戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉6 (HJ文庫)

【戦うパン屋と機械じかけの看板娘〈オートマタンウェイトレス〉6】 SOW/ザザ HJ文庫

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エウロペアの聖女を讃える聖誕祭を年末に控えたオーガンベルツ。お祭りの夜に街にやってくるという、良い子にプレゼントを配る「聖女」と悪い子を連れ去ってしまう「悪魔」。この2役の仮装をすることになったスヴェンとルート。新しいお菓子作りと仮装に奔走する2人の「聖誕祭」の話。その他「魔導師」ダイアン・フォーチュナーの秘密に迫る話、「お嬢様予備校」と呼ばれる士官学校に編入されたヒルダの話、の3編を中心にゲーニッツの反乱後のキャラクター達を描いた人気シリーズ6作目!
ゲーニッツの反乱というシリーズがそれで完結してもおかしくない大事件が終わって、それでも続くとなると話の持って生き方が難しいんじゃないだろうか、蛇足にならんだろうか、という危惧をふっ飛ばしてくれる間奏回。スヴェンとルート、ヒルダ、そしてダイアンという三組のキャラクターたちを中心に、あの事件の後の様子を描くと同時に次に起こるだろう出来事への準備期間として仕込みが成されていくのだけれど、ここまでで本当にキャラがみんないい具合に育ったなあ。これ見てると、ヒルダなんか彼女主人公にしても一シリーズ作れるんじゃないか、と思えるくらいに良いキャラクターになったよね、彼女。親衛隊解体に伴って士官学校に入り直してやり直すことになったヒルダ。15歳にしてあれだけ人生の悲哀を味わって苦労したせいか、随分と性格も練れたというか落ち着いたんだけれど何故か受動的トラブルメーカーになってしまっている不思議。そりゃ、大人しく首を竦めて問題をやり過ごすよりも毅然と突っ込むのが彼女の気質なんだろうけれど、その無視できない問題がどんどん向こうから彼女の前に転がりだしてくるのは、ヒルダ悪くないですよねw
元親衛隊のエリートという悪名のみならず、様々な異名が実績伴ってヒルダに積み上がっていってしまうのには笑ってしまった。そこまで暴れてないだろうに、後ろ盾がいつの間にか大きくなりすぎてる、本人関係なしに。
でも、彼女一人だけだとなかなか話も膨らんでいかないだろう、と思うところにちゃんと彼女にもパートナーとなる娘が登場するわけで、このコンビで幾らでも話広げていけるんじゃないだろうか、これ。表紙にもなってるあの東方の国の人もこうなるとむしろヒルダにひっついて行かざるを得ないだろうし、ヒルダとトリオで本編の方にも絡んでくるんじゃなかろうか。
それにしても、機械人形のお嬢さんたちはなんで揃いも揃ってヤンデレな変態ばっかりなんだ!? いわゆる「心」の起動条件が病むほどに熱烈な痴情というのは色々とヤバイ気がするんだが。
まあ、スヴェンを見ても分かる通り、最初にはただ一人に向けられていた感情も時間を置き多くの経験を経ることでそれ以外の人にも広がっていくようなのだけれど。レベッカも、そんな感じですしねえ。

そんな機械人形たちの生みの親である天才博士ダイアン・フォーチュナーの過去が明らかになるのがもう一つのお話。シリーズ初期は、というかもう最近までこいつこそがラスボスだろう、という怪しさと胡散臭さ満載だったダイアン博士。ところが、彼が生み出した機械人形たちは情緒豊かで人らしい心を持った存在で、むしろ博士は計算外ではなく意図して兵器ではなく、心ある存在として彼女たちを創り出そうとしていた節が伺えてきたところに、身を挺してソフィアを助けるような真似まで見せて、人でなしのマッドサイエンティストに見えていた外殻がようやくポロポロと剥がれ落ちてきていたわけですが。
それでも、この人物の出自の不明さ、一体何を考えているかわからない、人からどこか外れた存在感への恐れはつきまとい続けていたのであります。丁度、ソフィアさんが彼に向ける警戒と恐れ、でも信じて心開いてみるべきなんじゃ、というダイアンに対する戸惑いはそのまま読者の気持ちの鏡写しのようなものだったように思います。
とは言え、このままではダイアンという人への不気味に感じる思いは晴れないまま、どこか未知の部分がある信じきれないジョーカーカード、という観点で見続けるしかなかったのでしょうけれど、この中編で一気にダイアンの正体と素性と過去が明らかになったことで、色々と一変したんじゃないでしょうか。
まず、その特殊すぎる出自と才能は退けておいて、人ならざるものに人そのものの愛情を篭めて育てられた、愛を知り愛を求める存在だった、とわかったことでどうしてダイアンがスヴェンやレベッカのような存在を積極的に作ろうとしていたのか、どこか人として外れたような側面と人そのもののような懐っこさをどうして同居させているのか、などなどようやく理解が及んできたんですよね。恐れとは未知や不理解を源泉とする、という観点からすればダイアンというキャラをこの間奏で思い切って地に足をつけさせてきたなあ、と意外に思うところでもあるのですけれど、今後思いの外彼が本筋に絡んでくる準備でもあったのかもしれません。

ラストのスヴェンとルートの話も、今後の展開を思うと色々と考えさせられる話でもあるんですよね。穏やかな、恐らくはルートとスヴェン二人の思い描いた理想のような日常を丹念に描くことで、その理想が何を踏みにじって出来上がったものか、をラストの独白が浮き彫りにさせてくるこの構成。暖かな暖炉の火が照らす明るい室内を散々映したあとで、雪が積もり凍りついたような静けさに暗く沈む冬の屋外を思い出させて照らし合わせたような、置いてきた消せない罪が、今追いついてきたその寒々しさが、次の物語の開始を謳うにはまた威力十分なんですよね。
キャラみんなに愛着が湧いてきているだけに、なおさらに。だからこそ、楽しみも増すわけですが。

シリーズ感想