ガールズ&パンツァー 劇場版(上)

【ガールズ&パンツァー 劇場版(上)】 鈴木貴昭 角川書店

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戦車を使った武道―「戦車道」が大和撫子のたしなみとされている世界。学校の存続を懸けた第63回戦車道全高校生大会を優勝で終えた大洗女子学園。廃校を免れ、優勝を記念したエキシビジョンマッチの開催も決定し、大いに湧く大洗の町に、大会を戦い抜いた強豪たちが集結する―。だが、戦いを終えた彼女たちのもとに、文部科学省の担当官が現れる。そして彼から伝えられたのは、学園の廃校と、学園艦からの退艦命令だった―。累計観客動員数138万人突破の、超第人気アニメ映画『ガールズ&パンツァー劇場版』が、『ガールズ&パンツァー』シリーズ、考証・スーパーバイザーの鈴木貴昭による完全書きおろし小説で登場!巻末にはファン垂涎の、各種設定解説も大収録!

著者は『ガールズ&パンツァー』シリーズの各種考証、監修を手掛けた鈴木貴昭さん。ストライク・ウィッチーズの方でも軍事考証など深く関わっていて、作家としても【ストライク・ウィッチーズ アフリカの魔女】シリーズでしっかりと実績があるのであります。
劇場版の映像を思い浮かべながら読むのが一番良いのですけれど、下手なノベライズみたいにト書きでつらつらと出来事が羅列してあるだけの代物ではなく、しっかり読ませてくれる小説になっているのでそのへんは心配なく。
さらに、シリーズ製作の一番根幹に関わっているだけあって、裏話や映像だけではわからなかった設定や裏で起こっていたこと、登場人物の心情、さらに兵器群にまつわるあれこれなんかも描かれていて、劇場版視聴者にとってもガルパンシリーズのファンにとっても、なかなか必読の書でありました。
上巻は、戦車道全国高校生大会の大洗優勝から、大学選抜戦直前まで。
色々と中身読んでいて気になった情報を抜粋していきましょう。

どの学校でも、まともに隊列を組んで行進するに三ヶ月。砲弾を命中させるまでに三ヶ月かかる。それを大洗は素人を一ヶ月で戦えるまでに戦力化した。
大洗の優勝はこれまで文科省が主導して名門校を中心に行っていた選手育成プランを完全崩壊させてしまった。
一応文科省はこの現実を否定するのではなく、むしろ喜ぶべきこととして、新たな教育法によって生成された大洗の選手たちを、他の学校に移して硬直化した戦車道に新風を吹かし、これまで埋もれていた人材を掘り起こして対世界戦を見据え戦車道を活性化させること、を目指すことになる。
これは世界大会には間に合わないが、近い将来を見据えた新体制の構築を模索している、ということなんですね。ただ、その為には新教育法によって育った大洗の選手たちを各校に派遣する必要がある。その為には大洗はやっぱり解体が既定路線、いやむしろ早急に大洗の生徒を転校振り分けすることが提言されることになった。3月予定だった廃艦が繰り上げになったのはこのためらしく、単に予算の問題ではなかった。文科省のあの役人さんは個人的には約束を守りたかったものの、省の方針が明確化していたため官僚としてプラン通り動いていくことになる。

つまり、これを覆すには、大洗の解体以上に各校の戦車道のレベルをあげるプランの提示が必要になったわけですな。
これによって、大学選抜戦が与えるインパクトの意味がわかってくるんだけれど、恐らく始まった段階でそれについてそこまで考えていたのって、工作していたダージリンさまだけだったんでしょう。或いは、ダージリンさまの工作に乗っかった戦車道連盟や西住しほも想定していたのか。


エキシビジョンマッチは優勝校に与えられた権利。相手はベスト4に進出した学校で準優勝校以外。だからセントグロリアーナとプライダだった。
優勝チームは、準優勝校が一回戦で対戦した学校をパートナーに出来る。これが知波単学園。さらにリザーバーで、準優勝校が二回戦で対戦した学校を一両だけ助っ人で呼べる。これが継続高校。なんで一両だけ引っ張ってきて覗いてたのか、の理由がこれか。

卒業する生徒会たち、廃校騒ぎで後継者を決めていなかったのでこの時期に時期生徒会長の選抜をはじめていた。西住みほも候補だったものの、生徒会長には性格的に向いてないと早期に候補から外れる。
上巻では生徒会引き継ぎの話については、さらなる廃艦騒ぎによってこれだけで止まっちゃってるのだけれど、ここで触れられているということは後々色々と絡んでくる、というか角谷会長たち候補は考えてるってことなんだろうけれど、誰なんだろう。

アニメでは出なかった英国巡航戦車クロムウェル。聖グロリアーナでも実はダージリンさまの尽力で導入されていて、対黒森峰女学園戦で投入されていたらしい。そこで盛大に大破してしまったせいで復旧が遅れ、大洗エキシビジョンマッチや大学選抜戦ではローズヒップはクルセイダーでの参戦となる。
聖グロリアーナではマチルダ会、チャーチル会、クルセイダー会というOG会が非常に強い力を持っていて、現役生にも色々と口出ししてくるらしい。そのため、新戦力の導入は非常に難しく、そんな雁字搦めのなかでダージリンさまはジリジリと改革を進めていて、このクロムウェル巡航戦車導入もその一つだったらしい。
彼女の伝統墨守相手の苦闘と、大洗戦、大学選抜戦を経ての改革への飛躍は【リボンの武者】などのスピンオフなどでも描かれている。

映画はいきなりエキシビジョンマッチの途中からはじまったわけだけれど、ダージリンさまがゴルフ場のバンカーに押し込まれ、プラウダ高校やクルセイダー部隊と分断されてしまった、試合スタート時からの展開もちゃんと本作では描かれている。
西住みほの得意な戦法は敵を分散させての各個撃破なのだけれど、それは既にみんなには知れ渡っているわけで、プラウダも聖グロリアーナも大洗の夏祭りにかこつけて会場となる大洗の街はくまなく探索されている。道路幅の測距など、レーザー測距儀なども使ってやってた、というから本格的である。
試合の後半、聖グロリアーナやプラウダが町並みに精通していて簡単に分断されず、先回りなども多様していたのはそのお陰もあるのだろう。はじめての聖グロリアーナとの練習試合でグロリアーナ側が市街戦で翻弄された当時からすると、かなり状況は変わっている。が、それでも細かな上り下りや傾斜カーブなど、大洗側は十分に地元の利を利用しているので、やはりホームグラウンドというのはアドバンテージが大きいのだろう。

ここでは、知波単学園との共闘を強く意識した西住みほ隊長の大体な冒頭から全車一丸になってフラッグ車への突撃、という大胆すぎる戦法に打って出たのだ。これに対して、みほの奇襲戦法を警戒したグロプラ連合は部隊を3つに分けて慎重な防御態勢をとったわけだけれど、まさに真正面からの奇策に翻弄されることになる。
ここまではみほが完全にイニシアティブを握ったわけだけれど、ここから粘りに粘ったダージリンさまの冷静な指揮の練達さが際立つんですよね。
映画は、まさにダージリンさまが状況を膠着状態にまで持ち込んだところからはじまるのである。
勿論、速攻で救援に駆けつけようとしたプライダ勢をほぼ押さえ込んでみせた、遅滞戦術用小部隊を率いたレオポンさんチームもまた際立つんですよねえ。単にポルシェティーガーという最強戦力というだけではなく、みほはレオポンさんチームを小隊指揮官として相当信任している節が伺える。

聖グロリアーナの戦車内のティーセットは、乗員の持ち込みじゃなくて戦車備え付けでその戦車に因んだ由緒あるものが使われている。ので、テレビシリーズでダージリンが割ったとき、代わりを手に入れるのはかなり苦労したらしい。
聖グロの一年生は、戦車の扱い方と同時に紅茶の淹れ方とカップの扱い方を学ばされる。ダージリンさまのあれは、伝統であって別に個人の趣味ではなく、まだローズヒップのあの暴れ紅茶も決してダージリンさまの真似を無理にしているわけではないのだ、きっと。

映画で、知波単学園がマチルダ兇魴眷砲靴董大喜びしていたあのシーン。実は知波単学園細見車が撃破したというのは誤認であって、実際に撃破したのはカバさんチームの三号突撃砲だった、という事実が発覚!
なので、知波単学園側の初撃破の栄誉は、立体駐車場でルクリリを撃破した福田だったりする。

テレビシリーズから注目を集めていたバレー部アヒルさんチームの八九式中戦車砲手佐々木あけびの命中率の高さ。もし、もっと強力な戦車に乗り換えたら戦果も跳ね上がるだろうに、という話題は以前から出てましたけれど、あれは小さな八九式の主砲だからで、もっと大型の砲となるとハンドルによる制御などの理由でそれまでと同じ命中精度を出せるかは不明らしい。

みほが時々見せる怖いもの知らずの突進は西住流らしい。エキシビジョンマッチの随所でみほの西住流らしい戦車の扱い方が垣間見えて、聖グロやプラウダの選手たちを戦慄させている。本家から離れることになったみほであり、彼女なりの戦車道を構築している最中だけれどやはり根っこには西住流の真髄が根付いているのだ。

ローズヒップの飼い主の手から紐が離れてしまった元気一杯のワンコっぷりは、小説になると余計に際立つ。ダージリンサイド、殆どローズヒップがどこに行ったか把握してない。まさに解き放たれたワンコである。

ダージリンさま、角谷会長に密かに大洗廃校が伝えられる段階で、既に調査を開始していた。具体的には、あのみんなでお風呂、のシーンで既にアッサムに調査の指示を出している。相当早くに事態の全貌把握に動いていた模様。まあでないと、あれだけ裏で動けないか。

大洗の戦車を運んでいったサンダースのギャラクシー輸送機は、サンダース仕様の特別機らしい。なので、大洗の全車両を積んでも余裕余裕。

大学選抜戦で集まった他校の生徒たちが来ていた大洗高校の制服。大洗学園艦廃艦に合わせて投げ売りされていた制服を、ダージリンさまがアッサムに買い集めさせたもの。この段階で、ダージリンさまは角谷会長の目論見について予測していた上で、乱入を画策していた事になる。
ちなみに、まだこの段階では角谷会長は大洗廃艦撤回の念書を取り付けるまでに至っていない。

サンダースから送り返された戦車、洗車や整備までしっかりされていて、傷んでいた部品を新品に交換までしていてくれたらしい。好意が身に染みる。

蝶野亜美教官。戦車道全国高校生大会で単騎駆け十五両抜き。一二時間一騎打ちという伝説を残しているらしい。十五両抜きはともかく、十二時間一騎打ちって燃料と弾薬が持つんだろうか、という以前に相手誰だよw
陸自富士学校富士教導団戦車教導隊所属。実業団リーグ富士チーム所属ということで、プロリーグの強化委員であると当時に現役選手でもあるわけで、実業団リーグパねえ。
その社会人チームに勝った大学選抜、どれだけヤバイんだよ、という話である。ちなみに島田流が勝った相手は関西リーグの二位のチームらしい。社会人でも雑魚チームではないのだ。

大学選抜との試合が決まった時点で、実はサンダースやプラウダはじめとして各校から、戦車の提供など支援の話が舞い込んでいたらしい。しかし、ルール上他校からの支援はダメ、とのことで片っ端から断らざるを得なかった模様。
ダージリンさまは、制服を買い集めた時点で既にこのルールを把握した上で動いていたことになるわけだ。

こうしてみると、劇場版の裏主人公がダージリンさまだ、というのがよく分かる。

あと、小説で読んでもみほの帰郷と姉のまほとの再会は心がほんのりと温まる。幼いころの姉との思い出が途切れないまま、姉妹の仲も変わらない故郷の風景と同じように続いていることが実感できるエピソードだった。
ちなみに、あの二号戦車でまほみほ姉妹が笑ってる写真を撮ったの、しほお母さんなんですなあ。

巻末には作中に登場した兵器などの解説が、ガルパン作中での取扱事情や運用事情込みでかなり詳細にされていて、これも読み応えタップリである。
単行本だけに値段的にもなかなか手出ししにくいものはあるのですが、これは読んどいて損はなかったですなあ。

鈴木貴昭作品感想