サイバーアーツ01 真紅の虚獣 (角川スニーカー文庫)

【サイバーアーツ 01 真紅の虚獣】 瀬尾つかさ/ヤッペン 角川スニーカー文庫

Amazon
Kindle B☆W

《V2ウェア》の普及により、どこでもVR空間にダイブできる時代。現実でも仮想空間でも存在しないかのように扱われる、樫尾ナジムの孤独な日常は、クラス一の才媛かつアングラな辣腕ハッカー・高嶺レンが彼を認識したことで、波乱の一日へと収斂する。生物型ウイルス《ゼノ》の襲撃、銃弾飛び交うテロリズム――ナジムの《V2ウェア》に隠された“機密”を巡り、現実(リアル)と仮想空間(ヴァーチャル)を跨ぐスリルと興奮のボーイミーツガールが始まる!!

ゼノきたーー!! うははは、まじかー。瀬尾さんの別作品を読んでると、このゼノなる存在のヤバさははっきりとわかるのですが、むしろゾクゾク来たのは仮想空間(ヴァーチャル)から現実への侵食でありましょう。電脳空間と現実世界の密接なリンクというとまず【攻殻機動隊】なんかが思い浮かびますけれど、例えば映画「マトリックス」、或いはPCゲームの【BALDR】シリーズのあの広大な電脳空間と荒廃した未来世界の重奏した世界観がまた素晴らしかったのですけれど、本作はもう一つ現実と仮想の境界の描き方についてこれらとは別のアプローチをしてるんですよね。
人間という肉体の端末を通して、ヒトは意識を・魂を現実と仮想の両世界に行き来させている。でも、逆に言うとそういった物理的な端末を通してしか、両世界は行き来出来ないとも言えるんですよね。そりゃそうだ。電脳空間とは、仮想に構築された領域に過ぎないわけですから。
ところが、本作では《V2ウェア》という人間の脳に直接ナノマシンを注入して、量子的に拡張させた仮想空間を構築してるんですよね。これって、厳密に言うと通常語られるところの電脳空間とは実態が別物なんじゃないの? という話なんですよね。ここで「ゼノ」なる人類の敵が登場してくる瀬尾つかさ作品の【銀閃の戦乙女と封門の姫】【魔導書が暴れて困ってます。まぁ、どうしよう! ?】における世界観がどういうものだったかを思い出すと、俄然面白くなってくるんですよね。特に、舞台となる世界「クァント=タン」がどんな風に作られて、どんな風に扱われたか。「異世界」なる無数の世界とその末路、地球との関係性、そしてそれらへのゼノの侵攻の実情。これらを鑑みると、ね。
もちろん、人工的に作られた異世界にしてゼノに対する最後の砦たる「クァント=タン」は、実体がありゲートを通るにしても物理的に肉体を伴って地球と行き来できる世界であって、リアルと仮想のダブルで存在して活動できる本作の仮想世界とは異なっているのですけれど、実は人工的に創造された「異世界」という意味では同じなんじゃないかと。そして、それが計画的に作られたかはともかくとして、現実の地球を後ろに置いた最終防衛ラインとしての人類最後の砦として機能している、という観点からも何気に同じなんじゃないかと。
いや、この場合人類最後の砦というよりも、ゼノ侵攻の呼び水、或いは橋頭堡になってしまっているフシも、幾つかの描写から伺えるのでありますが。
現実と仮想世界は、意識を行き来させることは出来ても物理的には絶対的に断絶しているもの。仮想世界から現実に介入するには、人間の肉体、或いは機械的な端末(ロボットやドローンや思考戦車やそういうのね)を介する必要がある、という常識が、この物語においてはえらく脆く感じてしまうのが、またドキドキを加速させてくれるんですよね。現実と仮想の境界を曖昧に感じさせるツールとなっているのが「AR(拡張現実)」なのである。データや擬似的な映像やCGなどの情報を現実に重ねて映し出してみせるというAR技術。これもまた《V2ウェア》を通して一般的に普及している技術なのですけれど、主人公であるナジムの存在が他者の認識から偽装ステルスされていたという事案も仮想から現実への具体的な干渉という意味ではかなり強烈なのですが、こういうのは攻殻機動隊なんかでもあったネタなんですよね。それよりも衝撃的だったのは、むしろあの「雲」でしょう。AR技術によって映し出されたあれは、しかし仮想から現実への投影とはまったく逆のベクトルの代物であることが薄っすらと描写されてくるんですけれど、これ理解が追いついてくるに連れてもう「やべえやべえ」という感覚が吹き出てきて、もう実にワクワクしてしまったんですよね。
いやー、色んな作品において色んなアプローチを用いて地球存亡の危機を描き出してきた瀬尾さんですけれど、今回はまたとびっきりに面白い設定ですわ、これ。すっげえ好みドストライクかも。

さて、そんな降ってわいたような未知の危機と相対することになる本作の登場人物たち。これがまた、今までになくピーキーなんですよね。メインヒロインの高嶺レンからして、イケイケドンドンなアナーキーというある種の人格破綻者なのである。これまでの瀬尾さんの作品のメインヒロインは、ある程度常識枠に収まっているタイプが多かったんですけどね。早々に主人公に引っ張られるか状況の過酷さに適応するか本性が露わになるかで、一線を越えてぶっ飛んだキャラになるとは言え、基本ベースは温厚で柔らかな常識人か凛としたしっかりもの、もしくは真面目だけど腹黒政治家タイプ、とかそんなんだったんですけどねー。
社会的ルールとか完全にぶっちして、脊髄反射でハックして悪びれないアナーキストとか、もう美味しすぎますよ、レンさん。この手のタイプのヒロインは、きっちり締めるタイプのヒロインが居る中で色々と状況や人間関係引っ掻き回して楽しんでる三番手ヒロインあたりが務めてたんですけどねえ。敢えて今回はメインに持ってきたんかー。とはいえ、今回は彼女に限らず、出て来るヒロイン衆全員ピーキーにイカレてるようなヤバイ女性ばっかりなんですけど。特に、あの小学生は色々と盛りすぎじゃないか、というくらいにドカ盛りだし。今回真面目なタイプが全然いねえw
主人公も、兄貴に魔改造されてしまってかなりアカンことになってしまってると思うんですけれど、両サイドがあんまりと言えばあんまりな具合にイケイケなので、目立って無くてマトモな司令塔扱いになってるのは幸いなんだろうか、これw
ともあれ、作者の手がけるシリーズの中でも、この新シリーズは特に盛りだくさんな要素満載で、これは先々がかなり楽しみで期待大ですよ。

瀬尾つかさ作品感想