魔女の旅々 (GAノベル)

【魔女の旅々】  白石定規/あずーる GAノベル

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あるところに旅の魔女がいました。彼女の名はイレイナ。旅人として、色々な国や人と出逢いながら、長い長い旅を続けています。魔法使いしか受け入れない国、筋肉が大好きな巨漢、死の淵で恋人の帰りを待つ青年、滅んでしまった国に独り取り残された王女、そして魔女自身のこれまでとこれからのこと。わけのわからない可笑しな人や、誰かの美しい日常に触れながら、今日も今日とて魔女は出逢いと別れの物語を紡いでいきます。「構わないでください。私、旅人なものですから。先を急がなければならないのです」
魔女の旅々……「旅々」ってなんぞや!? ってかなんて読むんだ? と思ってたらちゃんとあとがきで解説があって、「たびたび」と読むそうです。そんな言葉あったっけ、となるのも当然で作者の造語だそうで。でも、見たことがない字面だけに、印象には凄く残ったんですよね。当初案の「魔女の旅」では全然記憶に残らなかった可能性も高く、何となく目に残ってしまうこの「旅々」というタイトルは成功だったんじゃないでしょうか。私もずっとなんか引っかかってましたからねえ。
物語のスタイルは幾つもの掌編を連ねていくタイプの短編集であり、灰の魔女イレイナが旅する先で出会う様々な人々、その土地の不思議な風俗なんかをイレイナの目を通して描いていく旅情モノ。ってか、先人たる「キノの旅」の後を行く同系統の作品となるんでしょうねえ。あちらほど御伽噺というか理屈を超えた摩訶不思議な空気感があるわけじゃなく、だからこそ登場する人物の心映や国情なんかは生々しい現実感があるのですが。
面白いのは、魔女イレイナは旅を好む好奇心の塊みたいな少女であると同時に、旅人としての分を弁えてる、というところでしょうか。人の良さもあって、決して人付き合いは悪くなく住民との交流も積極的なのですが、ある一線、「あ、こりゃあかん」と思った時のばっさり割り切って尻尾をまくる、あの危機感の高さというか見切りの速さはこの手の物語の主人公としては特筆に値するものがあるんじゃないでしょうか。ヤバイところに首突っ込まないんですよね。人助けはするのですが、手に負えないと判断したら迷わず退却を選択する、これは他人の事情に介入して最後まで事を見届けることの多い主人公タイプには見られない傾向で、このあとどうなったんだろうと気になってしまうほど話自体もばっさり終わってしまってる作品がけっこうあるんですよね。それが逆に妙に面白いなあ、と思うわけで。
イレイナ自身、決して深い事情を持っているキャラクターではなく、両親も元気に健在であり旅をしているのも幼少期にとある本に影響を受けて、というものであり、まったくの好奇心からなんですよね。ちなみに、彼女が旅に出ることを志す経緯に関しては、あとあとある種の連環というか受け継がれていくモノがあるというのが発覚して、思わずニマニマしてしまうのですが。
ただ旅をしたいから旅をする。母や師匠の言いつけをちゃんと守って、変に深入りしないようにしてるあたりもえらい真っ当な娘なんですなあ。とても感情が素直で、だからこそ出会う人によって垣間見せる色んな顔が興味深い。やっぱり、師匠との再会のお話あたりが一番素敵で好きなのですが。出会いと別れの繰り返しの先に、懐かしい再会もあり、ってのは心地よい変転じゃあないですか。
盛り上がり自体は決して多くはないわりと淡々とした作りではありますが、じんわりと浸ることの出来る良作なんじゃないでしょうか。もうちょい、話にグッと来るものがあれば、と思うところもありますがそれはシリーズ進むに連れて、かな。