封印少女と復讐者の運命式 (ダッシュエックス文庫)

【封印少女と復讐者の運命式(リベリオン・コード)】 伊瀬ネキセ/墨洲 ダッシュエックス文庫

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超巨大構造体“エデン”。この破壊不能な機械の迷宮の中で人々は生まれ、死んでいく。かつて復讐に燃え、果たすこと叶わずに流浪の身となった元特殊部隊の青年・ノオト。あるとき彼は、“エデン”を徘徊する最悪の殺戮兵器“アフレイド”の中でも、絶対に出会ってはいけないとされる“封印少女”イドアリスと遭遇する。「人間になりたい」と告げ、強引に同行するイドアリス。それを機に、彼の復讐は再び動き出す。仲間を襲った青白い髪のアフレイド“姫”がノオトの前に姿を現したとき、彼は機械を暗殺する“最強のなりそこない”へと立ち戻る!!烈火のごとき殺戮プログラムに仕組まれた決戦が、今始まる―。
星全体を歯車に置き換えてしまった【クロックワーク・プラネット】も舞台としては壮絶でありましたけれど、本作におけるこの「エデン」というのもまた人間が暮らす環境としては凄まじいの一言。最初、いまいち説明が足りないまま話が進んでしまったのでどういう世界観か理解するのに手間取ったのだけれど、把握すればするほどにちょっとどころじゃなくゾッとしない世界なんですよね。
一番わかりやすい例えを探すなら、映画「CUBE」の舞台となる立方体のような構造物の中で、人類が生存しているという感じかしら。最初はスペースコロニーとか、SF映画に出て来る巨大構造物みたいな感じなのかと思ってたんだけれど、都市や村みたいなコミュニティーを形成できる空間があるものの、基本的に細かく扉に寄って仕切られた密閉空間で、ダクトの中っぽいのよねえ。
ただまあ、生活する空間としてそれが適当かどうかはともかくとして、一応基本的な生活が出来るように作られているのだから適応すればそれはそれで、と思ってはいたんだけれどこの世界が恐ろしいところは人工的で制限された環境、というところじゃなかったのである。
恐ろしいことに、このエデンという構造物、中にいる人が関知しないところで唐突に扉が閉まって開かなくなる「封印」という事態が発生するのであるという。それが個室で、中に人が居ようが関係なく、またそれが他の地域に繋がる重要な通路であろうと関係なく。ある日突然、外に出られなくなって閉じ込められるかもしれない。ある日突然、他の街から隔離されて連絡不能になるかもしれない。まるで法則もなく唐突で理不尽な扉の「封印」が発生するのを恐れながら生きる恐怖。いや、このエデンで暮らしている人の大半はこの「封印」というものを避けられない天災や、神意のようなものと捉えていて、粛々と受け入れてるんですよね。それを適応と言ってしまっていいのか。
一番ぞっとしたのが、主人公がとある区画へ向かう最中に、小さな狭い密閉された部屋に40年閉じ込められていた老婆と行き違ったシーンでした。いや、そんな何十年も他人と会うことも喋ることもなかった人間が正気を保っているのか、普通に喋ることが出来るのか、という疑問があるにしても、そういう事が当たり前のように起こりえる世界、というのはやはり恐ろしい。怪異やオカルトによるホラーじゃないんですけどねえ、怖い話ですよ。
その上さらに、エデンには人間を殺して回る殺戮兵器が徘徊しているわけで、生活に必要な物資は供給装置からの最低限の配給のみ。よっぽど大きな都市以外ではただ生きるだけで精一杯っぽいし、娯楽に関するものも皆無っぽいし、これってかなりディストピアですよなあ。
そんな世界の成り立ちへと急迫する「封印少女」と呼ばれる機械人形たちとの遭遇。主人公からしてアフレイドの因子を埋め込まれた特殊部隊の改造人間、という在り方で半分以上人間辞めているんですが、そもそも人工的に生み出された機械人形である封印少女たちが、例えば人になろうとして人に寄り添おうとし、また自分を縛る憎しみという感情から逃れるためにすべてを破壊しようとする。それぞれのやり方で人間に近づこうとする、機械と人の境界の物語なんですよねえ、これ。人間側の登場人物も、この惨たらしいくらいの無慈悲な世界の中で精一杯人間らしく生きている、頑張っている健気で良い人たちなんですよね。まあ、主人公と直接関わり合いになる範囲の人間のお話ではあるんですけれど。
そして、復讐する側と復讐される側双方がぶつかり憎しみ合い殺し合った末にお互いを理解してしまって救われる稀有な物語でもあるんですよねえ。それが悲しい救いであったとしても、憎しみ合ったまま終わるよりはよっぽど良かった。
同時にまた、遺志を受け継ぐ物語でもある。イドアリスという、会話の内容からしてポンコツ臭が漂う天然ボケ機械少女。この子もまた、命を繋ぐ存在なんですよね。彼女のあのトンチキな性格からして、決して無意味にそう在ったわけじゃなく、然るべき理由と歴史と意思と愛情と決意の形なわけである。あの面白い性格は、実によい愛嬌で、ヒロインとしても十分可愛らしいと思うのよ、うん。
舞台にもキャラにも熱い想いが篭められた、これは良作でしたねえ。