かくりよの宿飯 五 あやかしお宿に美味い肴あります。 (富士見L文庫)

【かくりよの宿飯 五 あやかしお宿に美味い肴あります。】 友麻碧/Laruha 富士見L文庫

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“隠世”の老舗宿「天神屋」で食事処を切り盛りする女子大生の葵。銀次とともに、南の地のライバル宿「折尾屋」に攫われた彼女だが、持ち前の負けん気と料理の腕で、逞しく居場所を作っていた。銀次と乱丸の行く末を心配する磯姫の想いを継ぎ、「海宝の肴」の担当を買って出た葵。早速献立の考案や食材集めに奮闘する彼女と銀次の元に、「天神屋」から思わぬ助っ人(?)がやってきた!懐かしくも頼もしい仲間に励まされ、準備も順調に進んでいたのだが、呪われし南の地には、それを快く思わない存在がいて…。
これはあかんわー! 飯テロ飯テロ!! これまで兎に角読んでるだけで激烈に腹が減ってくるほどの美味そうな食事シーンを書くと言えば【ベン・トー】シリーズのアサウラさんがぶっちぎりで抜けてたんだけれど、本作完全に並んだね。完全に匹敵してしまったね。なにもうこの読んでるだけで涎ダラダラ垂れてきそうな、ガチでお腹鳴ってしまう感覚!? めっちゃくちゃ美味しそうなのよ、美味しそうなのよ。食べたい食べたい食べたいッ!!
甘口のお酒片手に齧るジュージュー焼いた分厚いベーコン!! 
焼きたてサクサクの甘夏ジャムパイ!!
高級牛肉のステーキにガーリックバターライス!! 肉焼いた鉄板で炒めたご飯よ、エキスが充填されまくってるのよ!?
カリっと揚げた生湯葉包。プリプリの海老にチーズが包んであって、生湯葉の食感も絶妙でうははは、食いてぇ。そしてあのローストビーフサンドの美味そうなこと。
とびっきりはあのきのこの串焼きとヤマメ乗せご飯ですよ。串の上からベーコンのエキスや焼きトマトの汁、溶けたチーズがとろとろと重なってきのこに被さって。やばいやばい、これはまじやばい。
おまけに、ヤマメですよ。一度焼いたところからさらにご飯に乗せて炊いたので、骨まで一緒に食べれるという贅沢使用。炊いている間に染み込んだヤマメのエキスで膨らんだ、醤油としょうがで炊き込んだご飯に、スダチをふりかけたヤマメの身をほぐして混ぜ込んで食べるこの御飯のヤバイことヤバイこと。いやもう、やべえよこれ!!
そんでそんで、サクサクのカツをフワフワと出汁卵でとじたカツ丼! カツ丼!! カツ丼!! あのじっくりと煮込んだ玉ねぎの風味がまた、最高なんですよねこれ。
トドメが、海坊主のために用意されたメニューですがな。これがねー、また全部美味そうなんですわー。エビマヨ!!! エビマヨよ! 個人的にはブリの照り焼きが良かったんだけれど、しかしエビマヨ! マヨネーズも手作りなんだけれど、これがマジヤバイ!! 海老が海老でまたこれプリップリなんですよ。もう想像しただけで、噛んだ時の歯ごたえとか、そこから溢れ出してくるエキスとか、それがコク旨なマヨネーズと合わさったときの味とか、考えただけで意識飛びそうッ。
でもって、甘夏ジャム絡めの鶏もも肉の唐揚げって、なにーー!? それなにーー!! ホワーーッ! おまけに紫蘇巻のアジフライ、チーズ入りとか、最高じゃないですか。
メインの「真鯛ときのこのクリーム煮」「豚モツの赤味噌煮込み」「すき焼き風肉豆腐」とか、最狂ですよ。もうこれどれ来ても、というか全部行けますよ!? 和風カレーキッシュも、これがもうもうっ、どうするよ、どうするよこれ!? これにもチーズが大活躍してるんですよね。チーズ働きすぎじゃないですか!? とろとろすぎませんか!? こうして振り返ってみると、意外と食材に関しては流用してるんですよね。きのこやベーコンなんかもそうだし。そういう、食材の工夫が小料理屋のそれらしくて、また家庭料理の延長のようで、いいんですよねえ。肉豆腐、牛肉のエキスが染み込んだお豆腐、くぅぅぅ、味覚の想像力が爆発しそうだ。
あのココナッツミルクのアイスモナカ(揚げ白玉入り)なんかも、デザートいいなあ。デザート美味しそうだなあ。
なんかひたすら料理がいかに美味しそうかというところばかり語ってしましたが、だって我慢できないんだもんよ! こんな、こんな美味しそうなものをパクパクと美味しそうに食べやがって。この、お預け感。テレビのグルメ番組でも料理漫画でもこんな風に空腹感にのたうち回るようなことはないんですけどね。ひたすら食べられない凄まじく美味しい料理が目の前を流れていくのを指を咥えて眺めているしかない絶望感、ガチで気が遠くなりそうでした。文字で書かれた料理は食べられないんだよ!! 食べられないくせに事細かに解説くれながら美味しそうにたべやがってーーっ! 泣くぞ!!

……一旦、夕食を食べて落ち着きました。白米バンザイ!

さて、肝心の物語の方は折尾屋編クライマックス。これ、表紙絵は海坊主からの視点というイメージになるんでしょうなあ。折尾屋で酷い扱いを受けてどうなるかと心配した葵ですけれど、みるみると折尾屋の従業員たちにも心開かせてしまい、ほんとタフな娘さんやでぇ。
でも、決して全然堪えていなかった、というわけではなく、こういう厳しい環境だったからこそ余計に絶対的な味方である銀次と、大事な時にはいつも見守ってくれていた大旦那様の存在感が増した章でもありました。特に大旦那様は天神屋に居る時は逆にちょっと距離を感じていただけに、離れて逆に親しみと安心感を感じさせる存在になるとは展開の妙でありました。
あと、今回ケモノ系の妖怪がたくさん居たせいか、弱ると妖力が減衰して人型を維持できずにチビケモモードになるの、あれ反則でしたよ。どれだけ普段イキッてても、あんなちびっ子くてメンコイ姿になったらかわいくて仕方ないじゃないですか。特に反則だったのが乱丸ですがな。なに、豆柴って! あれだけ強面張ってても、豆柴なんかになられたらもう受け入れるしかないじゃないですか。銀次のチビ狐モードとセットになったときの絵面の可愛らしさと言ったら、まあもう。
葵も結構酷い扱い乱丸にされたはずなんですが、豆柴相手じゃ怒れねえ。
いずれにせよ、乱丸も銀次との関係やこの海坊主を迎える儀式に懸ける意気込みや因縁を思えば、自分を傷つけるほどに張り詰めていたのもわかるだけに、兄弟同然に育ちながらたもとをわかった乱丸と銀次の二人が、長年のスレ違いからお互いの苦しさや信念を理解し受け入れ、ついに和解へと至ったシーンにはやっぱり良かったなあ、とじんわり滲むものもあり……。
なんちゅうか、弟とのことや過去の後悔、今の生き方、相容れぬライバル店との対立。これまで受け入れられずにはねつけていたものが、すっと内側に入ってしまう瞬間、というのがあるんですなあ。それらを受け入れられるだけの器が広がったと。人間、いや妖怪なんですが、人間的に一回り大きくなることが乱丸にしても銀次にしても、この一連の出来事を通じて叶ったわけで。また、間違いばかりじゃなかったんですよね、これまで彼らが歩んだ道、というのも。すれ違いや回り道はあったとしても、二人とも信じて進んできたこの道は間違っていなかった、ということでもあり、その結果を導いてくれたのは葵の存在だったとしても、彼らの生き方は祝福されるべきなんでしょうね。いや、そうあり続けたからこそ、葵もまた磯姫の遺志を引き継いで鎹になれたのでしょう。
葵自身も、今回は試練でした。
これまでついぞ出くわさなかった、本物の悪意で人間である自分を害しようという妖怪との遭遇。自分の根幹となっていた料理を奪われそうになる危機。そして、彼女の在り方の根源にあるトラウマに秘められた、謎の妖怪の真実への追求。どれも一人じゃ頑張れない案件でしたが、彼女が繋いできた縁が天神屋の妖怪たちにしても、新しくこの折尾屋で仲良くなった面々にしても、こぞって手を差し伸べてくれた展開は、雷獣の悪意を以って示した妖怪と人間の関係の現実を完全に吹き飛ばすもので、この娘こそ間違いのない真っ直ぐな道を歩んでるんだなあ、と安心するやら嬉しくなるやら。
特に、折尾屋では天神屋の料理長とは違う、同じ立場で一緒に切磋琢磨できる料理人である鶴童子の双子が、銀次でも大旦那さまでも出来ない同じ料理人としての立ち位置から、葵の心と挟持を支えて背中を押してくれましたらねえ。あの二人は本当に良い役回りでした。表紙絵でもわりと目立った場所を確保しているのも納得。
そして、クライマックスの海坊主を迎える儀式。これがまた、事前の話からは予想だに展開に転がっていくのですが、これがまた胸を温かくさせるようなお話になってくれまして。そうそう、葵の供する料理というのはこんな澄まして畏まったコース料理風なんかじゃなくて、あくまで家庭料理、小料理屋的なものであり、ただ美味しいだけじゃない、一緒に食べ一緒の時間を過ごす、というのを大事にしているというのはこれまでの数々の料理・食事シーンからも明らかだったわけで、ハプニングによるものとは言えあくまで葵らしさを貫けて、温かい気持ちをみんなに分け広められた最高の饗宴でありました。
明らかになったかと思われた、葵の過去も引き続き謎が謎を呼ぶ展開、というかさらに隠された秘密があったことが浮き彫りになってきて、天神屋に戻ってもそうそう落ち着くことはなさそうですが、それがまた楽しみ楽しみ。

シリーズ感想