ブラック・トゥ・ザ・フューチャー 坂上田村麻呂伝

【ブラック・トゥ・ザ・フューチャー 坂上田村麻呂伝】 左高例/八つ森佳 エンターブレイン

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「何事も為せば成る、さ」 史上空前のオルタナ系歴史小説!!

アメリカ合衆国ゴッタマシティの黒人警官マール・タムラは薬をキメた神父に撃ち殺されて殉職するが、生まれ変わり日本の武官の子として目覚める。転生した先は、奈良平安時代、時は蝦夷討伐の真っ只中。その名も坂上田村麻呂として前向きに生きていくうち、蝦夷討伐軍の英雄としての生き様を運命づけられていく-------
あることないこと史実入り混じった史上空前のオルタナ系歴史小説が登場!!

主演:エディ・マーフィーですね、わかります。
声は山寺宏一ですね、わかります。

オルタナ系ってなんだよ!? と、あらすじの紹介文見て首捻ってたのですが、いわゆる「型にはまらない」という意味合いが相当しそう。作者の代表作は【異世界から帰ったら江戸なのである】。これがまた素晴らしくキレキレのコメディであると同時に、江戸の風俗を詳細に掌握した上でメチャクチャ面白くネタにしてる傑作なんですよね。かくの如く、ノリノリにハッチャケた歴史小説、という分野において富士山のごとくそそり立っているのがこの作者なのである。大ファンなのよね、自分。オルタナ系歴史小説という呼び方はこうして見るならばまさに的を射ているのかもしれません。
一方で、いわゆる大江戸日常モノな【異世界から帰ったら江戸なのである】に対して、本作は坂上田村麻呂という英雄の生涯を描いた大河浪漫でもあります。その観点に拠るのなら、むしろ本作は【神聖じゃないよ! 破門皇帝フレデリカさん】のタイプなのでしょう。
かの早すぎた啓蒙君主であるフリードリヒ2世が実は女の子フレデリカちゃんでした、というTS歴史コメディなのですが、あの作品も散々賑やかに笑いを絶やさず騒がしておきながら、やはり一人の英傑の一生涯を追想するという意味で悲劇あり、別れあり、そしてその結末においてもどこか寂寞の想いを掻き立てられる切なさがあったんですよね。
大河浪漫というものはそういうものかもしれません。一人の人間の生まれたときからその生涯の終わりまでをずっと見続けるのです。その終わりには寂しさを覚えずにはいられないものなあ。

でも、だからこそ明るく陽気にフィーバーフィーバー♪ なのですよ。主人公のマールは、それこそあのコメディポリスアクションに出てきそうな、底抜けに陽気で楽天的で人生を大いに楽しむ快男児。そんな男の人生が、暗く物悲しいものであるはずがありません。周りの人たちも巻き込んで、実に賑やかに騒がしくスチャラカホイホイと歴史は変転していきます。
坂上田村麻呂は、日本で最初の征夷大将軍と呼ばれた英雄。蝦夷討伐で功績をあげた、というところくらいまでは知っていましたけれど、その知名度とは裏腹に時代背景やその業績なんかなかなか知り得ないものだったのですけれど、いやあ結構色々とエピソード持ってるんですなあ。
パラッパラッパーなソウルをそのまま引き継ぎ、はっちゃけフリーダムなキャラクターとして幼い頃からブイブイ言わせていた田村麻呂の最大の理解者であったお爺さんの坂上犬養との掛け合いから、家族間の愛情にしても同輩や上司部下との親愛ある関係。田村麻呂が人好きする性格というのもあるのですが、彼の周りに愛されるフレンドリーなキャラが、読んでいても実に心地よかった。史実の坂上田村麻呂からして、ほとんど後ろ暗いところのない業績も人格も非の打ち所のないパーフェクト英雄だった、というのもあるんでしょうけれど、彼の陽気さに引っ張られるように老いも若きも笑顔が絶えない愉快さは、本当に楽しかった。
これと相対することになるアテルイたち蝦夷が可哀想になるくらい。あっちはどちらかというと苦行に耐えて試練を乗り越え楽園を目指す求道者たちの在り方でしたからね。あちらはあちらで主人公の風格を持ち得ていたのですが、根暗よりも陽気が強かったということなのか。単純に神のご加護的に「やっちまってた」というのもあるのかもしれませんが。
あれはアウトだね、アウト。偶像崇拝禁止!!

一方で、この時代まだ大和民族という単一民族が成立しきれていない、色んな民族が色んなところから流れてきて混在しているような時代で、キレキレワーカーホリックの桓武天皇からして母親は渡来人系。田村麻呂も隔世遺伝かで黒人と大陸系が混じったような容姿なのですが、そういう異なる様相、民族というのを諸共しない、そのカオスこそをパワーとしたような時代を、田村麻呂が先頭になって引っ張っていくような爽快感、痛快感がある英雄譚でもありました。蝦夷という異民族討伐も、異なる民族の排斥という枠組みにしないで民族の坩堝をより広げていくような勢いがあったんですよね。図らずも、田村麻呂自身がその坩堝を象徴し、わけへだけなく明るく楽しく陽気に人生楽しもうぜ、という姿勢を皆に見せつけていたからこそ、の空気なのでしょう。
前世男でギーグで同性愛者で、あと同僚だった娘さんが嫁に押しかけてきて、十年近くかけて結局押し切られて子供たくさん作っちゃうあたりも、率先して分け隔てなく生きたのを見せつけてくれたんじゃないでしょう、か!!
いやうん、前世がどうあれ、あれだけ可愛くて性格も良くて前世知識をいかしてあれこれ美味しいモノ作ってくれて胃袋掴まれた挙句、十年単位でにじり寄られたら、押し切られても仕方ないか、うんうん。

しかし、田村麻呂って蝦夷討伐以外にも結構色々と逸話とかあるんですねえ。この作品だと中身が中身だけに、すちゃらかにはっちゃけたエピソードになってますけれど、鈴鹿御前とかそうひねってきたかー。
なかなか馴染みのない時代だったんですけれど、軽いノリでありながらサラッと頭に入る時代背景や宮廷の様子、風俗なんかが描かれていて、そちらの観点からしても非常に面白かった。田村麻呂以外の登場人物も、キャラ立っていると同時に田村麻呂との人間関係の描かれ方、というか親しみ方というのが実に温かくて、突き放したところから見る英雄譚じゃなく、周りの人達の肩に手を回して抱き寄せながらくだらないことと吹きながら歩く愛すべき男の人生、と言った感じで、なんとも自然と笑みが浮かんでしまう素敵なお話でした。
一巻で完結というだけあって、結構サクサクと進んでしまうのがなんか勿体無いくらいで。これで終わってしまうのが物足りない、寂しい、まだまだ見ていた、と読後に思ってしまった時点で、一人の人生を描く作品としては成功だわなあ。
今度はもっかい、シリーズ物で書籍読みたいです。【投擲士と探検技工士は洞窟を潜る】とか、書籍化せんのだろうか、あれ。

あ、そう言えば狐面、こっちでも登場してましたね。あの一族の性質からして、居てもおかしくないとは思ってましたけれど。ってか、この時代だとまだ始祖にだいぶ近いのか。
あと、取り敢えず誰か餅で喉詰まらせて死なそうとしなさんなw 何気にピッツァに関しては江戸時代よりもこっちの方が材料限定していた分もあるんだろうけれど、作りやすそうだった気がする。美味そうだなあ、ピッツァ……。


左高例作品感想