月とうさぎのフォークロア。 St.1 月のない夜、あるいは悩めるうさぎ。 (GA文庫)

【月とうさぎのフォークロア。 St.1 月のない夜、あるいは悩めるうさぎ。】 徒埜けんしん/魔太郎 GA文庫

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「…朔、いそいで」
朔の手を掴んで走るのは、稲羽白。長く透きとおった絹のような髪を持った美少女だ。無口な白の頭には柔らかそうなロップイヤーがあった。ここは白のような『神人』と人間が共存する異世界。そんな世界で朔の家は他家と抗争を繰り広げていた。仲間や家族を守るため、白と一緒に戦う朔。そんなふたりに狡猾な罠が迫るなか、幼なじみやクラスメイト、他家の娘たちの間では、朔を巡って牽制&バトルも勃発する―!!
「よかったら、夏休みに私と―」「朔のこと、好きでありますよ?」
月欠けた夜―血に塗れた神々が白き神人を紅く濃く染める、第8回GA文庫大賞“奨励賞”受賞作。
完全にこれ仁義なき戦いやー!! いや、恥ずかしながら映画仁義なき戦いシリーズはちゃんと見たこと無いのですけれど、『神人』の組織というか一家がもうこれ完全にヤクザである。若頭とか本部長とか盃とか傘下の一家がどうのとか、まるっきりそっちのあれやこれやである。
特徴的なのが、あくまで抗争を繰り広げるのは神人同士のみであって、人間は蚊帳の外なんですよね。一応、一家の「シマ」の人間からはみかじめ料的なものはもらっているのだけれど、寺社の檀家や氏子的なものとして捉えたら、それほど不穏なものではないのでしょう。ただし、他家がシマ奪いに来て地域を支配する神人一家が変わってしまう、というのもしょっちゅうなようですけれど。
あと、現実のヤクザと違ってこれらを取り締まる「警察」的存在が皆無なことですね。お陰で、抗争は相手が壊滅するかある程度メンツが立って他所からの仲介が入るまで徹底して行われることになってしまうのです。取り締まる相手いないもんだから、いざ抗争となると「ぶっ殺せー!」が横行して出会うや殺し合いが勃発。ってか、相手のシマに乗り込んでって、街うろついてる相手の組の連中がいたら、目につくはしから殺して回れ、みたいな支持を、主人公サイドも平気で出しまくるわ、ヒロインと子分たち連れて主人公も自らシマ荒らしに乗り込んでいくわ、とやりたい放題ものすげえことになってます。
正直、ここまで行くともう現代のヤクザものや任侠モノではなく、戦国時代以前の国衆同士の地域紛争とか、荘園の奪い合い、鎌倉武士の目があったら取り敢えず殺し合え、みたいなノリである。昔の武士のノリと理屈が殆ど現代のヤクザを三倍過激にしたようなものだと考えたら、早々外れてはいないんじゃあないかと。
新たに当主に就任した武功の殆ど無い若い嫡男が、傘下に認められるために権威付けに奔走しなくてはならないとか、先に生まれた兄が優秀で努力家にも関わらず、生まれの尊い弟妹に継承問題で常に後塵を拝さなければならない家督問題とか、あととにかくぶっ殺しまくるところとか、むしろそっちの観点から見たほうがわかりやすいロジックが働いている部分も多いように思える。基本、組の継承はどこも一族内で、って感じみたいだし。イヌガミの組や猫々のところを見ても。スサノオ組の方はちょっと違うみたいだけれど、あそこまで大規模組織となると、でっかい幾つもの組の集合団体である以上、組全体の継承にはある種の「選定」が行われるというのも宜なるかな。
しかし、これだけザクザク日常的に幹部クラスまで討ち死にしまくると、あっという間に一族根絶やしになってしまいそうな勢いなんですよね。実際問題、神人全体でも第三位の大一家であるところの主人公の一家からして、朔の本家と白の稲羽家はまだ高校生の二人が引き継ぐ羽目になっちゃってますし、他のちっちゃい独立団体の事情を見ても、親世代の喪失や機能停止で若い子が引っ張ってるケースが多々見受けられます。本来なら彼ら彼女らの祖父母世代がまだまだ現役張ってて全然おかしくないはずなのに、粗方死んじゃってるんじゃないですか、これ? もちろん、壮年の大人が組長として頑張ってるところも多いのですが、これだけガンガン抗争してたらそりゃ大人の数足りなくなるわなあ。
というわけで、どう考えても現代的な価値観では子供の数が足りなくて一家断絶しそうなので、どこもお妾さんとか山ほど抱えてそう。そういえば、ウサギさんも多産な生き物でしたなあ(意味深)。
正直、主人公はふわふわラブコメして曖昧な関係を楽しんでいる余裕ないんじゃないでしょうか、産めよ増やせよの精神で。既に主人公朔は、極道の頭としての覚悟や肚の据わり方は、重しが取れた段階でまだ十代の若者とは思えない貫目を随所で見せてくれたので、そっち方面もはやく覚悟を見せないとw
真面目な話、朔個人としての顔を立場上安易に見せられなくなってしまった以上、素の顔を出せる瞬間って本当に僅かになってしまっているのが、色んな所で垣間見えるんですよね。だからこそ、幼なじみ同士として、同じ哀しみを背負った者同士として、何もかもをさらけ出せる白との関係は非常に大切にすべきもので、ぶっちゃけもうモラトリアムは必要ないんじゃないのかしら。