桜色のレプリカ 1 (HJ文庫)

【桜色のレプリカ 1】 翅田大介/町村こもり HJ文庫

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――この「学校」の中に1人だけ「本当のヒロイン」がいる。「その人」を君に捜し出して欲しいんだ。

六方(ろっぽう)カザネはこの「学校」の文学教師である。ある日、理事長の二階堂イツキに呼び出され奇妙な依頼を受ける。
積極的にカザネに迫って来る自称・淫乱ピンクの三十刈(みとがり)アイラ、マンガやアニメ的なお約束好きの四十田(あいだ)ユキ、委員長タイプの五十嵐(いがらし)ヒビキ、
無口で小説好きの百合原(ゆりはら)ハルカ、個性的な女生徒たちに囲まれるカザネが受けた依頼、その驚くべき内容とは――?

昨今では珍しい、1・2巻同時発売。しかも、第一巻は発売前からまるごと一冊無料で試し読みが出来るという企画をやっていたようで。まあ翅田作品は作者買いしているので、どっちにしても買いましたけれど。

最初から、変な話ではあったですよね。主人公の六方カザネ、彼は教師であるのだけれど当たり前のように「17歳」の少年である、と語られている。それについて、彼が特別だからという描写は一切なく、それどころか同じ年代の教師も普通に存在していて、この学校端からなんかがおかしい。
当初から常識と非常識の境界線が微妙に曖昧なところからはじまるのだけれど、話が進むに連れて境界線がくっきりと浮き上がってくるどころか、常識非常識の観点ではなく、現実と非現実、人間とそうでないものの境界線までじわりじわりと曖昧模糊で滲んでくるのである。
どこまで企図して描かれているのかわからない「嘘くささ」。少なくともそれを判別するための起点となるものだけは確かだと、そこだけは疑いすらしなかったのに、最後にはそれすらも虚構であったと突きつけられてしまう。
この足元の感覚、踏みしめるべき地面の感覚が徐々に心もとなくなり、雪崩落ちてくかのような不安定感の絶妙な加速度には、正直恐怖じみたものすら感じた。主人公が段々と精神の均衡を失ってくのもわからなくはない。一見、彼が精神的に追い詰められていく要因というものは、テンプレートとしても基本テキストに従順すぎる今時気にしすぎるのもどうよ、という理由によるもので、まあ理屈はわかっていても実感してしまうとどうにもならない、という類いのものではあっても主人公がそれをしてしまうと、主人公としても男としても器が知れてしまう内容である、一見ね。ところが、真相が明らかになってみると彼の感じていた違和感や恐怖感、忌避感というものが俄然様相を異にしてくるのである。
彼は、一体何にあれほどまでの忌避感を感じていたのか!
最後の展開、こうなると何が真実で何が嘘なのか、これまで語られてきた内容、世界の現状から学校の実態まで何から何まで信用が置けなくなってくるのである。だいたい、生徒だけじゃなく教師からして「ナンバリング」されていることを、どう考えればいいのか。
常に付きまとう登場人物たちの「嘘くささ」というのは、誰彼に限定されたものではなく、むしろ彼の恋人や周囲の人間たちにすら同様に感じるものだったことを、どう捉えればいいのか。あの恋人である彼女の「あざとさ」とか、ラストの展開以前に強く感じざるを得ないものでしたしね。少なくとも、私はそれを強く疑っていた。
まさか彼自身がその対象になるとまでは予想だにしていなかったのだけれど。彼も「六方」であることをもう少しちゃんと想像を巡らすべきだったのかもしれない。
しかし、あくまで驚愕の展開でありつつも、それが何を意味しているのか、それを暴いた彼女の正体、思惑、目的が如何にあるのか、という点についてはまだ一切不明であり、解釈のしようがないとも言えるわけで。
そりゃあ、早いところ2巻を準備して貰わないと、えらいところで止められちゃあたまったもんじゃあないですよ。その意味でも、二冊同時刊行というのは英断だったんでしょう。
ただ、現状ではまだ作品の勘所というか、物語としての面白さが起爆するという段階までは至っていないとも言えるんですよね。構成としての技巧は伺えるものの、作者の描くキャラクターの無軌道なくらいのパワフルな魅力が今のところ、この「嘘くささ」によって随分と制限されているというか、ラップを掛けられた状態とも言えるので、ちびっと活力が欠けてるんですよねえ。
なんにせよ、2巻次第か。

翅田大介作品感想