近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係 (ファミ通文庫)

【近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係】 久遠侑/和遥キナ ファミ通文庫

Amazon
Kindle B☆W

母と二人で暮らす家で、遠い親戚の女子、和泉里奈と同居することになった坂本健一。里奈の控えめな性格や気遣い、女子校育ちの無防備さは、他人との距離に悩む健一に、初めて思春期の性を意識させる。同じ十七歳の女子と一つ屋根の下で生活していることを友人達にも隠そうとしていた健一だが、幼い頃からの腐れ縁、森由梨子に知られてしまい、彼女との距離感にも微かな変化がもたらされることに―。多感に揺らめく十七歳を映し出す、恋愛ストーリー。
こういう思春期の青少年たちの繊細な内面の揺れをすくい上げていく作品で、主人公視点のみに視界を限定されていると周りの人達が何を考えているのか、何を感じているのかが本当に不鮮明でハラハラしてしまう。何気にここで主人公の察しが良すぎたり悪すぎたりすると、途端に不細工な物語になってしまうのだけれど、本作はそのあたりの視点の主観のバランスが非常に良くて自分の感情の動きを捉えきれていないのと合わせて、生々しいくらいで凄くいいんですよねえ。前作も、登場人物たちの内面の触れ方、見え方がとても丁寧で良かったんだけれど、その良さを失わずに見事にこの次回作に繋いでいるなあ、というのが所感でありました。
イベントとしてはこれといった大きな出来事があるわけではなく、冒頭の和泉が一緒に暮らすようになった段から淡々と続く日常生活が、むしろ派手なイベントを盛り込まない分じんわりと染み込むような浸透力があるんですよねえ。和泉が一緒に生活する中で段々と緊張が解けてきて慣れてくる描写も、大きな振れ幅がないからこそ本当に細かい変化の蓄積を描写できていて、これってむしろ大きく動かないからこその描き方だよなあ、と。スポットを彼女との生活に限定せずに、等価で学校生活の方、由梨子とのやりとりの方にも重きが割かれていて、だからこそ和泉の登場によって起こった本当に小さな小さな変化の蓄積と、由梨子がそれを感じっていく様子が浮き彫りに出来るんですよね。これ、本当にちみっちゃいミリ単位の変化で、実のところ当事者である健一の視点からすると何も動いていないにも等しいんですよ。でも、周りの人からするとその僅かな変化が、無視できないものだったんだなあというのがそれぞれの反応から伝わってくるのである。
この健一と、今一人暮らししている兄に対する母親の評価がなかなか面白くて、他人との距離感が物理的に取れなくて危なっかしかった兄と、それに比べて適切な距離を取ることに長けていて手がかからなかった弟の健一、という評価は何気にこの主人公の、適切な距離を取るに長けているからこそ距離を近づける、距離を近づけられるということに関して、ひどく不器用で無頓着で鈍いというところに繋がっているようなきがするんですよね。実際、兄のほうがまあ外から客観的に見られたからにしろ、僅かな時間で彼を取り巻く感情のせめぎ合いについて把握して、健一に忠告していたことからもよく人間関係について見ることができてるんですよね。それが、遠慮なくぶつかり合える在り方に寄っているのかはわかりませんけれど。兄のコミュ力もまあ結構空疎、とまでは言わないまでもある種の距離感の取り方のうまさの賜物であることは、母親との久々の再会にタジタジとなって苦手感思いっきり出していたことからも明らかなわけですし。それでも、弟よりはよっぽど見れてるもんなあ。
健一視点では特に何も感じること無く日常風景として流れていく幾つものシーンが、でも客観的に捉え直すと由梨子の複雑極まる内面の嵐がちゃんと映ってるんですよねえ。兄のおごりで焼肉食いに行ったときはさすがにあからさますぎるくらいでしたけど。いやああれは兄でなくても気づくかなあ。
ただ、由梨子への態度はそのまま気安さであり、距離感の近さでもあったと思うので、由梨子の焦りは的外れ……というには、終盤の和泉への健一の複雑な心境からしても的外れではないのかもしれないですが。というよりも、敏感に感じたのか。それまでは、由梨子もそこまで過剰に反応してませんでしたしねえ。
ラストに投下された爆弾の直撃。それまでの淡々とすらあった日常の展開からすると、そりゃもう思い切った行為であり、ちょっとカッコイイくらいの勇気の発露で、個人的にはこっち応援したいのだけれど、果たしてどうコロンでいくのかまだまだ予断がつかない開幕回。いずれにしても、なんですなー、青春ですなー。

久遠侑作品感想