シンドローム×エモーション (電撃文庫)

【シンドローム×エモーション】 本田壱成/sune 電撃文庫

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突然の眠りを経て、異形の力を発現させる病"スノウホワイト・シンドローム"。
力に覚醒め、世界から捨てられた者たちの未来はふたつにひとつ。
世界の敵か、世界の味方か。

"悪夢の日(ミラージュ・デイ)"。
それはスノウホワイト・シンドローム(SWS)が初めて確認されてから数年後に世界を襲った、災厄だ。
各国で同時に覚醒したSWS患者がみな一様に正気を失い、力――"正夢(コネクト)"をもって破壊の限りを尽くしたこの出来事を境に、彼ら"覚醒者(コネクター)"は世界の異物と見なされ……その居場所を失った。
そんな彼らが辿る道はふたつにひとつ。世界に反旗を翻し反社会的な行動に走るか、そんな者たちを取り締まる側に回るかだ。

治安維持組織「Seventh」に所属する千歳環は、他人の正夢を複製・備蓄し、任意に使用できるという特性を持っている。
しかし正夢とは、覚醒者の強い――多くの場合は負の――感情が源となった、いわば心の傷そのもの。それを好きに使える環は、同じ覚醒者からも孤立した存在だった。
そんなある日、環はテロ組織「焔の魂(アイアン・ソール)」に占拠された病院にて、ひとりの覚醒者の少女と出逢う。自らが保護した彼女の教育係となった環は、少女――ニコラとのふれあいを通じ、長らく身を苛んでいた孤独が融解していくのを感じていた。

しかし、ニコラを連れて臨んだ初任務。焔の魂の悪意がまたも二人に忍び寄り……
おおおっ、そういうカラクリだったのか。なるほど、覚醒者たちの力を能力と定義しない理由、彼らがコネクターと呼ばれる理由がそれだったのか。謎が紐解かれてみると、様々な要素が一連なりになっていて「そうだったのか!」と得心させられるんですよね。
ただの現代異能モノに寄らず、世界の仕組みから異能の定義、キャラクターのレゾン・デートルに至るまで非常に練り込んで作り上げたことがよく分かる。設定の構造構築が思いつきや一筆書きの天才肌のものじゃなく、試行錯誤の末に完成度を地道に積み上げていった職人肌の気風を感じるんですよねえ。それも、巧みさを表に出さずに見えない部分に頑丈に敷き詰めておいて、ラストまで読んでようやく意味と構造がわかるという仕組みは好みにもよるんだろうけれど、私は渋みがあって好きだなあ。
同時に、登場人物それぞれの物語も「コネクト」というテーマに添ってこれもまた丁寧に積み上げられて終盤に収束するようになってるんですよね。主人公の環が見事にその核として機能している。彼の名前の環も、その「正夢」も彼の起源も何もかもがブレずに核心に繋がっているのだ。その上で、エンタテインメントとしても見事に見せ場を彼を主人公として構築している。
彼の能力、と言ってはダメなのか。いやでも彼に限っては「能力」と呼んで然るべきなのかもしれないその「正夢」。その方向性はありがちなものと言って過言ではないんだけれど、その発動条件に踏まえてシチュエーションが絶妙なんですよね。単独では高い効果を発せられなかったそれらが、連結することでより高い効果を発揮する。それ以上に、半ば「託された」という意味の繋がりを、それらはクライマックスで見せつけてくれるのである。
飄々としているけれど、スカしたところのない主人公の環のキャラクターも良かったんですけれど、やっぱりメインヒロインのニコラのあの陽性でひたむきな性格は好ましいものでした。ヒロインの意思や想い、いやその在り方が主人公を奮起させる、という構図がいいんだよなあ。