幼女戦記 (1) Deus lo vult

【幼女戦記 1.Deus lo vult】 カルロ・ゼン/篠月しのぶ エンターブレイン

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金髪、碧眼そして白く透き通った肌の幼女が、空を飛び、容赦なく敵を撃ち落とす。
幼女らしい舌足らずさで軍を指揮する彼女の名はターニャ・デグレチャフ。
だが、その中身は、神の暴走により幼女へと生まれ変わることとなった日本のエリートサラリーマン。
効率化と自らの出世をなにより優先する幼女デグレチャフは、帝国軍魔導士の中でも最も危険な存在へとなっていく――。
おお、思ってたよりも分厚い。読んでも読んでも終わらなくて結構時間が掛かってしまった。アニメの方って、一巻分で五話くらいまで行ってたんだ。ということは、ストックだけなら相当あるんだなあ。
というわけで、アニメからの参入組。ウェブ掲載時から関心はあっていつかは読もうと思いながら幾星霜。書籍化どころかアニメ化までしてしまいましたよ。かなり濃度が高い文章がかなりの分量蓄積されてたんで軽々に読み始めること叶わなかったんですよね。とか言ってる間にここまで来てしまったのでどうしようもないのですが。
ともあれアニメという機会を得て、こうして書籍を……購入は実は結構前にしてたんですけどね、ともかく読むに至ったわけですから、アニメ化の影響ってのはやっぱり大きいんだなあと実体験で実感しております。
しかし、これ一度アニメという映像情報を入力してから読んで良かったですよ。これ、文章からだと結構イメージ湧きにくかったと思います。特に戦闘シーンなんぞは。一概にアニメの航空戦なんかが最良なものとはさすがに思わないんですけれど、イメージを固めるのに大まかな方向性を得るには十分な足がかりでした。
あと、声ね。これはもう悠木碧さんさまさまですなあ。もう完全にあの舌っ足らずの冷血声でイメージが固着されましたし、幼女でありながら軍人の中の軍人という矛盾した歪な存在をこれ以上無くしっかりと思い描くことが出来ましたし。
でもこう、意外と言えば意外なのですけれど、デグさん思ってたよりもマトモな感じするんですよねえ。もっと内面描写を目の当たりにするとヤバイ人なのかと思ってましたけれど、俗物極まるし他人に対して共感能力をあんまり持ってないし、戦略的な視野を持ってると評される割に内実は近視眼的というか先を見ているようで足元しか見て無くてよく頭ぶつけてるみたいな人なんだけれど、人格破綻者という程じゃあないんですよねえ。
そりゃあ、他人のこと人を人とも思ってない冷血人間ですけれど。情とかあんまり殆ど持ち合わせてないタイプですけれど。でも、善悪の区別はつくし(必要とあらば一顧だにしないしないにしても)、人間の持つ情は理解しているし(考慮するかは別にして)、それらを別に見下したり蔑視しておらず理性を以てそれらが社会的に評価され重要視されるものとして扱っているわけだし、社会秩序や人間の理性に対する破壊者ではないんですよね。
社会自体が狂気の方向に舵を切っても、一切ブレずに乗っかり続けるという意味では危険なのかもしれないけれど、彼女自身が主体的に危険な方、狂気の方角に社会を牽引するというタイプじゃないんですよね。
そりゃあもう、尋常ならざる人でなしではあるんだけれど。でも、この段階だと実際の人間性がどれだけあかんくても、周りの人はそれを実感するような行為を受けたわけじゃないですし、彼女が実際何を考えていたとしても結果は彼女に与えられている評価が示している以外のナニモノでもないわけで、レルゲン参謀のそれはまあ言い掛かりでしかないんだよなあ。彼のテグ氏への危険視も、半分的外れではあるわけだし。
そんでもって、テグ氏の愛嬌となっているのはその幼女な外装と内面のギャップもさることながら、その人でなしな俗物の在り方に対して、ほぼ常に痛い目見続けてる、或いは自業自得で責任を負い続けて一番キツイ部分を実行し続けているところなんですよね。
つまるところ、わりと頻繁に「ざまぁ」と喰らい続けている、と。そうでありながら、この人懲りないのである。全然懲りないのである。数々の失敗と言うか思惑を踏み外す原因となるところはわりと一貫して同じなのに、その部分についてはまあ反省しないどころか、自覚もないっぽいんですよねえ。なので懲りない。実にウキウキと楽しげに自分だけの利益を甘受しようとして下ばっかり見てて、頭を梁にぶつけるのである。理性の怪物でありながら、出世欲という欲望、或いは本能に関しては忠実すぎるほど忠実というべきなのか。
神もまあ、呆れるわけである。
とはいえ、その神もその理不尽さにかけてはひどいものだ。ってか、存在X、初対面時にテグ氏となるサラリーマン氏に思いっきり論破されかかってたように見えたんですが。思ってたより言い負かされてたし!もろ逆ギレじゃねえかw
あの神のマッチポンプには、さすがにテグ氏に同情してしまいます。人間の理性と意思の信奉者にとっちゃあひでえ扱いだもんなあ。あれは悪魔呼ばわりされても仕方ないというか、悪魔のほうがまだ契約方面に誠実な気がします。

さて、国際情勢と戦争についてですが、アニメだとさすがに国際情勢よくわからんかったのですが、こっちを読むと整理されていてかなりわかりやすかったです。
テグ氏の提唱した世界大戦という概念に対する衝撃も、協商との開戦から共和国の参戦という過程の実態を見ているとかなり実感として危機感を得られるものでしたし。
それに、協商との開戦から西部戦線のあの大ピンチっぷり、何が起こってどうなってたのか。なるほど、そりゃ帝国側、大悪手を打ってしまってたんだなあ。そりゃあ、事前に長年かけて準備していた戦争計画を目先の利益にかまけて自分で台無しにしちゃってたら、計画そのものがいきなり破綻してしまうのも無理ないですがな。
内戦作戦の難しさは、帝国の地政学的立ち位置も相まって考えさせられるところですけれど、だからこそあれだけ綿密に計画してたのに……。
物凄く雑な参照例ですが、シミュレーションゲームの【信長の野望】なんかでわりと似たようなことは良くやらかしましたねえ。織田包囲網シナリオの織田家プレイなんかしてると、結構実感できるんじゃないでしょうか、この帝国の苦闘なんかは。