カロリーは引いてください! ~学食ガールと満腹男子~ (富士見L文庫)

【カロリーは引いてください! 学食ガールと満腹男子】 日向夏/時々 富士見L文庫

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朝生くんは大学の人気者。学業優秀、スポーツ万能。悩み事にも優しく応える。まさに完璧―ただ一つ、その体重を除いて。「朝食できたよ、朝生くん」「足りません(キリッ)」同大学の学食で働く楓は、朝生くんの母に頼まれ、彼が太らないご飯を毎食作っている。朝生くんはカロリー控えめでも美味しく工夫した料理を喜んでくれるけれど、ごちそうを報酬に、度々お悩み解決を引き受けてしまうので…。オーダーは彼のダイエット!?まかない女子とハイスペックふっくら男子の献立奮闘記!
ちょっ、朝生くんホントに完璧超人なんですけど! 学業だけじゃなくてIT関係もミスコンでウェブ担当で不正投票の対応をバイトでやるほど使えるし、動けるデブとして柔道の有段者だし、家は超金持ちで上流階級であるが故か、本物のジェントルマンで女性への対応がパーフェクト。品が良くてスマートなんですよね。それでいて、愛嬌もあり可愛げもあり愛想も良し。何気に面倒な実家との繋がりは切れていて、家関係でゴタゴタすることもないし、唯一身内であるお母さんの響子さんもまた人柄能力社会的信用資金力と文句なし。
ぶっちゃけ、デブであることすら完璧の内にあるんじゃないだろうか、と思ってしまうくらいデブである自分も活用してるんですよね。平気でデブネタも振ってきますし。
あと、これだけ御飯美味しく食べてくれたら、そりゃ作る方も嬉しいわ。そして、ごちそうと引き換えにわりとお願いも聞いてくれるので、ってこれは楓相手だからなんでしょうけれど。余計なことに首を突っ込む性格ではないんですよね。でも、困ってる人を無視するほど冷たくも塩対応でもなく、サラッと補助や支援の手を差し伸べているあたり、実にスマートなんだよなあ。
将来デブすぎたら健康面でヤバい、という点だけがネックであり、もうホントそれくらいしか欠点ないよ、完璧超人だよこいつ。
実は寂しがり屋だった、というのも大きなポイントで、なんだよ可愛いなあ畜生! と男性の自分ですら思ってしまう可愛げでね、そりゃ楓じゃなくても「よし食べろ」と思っちゃうよなあ、これ。
楓さんの方も、友人の秋桜の中学時代のエピソードを見てみると、その「食べさせる」というワードに対するライフワークが決して朝生くん限定でないことがうかがい知れて、結構この人も特殊ではあるんですよね。料理を食べてもらう、ということが仕事や義務感じゃなくて、生活の一環であり、また食べる人のことを考えてあれこれ試行錯誤することが当たり前になってるんですよね。これ、幼少時の少食でまともにものを食べられなかった朝生くんとの日々によって培われたものなのかもしれませんけれど、楓の人格の根幹に根ざしてるっぽい。
同時に、朝生くんの幼少時の食に関するトラウマとその克服、現在の食に対する喜びの根底には、楓の父親と楓本人とのあれこれがあるわけで、これ響子さんがマンションの家賃など諸々超お得な契約内容で朝生くんの食事管理を、ちゃんと社会人として働いている楓にわざわざ持ちかけたのって、建前上の朝生くんのダイエット云々だけじゃないんだろうなあ。実際、遅々として朝生くんの減量が進んでいないことに対して、響子さんさして気にした素振りも見せなかったし、あそこで楓をわりと昔からの知り合いが招待客に多いホームパーティーに、朝生くんの相方として呼ぶあたりとか、もうこれ完全にターゲットつけてますわな。響子さんとの個人的な関係も、朝生くん抜きでかなりフレンドリーというか堅苦しい関係性が全然ないかなりリラックスしたプライベートのだらしない顔を見せて全然平気どころか、積極的にだらけてみせるくらいの身内感ですし、そりゃもう狙いすましてるでしょう、これ……。

お話の方は、朝生くんが通う大学の中で起こる様々な事件、いや表に出ることすらなく犯人の一人勝ちで終わりそうだったあれこれに、朝生くんがふと気がついたり、他所から相談を持ちかけられたり、楓が御飯で釣って協力させたり、というきっかけを経て、朝生くんが多種多様、多芸極まる謎スキルで事件の真相を浮かび上がらせ、「名探偵皆を集めてさてと言い」なんて大仰な真似もせずに、ある意味穏便に、しかしきっちり因果応報で悪意を持っていた相手には痛い目を見てもらう、という形で解決していく、言わば日常ミステリーものでありました。
いや、振り返ってみても解決方法、往々にしてスマートなんですよねえ。ミスコンの場合は最後が最後だっただけに目立ってしまいましたが、それ以外に関しては決して目立たず、しかし各所に貸しはきっちり負わせて謎の人脈も広げてってるのだから、クセモノであり食わせ者であることは間違いなく、ああでもそれなのに、可愛げの塊みたいなデブ青年なんだよなあ。カッコイイし紳士だし。
でも、これって主人公の楓がけっこう男前な女性だからこそ、カップルとして映えるとも言えるんでしょうね。決して気が強い姉御系ってなわけじゃないんですけれど、言うべきことはどんどんハッキリ言いますし、朝生くんにも甘えさせずにビシビシと食事を制限していきますし……って、わりと制限解除! ってな場面も多いし、けっこう甘やかしているような気もしてきたぞ。
ただ、おかず面で本当に工夫に工夫を重ねて、好きなものを食べさせない苦痛を味わわすのではなくて、カロリー制限はするけれど、美味しく楽しく出来ればお腹いっぱいに、という存念で趣向を凝らした料理を創ってくれるのですから、そりゃ朝生くんも嬉しいわなあ。これほどガッツリ餌付けされるのも珍しいってくらいには餌付けされきってるし。
【薬屋のひとりごと】もそうですし、書籍化されてないシリーズなんかでも、日向さんの描く女主人公の、あのわりと身も蓋もないしっかり者というキャラクターは、やっぱり好きですわ。単体でも映えますし、それ以上にかなり動かすの難しいだろう男性キャラに、可愛げなるものを添付してしまう特性があるように思えるんですよね。
本作もシリーズ化してほしいな、これ。素晴らしく面白かったです。