキャラクターなんですよね。勿論、キャラが同じだけで背景や物語は違いますし、世界観も異なっているのですけれど。
前世で恋人だったり夫婦だったり、という関係は少女漫画的にはドキドキキュンキュンした感情の動性が激しいものが多いのですけれど、ってか前世モノって再会イベントこそが最大の盛り上がりのはずなんですけれど、その手の定番に拘らずに既に幼少時に再会しちゃってるんですよね、この夫婦とプラス由理。
文句なしの幼なじみである。
また、前世の夫婦関係というのはその密接さ故に逆に現世ではなかなか感情のすり合わせができずに、再び結ばれるまで様々な紆余曲折があるのもまた定番なのですが、この真紀と馨ときたらどれだけ年季の入った熟年夫婦だよ、と言いたくなるような所帯じみた夫婦っぷりで。真紀なんかは夫婦関係を公言して憚らないですし、馨の方もまだ夫婦じゃねえ、と真紀が夫婦とか妻とか口走るたびに反論してるんだけれど、ほぼ必ず「まだ」という副詞が頭についているあたり、ただ建前に拘ってるだけなんですよねえ。
ってか、家で寝る以外は真紀の部屋に帰ってきてそこでご飯食べて一緒にDVDみたり、と同棲してるのと何ら変わらない生活様式になってますし。
前世は酒呑童子と茨木童子として多くのあやかしを纏めていた立場から、それなりに大仰な生活を送っていたと思われるだけに、なんで現世だとこんな所帯じみた夫婦になってるんだろう、と思わなくもないですけれど、下町全開の浅草という街が舞台なのに適応してしまっているのか。学校帰りなどの浅草食べ歩きなんか、どれも美味しそうだもんなあ。
そう、この作者の作品らしく、実に飯テロが決まってるんですよねえ。同じ世界観の【かくりよの宿飯】でのご飯が庶民的でありつつもかなり工夫が凝らされた上品な小料理屋らしい料理なのに対して、こっちで描かれるご飯は買い食いのネタだったり、屋台のあれこれだったり、自宅でちょいちょいっと料理して食べる本当の家庭料理だったり、という身近なものなんだけれど、これはこれで実に美味しそうで……。
というか、真紀がどれもこれも本当に美味しそうに食べるもんだから、それに胃が引っ張られてる。由理も馨もこの食いしん坊には実に甘々なので、あれこれと絶えず食べさせてあげるものなあ。まあ、あれだけ美味しそうに食べられたら、ついつい口の中に放り込んでしまう気持ちもわからないでもない。
でも、馨のバイト代の何割が真紀の食費に消えているのかは興味深い部分である。高校生の段階で、この生活費を稼いでる感の凄まじさよ。
人情モノらしく、元あやかしの大親分だった真紀が困っているあやかしたちを助けるためにトラブルに首をツッコんでいくのを、毎回苦言と言うか説教しながらもマメにマメに手助けし、後始末をしてまわっている馨と由理というトリオのはっちゃけぷりが実に楽しい。今は人間に生まれ変わり、人として生きながらも、あやかしたちを見捨てられない三人の優しい元あやかしたち。かつての悲惨な末路は、彼らの中に傷跡として刻まれているはずなのだけれど、その過去に背を向けず逃げ出さず、積極的に首突っ込んでいく真紀さんは、元は儚げな藤原の姫様だったはずなのに、なんでこんな姉御肌なんだろう。思いっきりパワータイプな脳筋型だし。

しかし面白い。真紀たち三人共若者らしい溌剌さや子供故の家族関係の悩みを抱えていながらも、夫婦として見るとむしろ枯れてさえいるような落ち着いた関係で、好きとお互い公言しているにもかかわらず、さっぱりしてるんですよねえ。これだけいつも一緒に居て、同じ時間と空間を共有しているのに、ベタベタした感がない。イチャイチャはしているんだけれど、甘酸っぱいというよりも安心が先に来ているというか……連れ添うという言葉が本当に似合う二人なんですよねえ。
同時に、二人きりの狭い世界にならないのは真紀の社交性と、由理という第三者であり理解者がそれこそ家族並に身近にいるからか。本当に面白い、心地の良い関係である。
ラストで茨木童子の存在が広く知れ渡ってしまった以上、前にもましてトラブルが飛び込んできそうな状況にはなったものの、この三人なら全然大丈夫そうなので、そのへんは安心して見ていられそう。
そう言えば、ゲストで【かくりよの宿飯】の大旦那さまがチラッと登場してたけれど、良いサービスでありました。

友麻碧作品感想