暗極の星に道を問え (電撃文庫)

【暗極の星に道を問え】 エドワード・スミス/クレタ 電撃文庫

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人々の期待を背負って、強大なる魔王を討ち果たした少年トウカは、勇者として華々しく国に凱旋した。しかし、彼に報いるべき王家は非情にも裏切り、少年の命を奪い取ってしまう。この日、ひとりの勇者が死んだ。宇宙に漂う巨大な竜骸で形成された惑星。そこに生まれ、数奇なる運命に導かれる、かつて勇者と呼ばれた少年の物語。復讐の刃とともに厳しく荒れ果てた地を彷徨う彼の行く手に、希望という名の光明は差すのだろうか?いま、禁断の叙事詩が紐解かれる―。
この巨大な竜の骸が宇宙空間で惑星となっていくという冒頭からの世界観がまたグッと雰囲気を作ってくれて、好きだなあこれ。
前作【竜は神代の導標となるか】でとびっきりの群像戦記を見せてくれた作者の新作は、人間に裏切られ復讐者と化した勇者の戦争を描いたダークファンタジー。
元は田舎から出てきた純朴な少年であった勇者が、友人であったはずの王子に裏切られ、一緒に魔族と戦ってくれた旅の仲間を殺され、自分も殺されかけ、故郷は焼かれ、亡き母の墓まで暴かれ、とただ裏切られるだけじゃない、人としての尊厳まで徹底的に貶められ踏み躙られて、とこれでもかと叩き潰してくるんですよね。
優しく朴訥だった少年が、憎悪と怒りに焼かれるまでになってしまうほどに。
ただ面白いのはここまでされながら、トウカは復讐者と成り果てながらも復讐に狂いはしないのである。ロンドリアム王家とその支配下にある人間たちを憎しみながら、自分を助けてくれた人たちには誠実であり続けるんですね。人間たちに虐げられた者たち、かつて自分が殺した魔王の率いた魔族たちや森人、獣人たちを糾合してロンドリアム王家と人間たちと戦うことになるわけだけれど、トウカの中では復讐と彼らの救済は等価であって決して復讐のための道具にはしようとしないのだ。誠実に、真摯に、王家の悪業によって荒れ果てた土地を回復し、そこで逼塞していた、虐げられ貶められ踏み躙られてきた亜人種たちのために剣を振るおうとする。トウカが滾らせる炎は仄暗く決して明るいものではないのだけれど、それでも正しき怒りであり続けるのだ。かつて彼が持っていた優しさも、純朴さも何一つ失われないままなのだ、ということが彼の幾つもの言動から窺い知れる。しかし、そうでありながらいささかの容赦もなく、躊躇もなく、王家の人間や勇者暗殺に関わった者のみならず、王家の軍に所属する人間の兵士たちを殺戮していく非情な姿は鮮烈なんですよねえ。
同時に、自分を死地から救ってくれた王女リリエラへの恩義と好意は失わずに、同じく王家から追放された彼女を救うに躊躇いはなかったし、勇者の反逆という事実に疑問を感じていた兵士に対しても無体なことはしなかったり、と人間に対する理性や情は決して失われていないことはわかるだけに、余計に彼を振り切らせてしまったアズハール王子や王家のやり口には怒りを禁じ得ないのである。
まあ立派に悪役をやっている、とも言えるんだけれど。
この世界の場合、魔族よりも人間たちの方が圧倒的に大勢力という情勢も大きいんでしょうけどね。魔王討伐なんて言っても、魔族という弱小と言っていい辺境蛮族の反乱、みたいなものだったみたいですし。蛮族って言ってもゲルマン民族とか北方騎馬民族のような強大極まる大蛮夷なんてもんじゃとてもじゃなくて、魔術という要素があったとしても、人類存亡の危機というほどではなかったっぽいんですよね。魔族も、森人も、最後に仲間になる獣人の群れも、みんな「戦争」という行為にはまったく慣れ親しんでいない素朴な生き方に従事している民たちで、狡猾で強大な人間たちの国家に比べるとあまりに小さく弱くズルさというものを知らなさすぎるのである。
だからこそ、それら弱き者たち、虐げられし者たちを纏めて立ち上がった元勇者の、これは復讐譚ではなく英雄譚となるのだろう。踏み躙られてきた者たちの怒りを、恨みを、憎しみを、煽って狂わせるのではなく、正しく剣と成して振るおうとする新たな魔王の物語になるのだろう。魔族の姫は怒りを共にしその意思を支えて戦い、人間の姫はその志を守りながら心が狂わないように制止し続ける。異なる思いを抱いて同じ人を想う両輪となるヒロインが上手く対比となりつつ、主人公にとっての大事な存在になってて良く配置できていた一方で、まだまだ味方となる陣営のキャラクター……自体は立ってるんだけれど、勢力としての描き方がまだピリッとしていない感じかなあ。人間サイドも、王子が思ったよりも悪役として映えきれなかったのがちと痛い。
前作を見ても作者はむしろスロースターターだと感じているだけに、巻を重ねるごとに物語としても登場人物にも重厚感が出てくるだろうことは大いに期待しているのだけれど。群像劇として前作が傑作だっただけに尚更に。
まあいずれにしても、こっからだ。

エドワード・スミス作品感想