文字魔法×印刷技術で起こす異世界革命 (HJ文庫)

【文字魔法×印刷技術で起こす異世界革命】 藤春都/植田亮 HJ文庫

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文字無き世界を変えるため―― 君が描いて、俺が刷る!

印刷屋の跡取り息子で、三度の飯より印刷が好きな青年・坂上宗一郎は、ある日女の子の声に呼ばれ異世界へ召喚される。
彼を召喚した少女・アイリによると、この世界では文字が禁忌とされ、字の魔法を受け継ぐアイリの一族は迫害されているという。
「本も読めない世界を変えて! 」そんな願いを叶えるため宗一郎が考えたのは、アイリが描いたえっちなイラストに文字を載せて世界中にバラ撒くこと!?
街の片隅に置かれたエロ本で世界を変える、異世界情報革命ファンタジー、開幕!

え、エロ本かー!! いやうん、わかる。わかるんよ。エロの力は偉大なり。女の子と付き合いたい、という方向とはまた別に「エロい情報を手に入れる」という方向性に対する男性の集中力と執着力には尋常ならぬものがあるんですよね。それこそ、まったく未知の領域に何の躊躇もなく飛び込むような、意欲と解析力と分析力の塊になるのである。それは未知の言語であったり、わけの分からない機械であるパソコンの使い方であったり。
かく言う自分だって、どれだけエロスのために独学でPCの使い方を覚えたか。というよりも、わからないものをわかるように調べる試行錯誤の仕方を学んだ、というべきかもしれない。
ともあれ、原動力としてエロスの力は尋常でないものがあるだけに、文字文化の導入にエロ本を投入するというのはなるほどなあ、と大いに感心させられたのだけれど、エロ本を刷って都市から都市を渡り歩いて、深夜にばら撒いて回るとか、正しく変態の所業だよなあ。自分の黒歴史を世界に公開されるはめになったヒロインのアイリの悲惨さがまた笑えると言えば笑えるのだけれど、この娘歴史的にはエロ本の魔女に収まりそうなのはマジ可哀想である。
それにしても、文字が禁止された世界、というか「社会」か。これが、ちょっと想像がつかないんですよね。一応、本作の世界は元々文字があったところに、教会が文字を禁忌のものにして社会から廃絶された、という「文字」の経験がある世界なだけに、ある程度社会基盤が整っているのは理解できるんですけれど、いやむしろ文字の存在が前提としてあった世界から文字が消えてしまったら、社会そのものが維持できずに崩壊しちゃうんじゃないだろうか。中世レベルの社会体制が維持されているのが、ちょっとどうやってるのか想像できないんですよね。記憶奴隷、というものを使っているという描写があるんですが、いや色々覚えてる奴隷がいるから、という程度で「統治」が成り立つんだろうか。少なくとも支配層は文字が使えないと色々と儘ならないものが多すぎるんじゃなかろうか。
とはいえ、中南米の古代文明やそれ以外の地域でも、文字がないなかである程度の社会体制を築いている例はいくらでもあるわけで、文字があるのが当然である自分などでは想像が及ばないのだけれど、それなりに社会を成り立たせる仕組み、というものはあったんでしょうね。日本だって、記録のための文字が使われるようになったのは5,6世紀前後というから、決して早いものでもないですからね。
ただ、文字の利便性というのはやはり図抜けたものがある以上、それがあるのとないのとでは社会の発展性、成熟度は文字通り次元の違うものになります。これ、文字が使用できる拠点を、現地の統治機構ごと確保できてしまったら、文字魔法とか全く関係なく物理的に世界を敵に回せるんじゃなかろうか。
もっとも、主人公は徹底して印刷バカなので、あんまりそっちの方向で革命について考えてはいなさそうだけれど。だからこそ、政治的な駆け引き抜きにして、書というものの、文字というものの影響力を野放図に拡散させることに終始していて、それが旧来の世界のルールを根底から揺るがすことになっているんだろうけれど。
しかし、あの召喚のされ方だと主人公の実家の印刷所、潰れそうだよね、大丈夫なんだろうか。


藤春都作品感想