女流棋士は三度殺される (宝島社文庫)

【女流棋士は三度殺される】 はまだ語録 宝島社文庫

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かつて天才少年と呼ばれた松森香丞。とある事件をきっかけにプロ棋士の道を諦めた彼は、高校の将棋部でひっそりと活動している。ひと癖もふた癖もある幽霊部員たちに悩まされながら、文化祭の準備をしていたある日、幼馴染みの少女が血塗れで倒れているのを発見する。彼女を襲った犯人を見つけるため、調査を始める香丞だったが、彼女の過去と将棋には大きな秘密があるのだった。
舞台となるのが2030年代なので近未来は近未来でも至近未来と言ってもいいくらいの近い将来なんですよね。なんでわざわざそんな近い未来にしたのか。現代そのままじゃだめだったのか、という点に関してはまあ事件にまつわることとか将棋界の行く末的なこと。今猛威を奮っているコンピューター将棋の発展など、遠すぎないけれど現代じゃない時代背景が必要だった、というのはよくわかる。話の根幹に関わる部分でもありますからねえ。
でも、ここまで近い将来だと、あれやこれやのネタってちょっと未来技術すぎるんじゃないかとも思うんですよね。うーん、でも今から十六・七年前を想起するとスマホやタブレット、VRだって未来技術と言って過言ではないくらい遠い先の技術だと思っていたので、決してあり得ないことではないのかしらん。
むしろ、技術的なことよりも現在の将棋界の極々近い地続きの未来を描きたかったのかもしれない。十数年先なら今活躍している棋士たちもそのまま現役で頑張っているだろうから、主人公たちがこれらの棋士たちのネタは話を雑談していてもおかしくはないですからねえ。
ただまあ、当然なんですけれどこれらの現役棋士ネタは作中で経過している十数年分の空白があるんですよね。お陰でこれら話の話題に出てくる棋士たちの、2030年代の姿があんまり見えてこない、というよりも今の彼らの姿がそのまま転写されているかのような違和感があるんだなあ。将棋界が辿ろうとしている未来への警句は理解できるんだけれど、棋士たちが2017年の今現在までの姿しか想起できないから、いまいち実感を伴って2030年代の将棋界の状況が把握しきれないというかなんというか。将棋AIが猛威を奮っているという状況もね、わかるはわかるんだけれど具体的な様子がねえ。なので、か。主人公の香丞が将棋のプロを目指さなかった理由の一つや、これから棋士を目指している若い子たちの危機感というものをなかなか共有しにくかった部分が多いんですよね。ここが一番重要だったにも関わらず。
あと、薀蓄のはさみ方があんまり上手くない。話の流れに馴染んでなくて、ぶった切った上で薀蓄話自体がどうも浮いちゃってるんですよねえ。かなり頻繁に薀蓄がある分、尚更にぶつ切り感がキツイことに……。個人的に薀蓄が多くある話は好きな方なのですが、なるほど話の中に薀蓄を滑り込ませるのは決して簡単じゃあないんだなあ、というのがよくわかった。
話自体は幼なじみの女流棋士が血まみれで倒れていた事件の謎を解いていくミステリーなのだけれど、こうして振り返ってみると結構不自然な流れも多かった気がしますねえ。話の転がし方といい、個々の感情表現や周囲の様子など、ところどころで「え?」と躓いてしまうような感覚を味わうことがありました。全体的にぎこちなかった、というべきかなあ。
タイトルに篭められていた意味なんか、わかってみると面白かったんですけどね。

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