終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?#EX (角川スニーカー文庫)

【終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?#EX】 枯野瑛/ue 角川スニーカー文庫

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春の陽だまりの中、幼い少女妖精・ラキシュは“聖剣”セニオリスを抱え夢想する―。それは500年前の出来事。正規勇者リーリァ14歳、準勇者ヴィレム15歳。人類を星神の脅威から救う兄妹弟子の日常は、なかなかにデタラメで色鮮やかで…。それは少しだけ前の出来事。死にゆく定めの成体妖精兵クトリと、第二位呪器技官ヴィレム。想い慕われる一分一秒は、忘れ得ぬ二人の夢となる。「終末なにしてますか~?」第一部、外伝。
ちょっと待って? なんでこの男、ドラゴン素手で倒してるの? 素手で。聖剣(カリヨン)使わないで素手で!
おかしい、ちょっとデタラメにおかしいですから、この人。今代正規勇者であるリーリァの人外魔境っぷりをこれでもかと見せられている画面の外で、ヴィレムさんも相当にオカシイ話をやらかしてるんですけど!

幕間にラキシュの様子をはさみつつ、前編でリーリァ。後編でクトリの話を描く番外編。いわば、聖剣セニオリスの使い手の物語ということになる。その冒頭で、ラキシュの語る聖剣セニオリスへの思いがまた胸を突くんですよね。
最悪の宿命を持ったものにしか扱えないといういわくを持つ傍から見ると呪われているかのようにしか思えない聖剣セニオリス。でも、ラキシュの語るセニオリスは、持ち主を呪う剣どころか精一杯の救いをもたらしてくれる優しい温かい剣なのだ。思えば、リーリァもクトリもセニオリスを疎んでいる様子は欠片もなかった。
巻の冒頭に斯くある。

悲劇を抱えたものでもなく
悲劇を越えたものでもなく

希望を持たぬものでもなく
希望を捨てたものでもなく

本気で強く望む未来を持ちながら、
その未来が決して手に入らないのだと
受け入れたものたち――

例えば、越冬祭の夜をヴィレムから家族の団欒に誘われた時、リーリァが頷いていたら。そんな事を思ってしまう。きっと、彼らの迎える結末は何も変わらなかったのだろうけれど……。
万難を排してでも、リーリァを故郷に誘ったヴィレムの本気は、如何ばかりのものだったんでしょうね。それって、ヴィレムにとっていちばん大切なものである家族の枠の内側に、誘っていたようなものなんじゃないかと。
家族に配ったプレゼントと同じものを渡されて、そりゃもう見ちゃいけないレベルの醜態を晒しまくってたリーリァを見てしまうと、思わず長い長い溜息を吐いてしまう。
家族になら、重荷を背負わせても良かったのだ。家族になら、甘えてもよかったのだ。ヴィレムは、それを良しとしていたのに。
それでも、この勇者様は、お姫様は、きっと世の中にも、滅びた故郷にも、もしかしたら人間種にもどこか距離をおきながら、感情として寄り添えないまま、宙ぶらりんになったまま、でも戦う理由を得てしまっていた。戦場に突っ込んでいける理由を持っていた。
空っぽの中に一雫だけたまった幸せの為に、幾らでも戦えてしまったのだろう。
それは最悪の宿命で、悲劇の人生で、一番救いたいものを救えない運命が待っていたのだとしても、リーリァ・アスプレイはあんなにも幸せそうだった。あんなささやかな幸せで、満たされているようだった。
それが、ただ切ない。

そんなリーリァに比べると、クトリの方はもう少しだけみっともなくて、不器用で、余裕もなくて、重ね重ねみっともなくて、一杯一杯だった。
残念ながら、ラキシュの思い描くクトリは非実在存在であり、ラキシュもティアットも多分にしてその目は節穴であった。記憶は、美化するものなのである。
でも、クトリは自分の中に芽生えた「恋」にとても一生懸命だったことだけは間違いではないのだろう。そりゃもうみっともなく無様にジタバタのたうち回るほどには一生懸命だった。

それもこれも、リーリァのそれも、クトリのこれも、正しく恋する乙女の生き様だった。好きな人のことを精一杯、思いっきり全力で想うことの出来た生き方だった。
とても、幸せそうな光景だった。
だからその二人の生き方と結末は、憧れるに相応しいものだったのだろう。
星の神と、未だ幼い妖精たちが焦がれるに足る在り方だったのだろう。
そう得心してしまえることが、少し切ない。


ところで、この世界におけるエルフって、なんか思ってたのと全然違ったんですけど! 一巻だかにおいて、人間族に引き続き、獣によって滅ぼし尽くされたというエルフとドラゴン。あの語り口からして、当然のごとくあの森の妖精、耳の尖った精霊魔法とか弓が得意なあのエルフだと思ってたのに、なんかもう全然違ったですけど!
エルフ怖い、エルフヤバイ。あれはちょっと滅びてなかったとしても、浮遊島に受け入れるの無理だったんじゃなかろうか。他種族との共生、生態的にも無理っぽいし。
ちょこちょこっと、既存の概念と違う設定が盛り込まれてて、世界観からして興味深いんだなあ。

シリーズ感想