灰と幻想のグリムガル level.10 ラブソングは届かない (オーバーラップ文庫)

【灰と幻想のグリムガル level.10 ラブソングは届かない】 十文字青/白井鋭利

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ある義勇兵が深い傷を負い、山中で一人その人生の終焉を迎えつつあった。死の間際、彼は思い出す。元いた世界の残滓を。そして、疑問を抱く。―この“グリムガル”という世界とはなんなのか?と。一方、千の峡谷を抜けオルタナを目指し東へ進んでいたハルヒロたちは、道中の森で、巨大な猿のようなモンスター・グォレラたちの襲撃を受けていた。レッドバックというリーダーに率いられたグォレラの群れに苦戦を強いられる。辛うじて追撃を振り払い、逃げ込んだのはオークの出来損ないが隠れ住む村だった…。―彼は知っている。この世界で“明日”は当たり前には訪れないということを。
うぐぐぐ……。ゴリラ怖い。ゴリラ強い。ある意味、熊よりヤバいですよね、ゴリラ。そのゴリラの集団と生身で激戦を繰り広げるハルヒロたち。覚えてますか? こいつら、ゴブリン相手に四苦八苦してたんですよ? ゴブリンの集団仲間内からもドロップ・アウトしたような貧弱なゴブリン一匹相手に無様な戦い方をしてしまっていた彼らが、グォレラ一匹相手なら簡単に始末できる、というくらいに強くなってて、なんかもう感慨深いどころじゃないんですよね。
一方で、そんな昔のことを思い出してしまうと、あの頃の彼らが余り物が寄せ集まっただけのチームだったことを思い出す。一致団結はしていても、仲間ではあっても、仲が良くても、それでも一定の距離感はあったんですよね、それぞれの間に。
いつからだろう、この仲間たちの為なら自分は死んでも構わない、とまで皆が皆思うようになるまでに結束が深まったのは。家族同然になったのは。ハルヒロのリーダーとしての資質、信頼感がある種のカリスマ性をも帯びるようになっていたのは。ほんと、これ段々と、なんですよね。ちょっとずつの成長が歩みを止めずに進み続けた結果、いつの間にかここまで至っていた、というべきか。劇的な変化がなかった分、ふと振り返った時に思っていた以上に途方もない距離に到達していたことに気付かされる。
でも、それ以上にこれだけ絆深まってしまった、本当の意味で掛け替えのない家族になってしまった彼らの中から脱落者が出てしまった時、彼らは耐えられるのだろうか。マナトの時、モグゾーの時、そしてランタの時。あの時だって、あの瞬間だって喪われた者たちは掛け替えのない者だったはずだけれど、彼らはグッと堪えたまま、前に進んできた。ここまで来た。
ここまで来たけれど、これ以上行けるんだろうか。
いずれにしても、もう読んでいるこっちの方が、これ以上は辛くて耐えられない、よ。
無理だ。

はあ……。

メリィの反応がね、もう言い訳できないくらいあからさまなんですよ。本人、本気で気づいてなくて、メリィって心の底からハルヒロのことただの仲間と思い込もうとしていて、それが全然出来てないんですよね。これはもう、無理だよ。でも、ハルヒロもメリィも頑なだからどこまでアレなのかな、とも前巻までは構える部分もあったんだけれど、今回なんぞもう言い訳できないくらいジェラってて、そんなメリィの反応を見てクザクやシホルが動揺してしまうくらいにはあからさまで。
なんかねー、もうおめでとー、な心地だったんですよね。あー、でもクザクが述懐してたように、ハルとメリィがお互い好きであっても進展とか絶対しないだろうな、というのはなるほど正鵠を得た分析だ、と思わず深く首肯してしまったもので、でもそんな二人を後押しできる人ってメンバーの中に居ないっぽいんですよねえ……。
クザクは自分が後押しする、と奮起してましたけど、君、そんな器用なタイプじゃないでしょう。いや、不器用じゃないけどさ、うまく誘導するとかお膳立てをするとか出来るタイプに見えない。シホル? いやあ……。
ユメだったら自覚なくうまいこと転がしてくれる可能性はあるけれど、彼女の場合ほぼ天然一途なので意図的に図るのって難しそうだしなあ。
というわけで、周りから促して、というのはなんだか絶望的だなあ、という見解をこの時点では抱いていました。結局さ、メリィの自意識が変わってくれないと、彼女が踏ん張っちゃってる以上、引っ張っても背中押してもその場から動かきようがなかったのよね。
でも、彼女の頑固さは筋金入りで。よっぽどのことがないと自分の中身を自分でひっくり返すことなんてしないし、出来ない娘だったんですよね。いやその意味ではセトラのハルヒロへの圧倒的なアプローチは、途方もない刺激となってメリィの本心が周りにも伝わってしまうくらいに、浮き彫りにしてしまうくらいに「よっぽど」のことだったわけですけれど、その動揺がメリィ自身に脅迫的に自身を縄で縛ってその先を杭打って縫いとめて、みたいな真似を強いてしまったきらいもあり、でもそれくらい自分を縛らないとハルヒロへの気持ちを押さえられなくなっている、というのがハルヒロがピンチに陥った時の様子からも伺えて、どちらにしても一杯一杯決壊寸前だったのかもしれない。
よっぽどの、きっかけがあれば、あとはもう後戻りできないところまで流れてしまっていたのかもしれない。
でも、だからって。
そのよっぽどがこれって、むごすぎやしませんか?
人間が本当に素直になれる瞬間を、ここに規定してしまうというのか。
冒頭に、あのエピソードを。ジェシーのエピソードを持ってきた意味が、最後まで読めばよくわかる。最初から、蜘蛛の糸は垂れ下がっていたのか。以前の彼の時は、こんな準備なんかされてなかったもんなあ。その意味では、優しさの現れなのかもしれないけれど、十分痛めつけられた気分である。でも、絶望だけで終わらない、というのはこういう気持ちなのか。藁にもすがる思い、希望にすがってしまう気持ちというのは、こういうことを言うのか。どうしたって、そこに縋り付くしかないじゃないかっ。

シリーズ感想