リンドウにさよならを (ファミ通文庫)

【リンドウにさよならを】 三田千恵/DANGMILL ファミ通文庫

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想いを寄せていた少女、襟仁遙人の代わりに死んでしまったらしい神田幸久。二年後、自由かつ退屈な日々を過ごす地縛霊として目覚めた彼は、クラスでいじめに遭う穂積美咲にだけ存在を気づかれ、友達になることに。一緒に過ごす内に美咲の愛らしさを知った幸久は、イメチェンを勧め彼女を孤独から解放しようと試みる。少しずつ変わり始める美咲の境遇。それはやがて、幸久が学校に留まる真実に結びついていく―。必然の出会いが紡ぐ、学園青春ストーリー。
ああなるほど、そういうことだったのか。
実のところストーリーの根幹を担う要となる事実については、一つはおおよそ序盤で。もう一つも早いうちから察することは出来ていたのだけれど、序盤から違和感や不自然さを感じていた幾つもの部分についても終盤でことごとく答え合わせのごとくキチンとした理由がある事が明らかになっていって、物語全体が思いの外高い完成度で構築されていたことに否応なく気付かされていく。
「そうだったのか!」
思い違いをスパッとひっくり返される時に感じる痛快感はミステリー仕立ての物語を読んでいる時によく感じるものだけれど、本作のそれは思い描いていた展開をひっくり返される快感とは違う、これまで見えていなかった「人の想い」が次々と紐解かれていくと同時にそこに篭められていた切実な願い、祈り、暖かな気持ちや勇気といったものの存在が確かなものとして証明されていくような、じんわりと心を温めてくれるような感覚だったんですよね。
そして、主人公の幸久が気づいていなかったその事実こそが、鍵となって扉を開き、それぞれの心の部屋の中に閉じ込められたままだったみんなの想いを繋いでいったことがわかった時の、こみ上げてきた優しい気持ち。これをなんと呼ぶべきなのだろう。彼ら若者たちが抱えた痛みを乗り越えた勇気を、讃えて祝福したい想い、とでも言うのだろうか。
辛かっただろう、苦しかっただろう。みんな心から悲鳴をあげながら、日々を耐え忍んできた。孤独でも、諦めずに戦い続けてきたのだ。それでも、うちに抱え込んでいるだけならそこで停止してしまっていただろう。きっかけがあったとは言え、自分の心の内側を他人に曝け出すことの恐ろしさを思えば、奮い立ち自分で決断し、自分の過ちを認め、他人の想いを受け入れて頑張った、頑張った彼らの勇気には敬意を抱かずにはいられない。
そう、勇気だ。
恐れ慄きながら恐る恐るでも前へと踏み出し続けた美咲や、自分の中に生じた気持ちから目をそらさなかった高木綾香も、拠り所となるものを手放して過ちを認めた松下香苗も、彼女らが示した勇気には胸を突かられるような思いだ。否定ではなく、肯定する勇気。簡単なように見えて、それは決して決して簡単に湧き起こるようなものじゃないんだから。
果たして、彼女たちが見せてくれた勇気を、幼なじみの守が示し続けてくれた自分の在り方の肯定をこんな形で目の当たりにしなければ、幸久はあるべき現実を受け入れられただろうか。
さよならを、認められただろうか。
そう考えると、幸久の支えが穂積美咲という少女を救い、支え、彼女に勇気を与えた事実をそのままひっくり返して、彼女が示した勇気こそが最後に幸久に受け入れ、先へと進むための勇気を与えることになったんじゃないだろうか。
神田幸久と襟仁遙人の間に育まれた想いが、こうして色んな人たちの間を巡り巡ってもう一度幸久の元へと戻ってきて彼に未来を与えてくれた。ラストシーンで明かされた真実は、幸久と遥人の間に生まれた想いの旅路であり、その一つの結実であったからこそ、結末であったからこそ、あんな感慨を抱いたのかもしれない。
喜びと、祝福と、終わりの切なさを。
そうして、【リンドウにさよならを】というタイトルを噛みしめる。
永遠の想いを胸に抱きしめながら、でもさよならを告げて、君と長い長い夏の終わりを精一杯の笑顔で見送る青年が横たわる屋上の光景を焼き付ける。

心に残る、文句なしに素晴らしい青春小説でした。これが新人作品かあ、ほんと素晴らしいなあ。