焔狼のエレオノラ (講談社ラノベ文庫)

【焔狼のエレオノラ】 天宮暁/左折 講談社ラノベ文庫

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ハルトを昼寝から目覚めさせたのは、炎のように怒る貴族の少女による平手打ちだった。その少女の名はエレオノラ・サラマンドラ・イグニシオン。王国を護る「御三家」の一員にして、焔狼を使役する幻獣使役士―となるはずだったが、契約に失敗し逃げられてしまったらしい。行方不明となっていたその焔狼が、なんとハルトと一緒にのんきに昼寝をしている姿に怒りが爆発したようだ。だが、動物になつかれる体質のハルトが偶然保護しただけだった焔狼は、全く彼女に従おうとしない。その結果、エレオノラはとんでもないことを言い出して―「じゃあ、あんたが代わりにわたしの下僕になりなさい!」一体どうなる!?痛快ファンタジー開幕!
「よーしよしよし」には吹いてしまった。ムツゴロウさんじゃん! ムツゴロウさん、今の若い子は知らないかな。私の世代だと子供の頃にどうぶつ王国のテレビ番組で親しんでいたものですが。
しかし、主人公は動物に懐かれやすいというだけで特にバックグラウンドのない普通の市民の子なのがちょっと珍しい(そうと言い切れない伏線っぽいものはチラホラとあるのだけれど)。
庶民は庶民でも貧しい貧困層でも、大商人の子息という富裕層でもなく、しかし王都の住人であり酒場の息子という立ち位置は、まさに中の中という一般庶民なのである。生活にある程度の余裕を持ちつつも、国家やなんやという大きな括りとは無縁という立場だからこそ、自分たちが営めている平穏な生活というものがどういう担保で担われているか、という事についてそもそも考えることもなかったハルトですが、貴族であるエレオノラとの出会いと交流から、彼は国を背負う責任、自分の自由な意思や振る舞いが何によって支えられているか、という事を考え始めるわけですね。そのきっかけが最初の下僕扱いから、というのも何なのですが一方的に偉いやつに組み敷かれる、という関係はこれまで貴族と関わりなく、庶民としてあまり縛られることなく生きてきた彼にとって、初めて課せられた枷であったわけですけれど、同時に知らない世界を知るきっかけでもあったわけですね。
そして、幻獣と使役士という王国の戦略存在の重要性と、その現状の歪な上下関係にも行き当たってしまうのである。
最初、全く一方的で強制的でしかなかったエレオノラと自分の上下関係が、やがてお互いを知ると同時に互いを尊重し、互いを大切に思うどちらもが望んだ主従関係へと発展していくのと同じくして、ハルトは幻獣と使役士の関係の在り方についてもエレオノラへの意識改革を通じて、切り込んで行く。
こうして振り返ってみると、ベースとなる主題へのアプローチが二重のラインによって支えられていて、物語自体が構造的にもかなりしっかりとしたものとして仕上がっていることに気付かされる。
エレオノラの落ちこぼれ設定はわりとありがちなのだけれど、ハルトがあまりでしゃばりすぎずに前に出て引っ張るのではなく、あくまで橋渡し役に徹していてちゃんと彼女の努力と意識改革、そして焔狼との衝突混じりのコミュニケーションの構築によってちゃんと彼女自身の力で立ち直っていくのは良かった。まあ、焔狼にしてもエレオノラにしても頑固で意地っ張りな分、仲人としてハルトが大変苦労する羽目にはなるのですが、あれこれと気を使い、気を回すのは仲人としては当たり前当たり前。それに、エレオノラは最初の出会いこそ最悪だったものの、概ね素直でひたむきなイイ子でちゃんと人の話を落ち着いて聞ける子なので、面倒くさいことにはならなかったですしね。
焔狼も、もうちょっと気を使ってあげなよ、と思うところなんですけれど、それだけエレオノラには期待してたってことなんでしょうね。それが、先代までと同じやり方を貫こうとして自分にあたってくるものだから失望も大きかったのでしょうか。わりと精神年齢的にはエレオノラとそんなに変わらないように見える拗ねっぷりでしたが。
オーソドックスなストーリー展開ながら、物語の土台がしっかりしていてキャラクターも相応に魅力的に描けている、とサクサクと読める割に密度も濃くて満足感の得られる良作でした。だからこそ、導入のエレオノラとの出会いはもうちょっと何とかならんかったかな、と思わないでもない。ああいう行動は実のところ幾らテンパっていたとはいえ強引すぎて、エレオノラらしくはあんまりなかったですしねえ。