魔法使いは終わらない 傭兵団ミストルティン――七人の魔法使い (ダッシュエックス文庫)

【魔法使いは終わらない 傭兵団ミストルティン――七人の魔法使い】 八薙玉造/赤井てら ダッシュエックス文庫

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「魔法使いは終わっている」
戦場の花形、魔法使いの支配で栄華を極めた帝国は、銃による集団戦術の台頭で崩壊した。亡国の姫にして“殱光”の魔法使いリオノーラは追われる身ながらも民のための戦いを続ける。その中で彼女は傭兵シャノンと出会った。数名の魔法使いのみを戦力に、百の敵を容易く打ち破る彼の姿に、リオは希望を見出す。最強の魔法使いリオと、魔法による戦術を熟知したシャノン。二人は互いの望みのために手を結び、幾千幾万の軍勢に挑む。一騎当千の魔法使いが繰り広げる復讐と逆襲の魔法戦記が火蓋を切る!
「我が名はリオノーラ・シゲル・ハートフォード!いざ、魔技を交えん!」

姫様、褒め殺しすぎるっ。これ、能力的にも破格なんだろうけれど、それ以上に性格が無敵すぎる。決して見識がないとかポジティブすぎるとか考えなしに信じすぎ、というわけでもないんですよね。
シャノンのあの皮肉屋で偽悪趣味という性格の歪んでいる部分に全く囚われずに本質をズバズバ突いてくるから、シャノンの方も上手く返せずにタジタジになっている、というべきか。姫様自身にフラフラしたところが一切なく、完全に覚悟完了してるというのも大きいのだろう。魔法使いの鑑みたいに言われる姫様だけれど、この世界の魔法使いってサイヤ人か! というくらいの戦闘民族なんですよね。姫様も、その辺鑑と言われるくらいだから、統治者としての意識と戦って死ね!的な戦闘民族のノリが見事にハイブリッドされてしまっていて……ヤバいぜ。
それで居て脳筋でも蛮族でもないというあたりがエゲツないんですよね。魔法使いの戦い方が銃火器が普及した集団戦が常識となりつつある戦場において、無力化されつつある事を承知した上で魔法使いの戦いに拘るのかと思ったら、全然こだわらずに柔軟に「戦い」に適応して、新たな魔法戦術を構築しようとしているシャノンの戦い方を飲み込んでいくのである。誇りある戦い、という姿勢は損なわないまま「勝ったもんが強い」という戦場の論理に従順な姫様、マジ戦闘民族である。
このある意味「物分り」が良すぎる姫様によって、ひねくれ者属性としてのキャラを語る端から叩き潰されていくシャノンの掛け合いがまた楽しいんだけれど、【鉄球姫エミリー】以来の本作作者の会戦描写も見所の一つでありましょう。
シャノンのクセモノとしてのそれは、リオ姫には褒め殺しされまくってしまってますけれど、一傭兵団の長でありながら戦場を思うとおりにコントロールしてのけるその口八丁と作戦能力はちょっとぶっ飛んだものがあるんですよね。最前線に居ながら敵も、そして自分たちを使い潰そうとする味方司令部をも掌の上で転がしてしまう。ここで凶悪なのは、気がついた時には敵にも味方からも選択肢を奪っていて、シャノンの思惑を見抜きながらもその考え通りに動かないとどうしようもないところまで追い込んでしまっていたところでしょう。敵味方ともに無能どころか極めて有能な部類の指揮官であったからこそ、シャノンの誘導に乗っからないといけない状況に陥れられた、というあたりが実にイカしているじゃないですか。
時代遅れと化しつつ在った魔法使いを、戦場での新たな使い方を提示することで凶悪な兵器として再構築してみせた、その固定観念にとらわれない戦術眼が目立っていますけれど、むしろ彼の真骨頂は自分たちの側の選択肢は可能な限り準備しておいて、自分たち以外の選択肢は決定的に閉ざしていくその作戦的なシナリオの策定能力なんでしょうねえ。
そんでもって、シャノンのその技能が全く通じないのが、用意していた各種選択肢を無視して最短距離でツッコんでくる姫様なんでしょうねえ。何しろ、姫様がツッコんでくるのはシャノンの想定していたそれを、全部上回ってくるような一番良い選択、なわけですから。
んで、完全軍師タイプなのかと思ってたら、平素から自分はすげえ魔法が使える魔法使い、と言っていたのもまんざら嘘ではないようで。あのラスト近くの刺客との対決シーンでの、シャノンの素性を知った刺客の反応なんか、凄く意味深ですもんねえ。
ともあれ、キャラ同士の掛け合いから大会戦の描写に、ひりつくような思惑が絡み合う謀略戦、とこれはもう非常に面白い要素が満載で、久々に八薙さんの真骨頂となるアレコレが楽しめそうな物語となりそう!

八薙玉造作品感想