友人キャラは大変ですか? (ガガガ文庫)

【友人キャラは大変ですか?】 伊達康/紅緒 ガガガ文庫

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出会っちまったぜ、俺の理想の主人公に!

俺の友達、火乃森龍牙。高校に入ってできた、気の置けない親友。

龍牙の第一印象は、「アニメとかに出てくる主人公っぽい奴」だった。そしてその思いは、すぐに確信に変わった。
まず、こいつは過去をほとんど話さない。で、よく授業を抜け出す。帰ってきたかと思えば、唇から血を流してたり、制服のあちこちが破けてたりする。

そして龍牙の周りには常に美少女がいる。学園のアイドル、雪宮汐莉。剣の達人であるクールビューティー、蒼ヶ崎怜。謎の転校生、エルミーラ・マッカートニー。こいつらが龍牙の前に現れると、俺は非常に疲れる。それぞれが龍牙と絡むたび、「お、おいリューガ! どうしてお前が雪宮さんと知り合いなんだよ!」とか、「う、麗しの剣士である蒼ヶ崎さんが、わざわざ教室までリューガに会いに!?」とか、「エ、エ、エルミーラさん! リューガなんかのドコがいいんスかぁ!」とか、必死に騒ぎ立てる羽目になるからだ。

……じゃあ何でやるのかって? それは俺、小林一郎が友人のプロだからだ。
主人公の中の主人公、火乃森龍牙を支える親友キャラこそが、俺の生き様だからだ。

――ベストフレンダー小林が贈る名助演ラブコメ、開幕!
こ、こいつ本当にプロだ。趣味や娯楽で友人キャラをやっているわけではない凄みを漂わせている。そもそも、別に楽しくて友人キャラをやっている風ではないんですよね。場合によっては友人キャラとして影に日向に走り回ることに大きな疲労感を感じている節すら伺える。でも、決して小林一郎は友人キャラであることをやめようとしない。ナゼならばそれは生き様だからだ。自分で決めた小林一郎という男の生き方なのだ。その高いプロ意識は彼に妥協を許さず、甘えを許さず、常に厳しい自己研鑽を自身に課している。一体何がそこまで駆り立てるのか。幼少時の体験が彼の人生の方向性を決定づけてしまったとは言え、その後も彼の魂の燃焼は衰えること無く友人キャラとしての使命を成し遂げることに気炎を上げ続けているのだから、ある意味怪人である。
彼の凄まじいところは、主人公足ると見定めた人物の側について友人キャラを演じるだけじゃないんですよね。自分だけそれらしい格好をして振る舞って満足するだけでは終わらないのである。小林一郎が見定めた相手がちゃんと主人公となれるように環境を整え状況を揃え当人を鍛え上げシチュエーションを用意し影に日向に徹底したプロデュースをやってのけた上で、何食わぬ顔で主人公の影で何の益も害もない無名の友人キャラとしてほくそ笑みながら佇んでいるのである。
ただの黒幕じゃねえか。
まあこれだけ派手に暗躍してたら、そりゃ主人公にされた人は気づくよね、という感じで今まで小林一郎がプロデュースした人たちはみんな小林くんのやってることには気がついていたみたいなんだけれど、今回彼に見初められてしまった龍牙くんは、その点さっぱり小林くんの暗躍に気づいていない当たりこそが真の主人公として見込まれてしまった要因なのかもしれない。
まあ、他の主人公たちと違って、小林くんが特に派手に立ち回らなくても極ナチュラルに物語の主人公をやっていて、小林くん日常パートで賑やかしをやってるだけで良かったからなのかもしれないけれど。
でも、小林くんがどうして分不相応にも非日常パートにまでついつい首をツッコんでしまったのかを考えると、龍牙が手のかからない主人公過ぎたから、という理由が思い浮かんでくる。これまでの主人公たちは小林くんが丹念に手をかけてプロデュースして主人公として成功した人たちだったのを思い返してみると、龍牙は何もしなくても良すぎたんですよね。だからこそ、ちょっと非日常パートのことも知っておいた方がいいか、ナニカ出来ることがあるかもしれない、という欲が出てしまった。
それは、友人キャラのプロとしては出してはいけない欲だったのかもしれない。だからこそ、それをきっかけとして小林くんの友人キャラのプロとしての在り方に破綻が生じてしまったのだ。
まあ、龍牙の正体を最初から見誤っていた以上、破綻は時間の問題だったのかもしれないし、既に小林くんのスペックとメンタリティが友人キャラのそれをオーバーしてしまっていて、物語としては彼をその枠に押し込めておくことが叶わなくなった、と考えることも出来るのかもしれない。
しかし、友人キャラのプロとしての高い意識を持つ小林くんとしては、破綻を前にしてもなんとか友人キャラにしがみつこうとして、そのキャラの在り方と物語上に用意された役割との食い違いがお話を混沌へと突き落とし、傍から見るとどうしようもない喜劇へと発展していく、というのが本作の様相はわけだ。
これがまた、すこぶる面白い。
主人公としての役割と全く異なるキャラクターを秘めている龍牙を始めとして、何気にヒロインズたちも当てはめられたキャラクターの枠組みにどうしたって収めきれないものを抱えていて、あっちこっち目も当てられない形で飛び出してしまっている娘たちだったわけで、サイズの合わない服を着ようとして踏ん張る度にボタンがはじけ飛んでいくような滑稽な出来事が次々と噴出していってしまうのを、むやみにスペックが高い小林くんがむやみに頑張って蓋を締めてまわってしまったものだから、余計に酷いことになってしまっていくという寸法なんですね。これ。しかも、龍牙を初めとして、ヒロインズはむしろ今の無理な役割に窮屈な思いをしたくて、全部吹き飛ばして生まれたままの姿になりたいという溜め込んでいた欲求を皮肉にも小林くんとの交流をきっかけに積極的に吐き出そうとしだしてしまったから、余計にえらいことになってしまう。小林くん、蓋を締めているつもりでむしろその高いスペックをガソリンみたくして、火に注いでしまってるからなあ。ヒロインズもガンガンその気になってしまうという。
小林くん自身も高い友人キャラ意識を保ちながらも、年頃の男の子としての素直な欲望、可愛い女の子しかも好みドストライクな娘とキャッキャウフフしてたい、という欲求に流されがちで、試練は募るばかりという……。
龍牙、今まで溜め込みすぎてたせいか、乙女を拗らせるどころかこれちょっとアレな領域まで足突っ込んでますよね。自宅でコスプレ大会とか、並の恋人同士よりも濃い時間過ごしてるんですが、この人たちw
個人的には小林くんには秘めたなんたるかがある云々ではなく、あくまで普通の人間としてやたらスペック高いまま振り回されてもほしかったのですけれど、明らかになったシチュエーションも美味しいと言えば非常に美味しいものですし、物語に何らかの役が必要という考えからすると小林くんが置かれた立場もまた必要なものなんでしょう。
ちょっと後半、各ヒロインとのふれあいが駆け足気味だったので、もうちょいコミュニケーションを増やしていくか、龍牙に集中するか中途半端にはならないように調整していって欲しい所ですね。
続きとなる次の巻もありそうですし。

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