デート・ア・ライブ フラグメント デート・ア・バレット (ファンタジア文庫)

【デート・ア・ライブ フラグメント デート・ア・バレット】 東出祐一郎/ NOCO 富士見ファンタジア文庫

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「…わたしに名前はありません。空っぽです。貴方のお名前は?」
「わたくしの名前は、時崎狂三と申しますわ」
隣界と呼ばれる場所で目覚めた記憶喪失の少女エンプティは、時崎狂三と出逢う。彼女に連れられ辿り着いた学校には準精霊と呼ばれる少女たちがいた。殺し合うために集まった一〇人の少女たち。そしてイレギュラーの空っぽの少女。
「わたしは狂三さんの連れで囮…囮ですか!?」
「ああ、囮が嫌ならデコイでも」
「同じ意味じゃないですか!」
これは語られるはずのなかった時崎狂三の物語。さあ―私たちの新たな戦争を始めましょう。
あれ? このスピンオフ、作者だけじゃなくてイラストレーターの方も違う人だったのか。ジャケットデザインのみならず、挿絵の方もほとんど違和感なかったわ。
スピンオフを手がける作者は、propellerのライターにして昨今ではFGOのシナリオも手がけ、ライトノベル作家としても【ケモノガリ】を始めとして、そりゃもう血生臭さと硝煙臭さには定評がある人であり、時崎狂三の物語を描く人としてはうってつけの人材と言っていいんじゃないでしょうか。
それにしても、舞台が「隣界」。精霊たちがもともと居た世界、の方というのは予想外も予想外でしたけれど。何しろ、本編では隣界の描写ってほとんど皆無に等しく、精霊たちもあちらの世界についてはまったく言及しませんでしたしね。どうも、現実世界に現れるまでは隣界で「生活」していた、という様子はどの精霊からも見受けられなかったので、むしろ保管倉庫みたいな感じになっていて、あちらの世界ではまともに生き物として稼働してなかったんじゃないか、とすら思ってたのですが。
まさか、こんなことになっていたとは。
こんなにもたくさんの準精霊なる存在が、隣界に存在していたとは。しかも、そのすべてが元人間。前世の記憶の在る無しには個体差があるみたいだけれど、十香たち正規の精霊たちの他にこれだけの「死者」が取り込まれている、というのは何気に衝撃的な事実だったんですよね。
その突然明かされた世界観のインパクトに覆い隠されて、もっと細かい部分の違和感にさっぱり気づかなかったり、あんまり気にも留めずに居たりしていたのですが、とんでもないカラクリが物語の構造の中に仕込まれていたわけで。
いやまあ、おかしいとは思っては居たんですよね。おかしいというよりも、足りないというべきか。最悪の精霊が、そんなものなのか、という違和感。キャラクター的には不自然さはなかったし、能力の制限自体も状況が読めない以上、奇妙ではなかったわけですが、それでもやはり狂三特有の「狂気」と「愛」が物足りていなかった、というべきなのでしょう。それでも、完璧に等しいものでしたけれど。
そもそも、本作の時系列が本編のどの時点なのか、という事から考えないといけないんですよねえ。そもそも、この時崎狂三がどの時崎狂三なのか、も、何しろ時崎狂三って、どれもが本物でありながら時間軸によって微妙に違ってたりしますからねえ。何気に、本編の方で同時に狂三がメインの話を展開していたことも心憎いコラボレーションだったりするですよね。もし本作が本編以降の時系列だったとしたら、狂三が士道に対してあれほどの情愛を抱いているのも不思議ではない。でも、本編以前の時系列だったとしても、あの最初にデートした初期狂三がベースだったりすると、士道を想っていても不思議ではないわけで。
そう考えると、狂三って設定的にもなんでもありに使い放題なんだなあ、と。現段階だと、この狂三は自分がどういう狂三なのかも自分でもわかってないみたいだし。
そもそも、この隣界の真実、準精霊なる存在の秘密なんて世界観の謎は本編の核心にも通じているはずなので、これ同時進行で本編と一緒に進めていかないととんでもないことになりますよ。というわけで、追いかける読者の方も並行して追いかけなくてはいけなくなってしまったのですが。
準精霊というと、あの「蒼」さんもまた他の子たちと比べると圧倒的に違和感あるんですよね。あの子だけ、なんでただの「蒼」なんだろう。この子もただの準精霊とは思えないし、あっちゃこっちゃに仕込みがなされてるっぽい。

しかし、こうやってスピンオフの主人公になるわけですから、時崎狂三というキャラの人気と存在感の大きさを今更のように実感する。確かに、別作品の主人公やれるほどのキャラって、デートの中でも決して多くはないと思うんですが、さらにダークヒーローやらせようと思ったら狂三しか居ないわなあ。
一端の主役を担える子って、折紙やマナ含めてそれなりに居ると思うんですけれど、バトルロイヤルや殺し合いの中で、バリバリの無双や圧倒的な蹂躙戦や凶悪な痛快感を醸し出せるカッコよさって狂三以外考えられませんし。


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