縛りプレイ英雄記 奇跡の起きない聖女様 (角川スニーカー文庫)

【縛りプレイ英雄記 奇跡の起きない聖女様】 語部マサユキ/ぎうにう 角川スニーカー文庫

Amazon
Kindle B☆W

凶悪すぎる見た目以外はフツーの高校生・仁王院陣は、不幸な事故の末なぜか異世界に。ひとまず小鬼に襲われていた美少女を助けたところ、シスターらしい彼女は傷の治療をしてくれると言う。ついに魔法の登場かとファンタジー世界に今さら感動する陣だったが、彼女はその舌でそっと傷を舐めようと―
「いや、舐めるってのは医療行為として間違ってるから!」
回復魔法が使えない天然聖女とふたりきり、先行き不安な冒険が始まる!

縛りプレイって実はやったことないんだよなあ。大体において、使えるものは使い尽くしてフルにやり尽くすスタイルなもので。よく覚えてないのだけれど、あるとすればロマン編成ですよね。効率的には悪だとしても、物語上はこのパーティー、この装備で行くのが一番浪漫があって美しい、という場合において特攻も辞さない!
しかしまあ、本来これまでなら普通に使えていたものが使えなくなった状態でこれまで通りを強いられる、というのはキツイなんてものじゃないでしょう。それがゲームではなく現実ともなれば尚更に。そして、それが医療に関するものなら悲惨の一途をたどることになるのでしょう。
にしても、治癒魔法が普及している世界において、通常の医療行為に対する無知と偏見がはびこっている、というくらいならまだしも、医療という概念すら存在しないなんて世界があるけれど、そんなんまずありえんだろう……と思ってたんですが、最近人間の合理性や客観性や科学的な見地というものに対してかなり途方に暮れるシチュエーションを目のあたりにすることが多くて、安全よりも安心、じゃあないですけれど在るものを在ると認められない極端に偏った見方、というのは案外あり得るんじゃないか、という残念極まる考えに落ち着いてきたので、この世界における医療という行為に対する拒否反応も決して否定しきれないんですよねえ。
それでも、それでも・治癒魔法が使える人間が一般家庭にも居るのではなく、極々限られた教会関係者などといった特別な人間意外に存在しない世界、つまり治癒魔法の恩恵に預かれるのがどう見ても低い社会にも関わらず、果たして薬草や民間療法などの、極々身近な家庭医療の概念まで廃れてしまっているというのはあり得るのか、という疑問は尽きないのですが。

さて、物語の方は極めて顔の怖い、ガンつけが殆ど「竜の咆哮」レベルの恐慌付与の精神攻撃になってしまっている主人公ジンが、急に治癒魔法が使えなくなってしまった異世界に転移してしまい、そこで古い資料を掘り起こして突貫で医療知識を身に着けた聖女さまと旅をともにすることになり、その行く先の村で起こっていたサキュバスによる眠り病という事件の解決に挑む、という話になっている。
これ、今までも風土病のように存在した病気が、治癒魔法の消失によって回復の手段がなくなってしまい深刻化している、というどうにかして治療法を見つけ出そう、という話になるのか、と思ったらこれが二転三転して、治療魔法が使えなくなったことを利用した陰謀にまた異なる思惑が重なって、状況が固まってしまったという混迷した話になってくるのである。謎解きというほどミステリーをしているわけじゃないのだけれど、一方的な見方によって偏見を受けて不当な扱いを受けている存在の悲しみや辛さを、同じ経験をしてきたジンが汲み取って、それでも挫けずに頑張り続けていた健気で強い意思に手を差し伸べる、という作者らしい「優しい物語」になってるんですよねえ。
原因と理由があるとは言え、あのシスターの向こう見ずで計画性の薄い自己犠牲精神はあんまり好きじゃないのですが、その分以心伝心以上に思いを汲み取ってくれるもう一人のヒロインの登場が、本作を支えてるんですよね、後半。実質、相棒そっちだもんなあ。シスター、良い人過ぎてちょっとヒロインとしての毒が足りないのでもうちょっと押し出しが欲しいところ。何しろ、最後にもう一人出てきちゃいましたからねえ。

語部マサユキ作品感想