そして黄昏の終末世界<トワイライト> 1 (オーバーラップ文庫)

【そして黄昏の終末世界<トワイライト> 1】 樋辻臥命/夕薙 オーバーラップ文庫

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―終わりは、すでに約束されている。人類は予言された終末に抗うため、人知れずその要因『刻の黄昏』と、内部に現れる魔人『ペイガン』と戦ってきた。そんなことが世界の裏側で繰り返されるなか、日本の高校生・東雲冬夜は突如異変に巻き込まれ、刻の黄昏に迷い込んでしまう。刻の黄昏でペイガンに襲われた冬夜は、終末と戦う少女・如月御姫に助けられ、事なきを得る。翌日、冬夜が御姫から異変について説明を受けていると、再び刻の黄昏が発生。御姫はペイガンを倒しに飛び出すが、なぜか一介の高校生である冬夜の手にも、普通の人間が持ちえないはずの超常の武器・サクラメントが握られていて…!?
現代異能モノというよりも、往時の現代伝奇ものを想起させてくれる作品でした。最近、意外とこの手のガッツリ凝った伝奇テイストのものは多くはないですからねえ。作者の処女作が元のベースだそうですけれど、ある種の年代が感じられるのもそのせいかもしれません。
そして、作者の同じ作品の【異世界魔法は遅れてる!】シリーズとどうやらリンクした世界観の模様。リンクしていると言っても、あっちは異世界なのですがあっちに強制転移させられた主人公が実は現代地球で活躍していた魔術師で、という設定だったんですよね。で、どうやら地球サイドにもかなり分厚い設定があった模様でそっちの話も読みたいなあ、と思っていたので本作はまさに期待に応えてくれた作品といえるのかもしれません。と言っても、あっちの主人公・水明くんが所属していた魔術組織やその周辺からは関係ないとは言わないまでも離れた舞台となるようで、水明くんの回想に出ていた仲間たちの出番があるかどうかは不明だけれど、少なくともメインからは程遠いようだ。
主人公と言えば本作の主人公である東雲冬夜。彼ってあらすじ見てると全くの一般人としか読めないんだけれど、これってあらすじ詐欺じゃないですかぁ。お陰でプロローグの話から本筋始まったとき主人公に対する思い込みから少々混乱してしまいました。でも、この一般人のように見えて実は、というパターンもTYPE-MOONの作品なんかでは定番もいいところですし、異世界転移みたいに後から能力が付与されるような機会など滅多無い現代伝奇モノだと、むしろ最初から主人公も異質の側でないとなかなか話に追いついて行き辛い面もあるのでしょうなあ。冬夜の場合は巻き込まれ型、というには彼は彼で頭までズブズブに浸かってる現在進行系の深い事情があるのですが、考えてみると作中でさり気なく宣言されているとおり、冬夜くんはたった一人の女の子のために、それらすべてを放り捨ててるんですよねえ。プロローグで見せた狂気にも似た喪ったものへの執念を思うと、投げ捨てた人生をさらに投げ捨ててるようなものなんですよね。
古典的な、というとちょっと違うか。あり得るべき理想の騎士像を体現してるなあ。実際は騎士どころか王子様なのですが。
ほら、御姫さん。ご希望の白馬に乗った王子様ですぞw
そんな王子様が手を差し伸べるお姫様の方は、これがまた実にポンコツ臭の漂う残念クール美人で。学校じゃあ涼やかな品行方正の委員長という猫を被りながら、その素の顔はというと早とちりしたり注意不足だったり結構けたたましいおしゃべりだったり、と本人が理想としている姿と実体がやや乖離しているポンコツさが、でも愛嬌になってて親しみやすく可愛らしいんですよ。実戦となると覚悟も定まっててちゃんと凛としているし。
だからこそ、色んな意味で彼女を「汚して」しまうのはそれなりに衝撃的でした。あれ、本当に殺っちゃってるんですか。てっきり勘違いの類いかと期待しながら先まで読んでいたのですが、結局そのままでしたし。
こうなると、どうしたって彼女の魂には罪業の傷がついて、陰がつきまとって払われる事は難しくなるでしょうし、冬夜が負った代償も含めて今後の雰囲気って相応にダークサイドに寄っていくことになるのでしょうか。
そうなればそうなったで、一蓮托生となった冬夜と御姫の関係に共に闇に堕ちる的なインモラル感が漂ってくるので、それはそれで雰囲気が出て良き哉、なんですが。
冬夜が気づいた世界の異常も、単に『刻の黄昏』に関わることになった人間の共通認識なのかと思ったら、全く予想と違った展開に転がってしまって、いわゆる「今、世界に起きている謎」についての探求も物語の進行に組み込まれ、正しく役者が揃い舞台が整った、という体の一巻でした。いや、役者についてはまだ全然揃って無くて、メインの二人をがっつり舞台にあげた、というところなのかもしれませんが。
ってか、何気に冬夜の悪友の彼も謎なスペックですよね。あれ、一般人なのか?

樋辻臥命作品感想