放課後は、異世界喫茶でコーヒーを (ファンタジア文庫)

【放課後は、異世界喫茶でコーヒーを】 風見鶏/u介 富士見ファンタジア文庫

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魔法の息吹がかかったアイテムや食物が産出される『迷宮』。これを中心に栄える迷宮都市の外れに佇む一軒の喫茶店では、この異世界で唯一コーヒーが飲める。現代からやってきた高校生店主ユウが切り盛りするこの店には、コーヒーの芳しい香りにつられて、今日も喫茶店グルメを求めるエルフやドワーフ、冒険者たち、そして街の有力者までもが“常連”として足を運ぶ。近所にある魔術学院に通う少女リナリアもそのひとり。まだ、コーヒーは甘くしないと飲めないけど、ユウがいるこの店の雰囲気がお気に入り。でも、ライバルの女の子たちは他にもいて?恋のスパイスが効いたおいしい物語を異世界喫茶からお届け。
純喫茶だったらやっぱり音楽はほしいよねえ。無音が決して悪いとは言わないけれど、場所のみならず雰囲気も含めた「空間」を提供するという店のコンセプトがあるのなら、店の方向性を示す意味でもいずれは必要になってくるだろう。音楽ほしいなあ、と言及しているということは将来的に何らかのアプローチがあるということだろうか。
ともあれ、喫茶店という日常の中にある日常から切り離された場所にながれるゆったりとした空気のもとで、くつろぐお客さんたちと店主の少年との間で流れる穏やかな時間は、なんとも読んでるこっちもリラックスしながら眺めていられる、同じ雰囲気を味わっているかのような感覚をもたらしてくれるもので、独特の味わいがありました。
いいねえ、こういう雰囲気のお話。
特別な事件があるわけではなく、訪れるお客さんそれぞれに小さな物語があり、でもそれは本来彼らの日常の中で生きているもので、この店の中に持ち込んでくるのはある意味そのそれぞれの物語から少し休憩するためのひと時でもあるんですね。もちろん、完全にあちらとこちらが隔離されているのではない、というのは店主であるユウの物語自体がこの小さな店に閉じこもっているだけでは息詰まってしまい、今生きている世界とつながっていった方がいいよ、という話になっていることにも関わっていて、喫茶店という空間が提供しているものが現実逃避の場所ではなく、喧騒からくつろぐ場所、ひとときの安らぎの場所、まったりと時間を過ごす場所であることを示しているかのようなのだ。

その意味では、この世界にはなかったコーヒーや料理というのはあくまでツールでしかないことを心得ているとも言える。高校生であり本職の喫茶店経営者ではなかったユウがプロと同じことをするにはあまりにもまだまだ未熟過ぎるところが多々見受けられ、コーヒーや料理に関しても研鑽が大いに足りていないのだけれど、それが追いついていくのはこれからなんだろうなあ。
ただ、どうしても気になってしまったのが店主であるユウとお客との距離感である。いやね、文化祭の出店じゃないというのに、店主が営業中にも関わらzお客に対して馴れ馴れしすぎるところが見受けられるんですよね。相手はお金を払って、それを受けて料理やコーヒー、空間そのものを提供するという関係性を無視しすぎているきらいがある。
友達じゃないんだから。
もちろん、お客と友達になるな、とは言わないけれど、その関係性に甘えていてはとてもじゃないけれど、プロフェッショナルとは呼べないなあ。少なくとも公私の区別がついていないようでは、真似事をしているだけと言わざるをえない。そのへんの自覚が今後ちゃんと出てくるかどうかは、どうも作品の様子からして眼中にない方向性のようなので期待しても仕方ないかもしれない。
まあ本格的な喫茶店モノではなく、あくまで孤独になってしまった少年が喫茶店という場を以って現地の人々と交流を深め新たなホームを作っていく物語として捉えれば、この心地よい雰囲気と切りの良い短編のテンポも相まって実に味わい深い作品になっているから、余計なことを気にしてもしゃあないのだろう。