永き聖戦の後に ストレイ・シープ (角川スニーカー文庫)

【永き聖戦の後に ストレイ・シープ】 榊一郎/猫缶まっしぐら(ニトロプラス) 角川スニーカー文庫

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Kindle B☆W
魔族との大戦争が終わって七年。魔物は人類に飼われ、魔力源として利用されていた―。魔王を討伐した英雄の生き残りであるジンゴは、城塞都市の片隅で騎士に追われる少女・メイベルを成り行きで助けてしまう。少女を知人の“宿”に預けようとするジンゴだったが、突如現れた魔王の亡霊から「メイベルを守ってやってくれ」と不可解な頼み事を持ちかけられて―!?元・勇者の孤独な戦いを描く、本格マジックパンク・ファンタジー!

図らずも先日読んだ【暗極の星に道を問え】と同じく、魔王討伐の任を果たしたはずの勇者が帰還したところを権力者に裏切られて仲間たちを殺され、自身はようやく逃げ延びてドロップアウト、という構図なのだけれど、あちらが虐げられた存在の救世主として復讐者ながら王道を歩み出すのとは裏腹に、こっちはさっさと首謀者は逆襲して抹殺したものの寄って立つものを失ってドロップアウトしてしまう、というなかなか厳しい環境で。
面白いのは、勇者と名前がついている存在は称号ではなくてある種の記号であって、戦闘用に改造された改造人間が勇者という名称で呼ばれているに過ぎない、ってところですか。変身こそしないものの、仮面ライダーとか人造人間、或いは戦闘サイボーグってノリなんですよね。主人公のジンゴも、手のひらに接続端子がついてて専用武器と接続連結して体内の蓄積魔力を武器に付与するという機能付きですし。
この魔法文明ながら機械機械した世界観こそが、あらすじ曰くのマジックパンクなんだろうなあ。そして、榊さんの得意ジャンルでもあるわけなんだけれど、今回は特にスチームパンクっぽさが出てて雰囲気としては非常に好み。好みといえば主人公が中身が枯れまくった青年なのもいいんですよね。作者の描く主人公ってだいたい真面目で面白みの薄い男の子か、若干人生に疲れたか精神的に枯れてる青年なんだけれど、だいたい好きなのは後者の方なんですよね。【棄てプリ】から【ストレイト・ジャケット】から【棺姫のチャイカ】なんかね。
枯れている分だいたい受動的なせいか、わりと状況のほうがよく動いて主人公を無理やり動かそうとするのと同時に、ヒロインの方がけっこうガンガンと自分から動いてくれるので目立ちやすい、というのもあるのかなあ。
その点においては、本作のヒロインであるところのメイベルはまだ自分の置かれた立場に対する理解も自覚もなく、能力的にもほぼ一般人でしかないので自分から動けるところにおらず、今のところ何もできていないのだけれど。精々掃除くらいで。
そもそも物語自体がまだ導入段階過ぎて、何が起こっているのか、何が起ころうとしているのかが読者含め作中の主要人物たちも殆ど見地を得ておらず、取り敢えず一通りの役者が舞台の上にあがったところ、というくらいなのでやや進展は遅いかもしれない。
その分、このマジックパンクな世界観の描写に筆が割かれている、という感じはあるのかなあ。この、人類存亡の危機を脱して復興を果たしつつある世界、というわりにある種の退廃感が濃厚に漂うアングラな空気はほんと好きなので、堪能したと言えば堪能したんだけれど、物語としてまことに楽しむをはじめるのは次巻を待たないといけないかもしれない。

榊一郎作品感想