いつかのレクイエム case.1 少女陰陽師とサウル王の箱 (GA文庫)

【いつかのレクイエム case.1 少女陰陽師とサウル王の箱】 嬉野秋彦/ POKImari GA文庫

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「箱」を巡り、魔術師たちが東京の夜を駆ける!


「何というか、実に……この国は無法地帯だな」
「居候のくせに、いつもいつも偉そうなんだから――! 」

西洋・東洋の魔術師たちが闇に潜みながら生きる現代。女子高生と陰陽師の二重生活をしているひよりは、同居人の『魔女術』使いレイジと共に行方不明になった父の遺した探偵事務所を経営していた。同業の女性魔術師、史鳳(シフォン)が受けた「箱を探して欲しい」という依頼に協力するひよりだ
ったが、簡単だと思われた箱探しは、時を同じくして発生していた連続殺人事件とも繋がり、事態は思わぬ展開を見せることに――! ?
嬉野さんの作品、ファンタジー異世界モノも面白いのだけれど、中華系と現代魔術モノも面白いんだよな。
ということで、本作の美少女女子高生陰陽師のひよりちゃんは、天台姫宮派の使い手なのである。天台姫宮派陰陽道というと、作者の作品の【ハルマゲドンバスターズ】、【シャイニングウィザード】シリーズでは主人公が使ういざなぎ流のライバルキャラが使ってた流派なので、途端みょみょみょみょ!となってしまった。懐かしの「式王子」なる式神も出てきましたし。
でも、ひよりって流派のあれこれとはほとんど関わってなくて、かなり独学入ってるんですよね。身辺事情明らかになってみると、あれほとんどこれってド素人じゃないの!? というくらい、父親から習った基礎をもとにして自分一人で構築してきてたみたいだし。いやいや、でも逆に独学であんな[
三面頬」みたいな式王子仕えてるのって、けっこうすごいんじゃないだろうか。
しかし、才能はともかく組織や一族血族に所属する形で魔術業界に関わっていないので、それだけダークサイドに踏み込んでおらず、メンタルも一般人寄りなんですよね、この子。実戦経験もほとんどないし、それ以上に素直で良い子すぎて、魔術界特有の黒い内実にもシビアで酷薄な世界観にも慣れてないとも言える。プロや玄人とは程遠いところにいるのだけれど、それだけスレてないとも言えるわけで、結構気が強くて頑固者ではあるんだけれど、基本的に聞き分けもよくて善人だし真面目で努力家だし、と作者のひねくれたキャラクターが多い傾向からスルと、なかなか珍しいタイプの子かもしれない。
一方で、彼女の心霊探偵事務所の居候で、実質師匠格であり、ひよりを助手扱いで事務所の主力を担ってるレイジくんはというと、いつものあれである。反論できないくらい直球の正論をバールみたいに握ってガンガン殴ってくるタイプの、超偉そうだけれど言ってることは全部だいたい正しくて思わず「むぐぐぐ」となってしまうお兄さんである。ただ、このレイジくん、この系統のキャラの中ではとびっきりに優しいんですよね。上からの物言いではあるものの理不尽なことは一切言わないし、間違ってたら反省するし、気遣いの言葉もけっこう絶やさないですし。厳しいことは言うものの、嫌味さは感じられないし、わかりやすく親切なんですよね。ひよりちゃんが、変に反発したり反抗するタイプじゃなく、偉そうな物言いにむっとはしながらも、だいたい素直に受け止め、アドバイスも真面目に捉えて、自分なりにちゃんと噛み砕いて糧にしていくし、レイジくんからしてもわざわざ嫌味言うようなシチュエーションにならないからなのかもしれないけれど、思いの外良いコンビなんだよなあ。レイジくんからしても、わりと鍛え甲斐のある世話し甲斐のある弟子なんだろう、ひよりって。変に業界スレしていない素人さが、むしろスポンジみたいに教えを吸収する土台になっているような感じでもある。それにしても、レイジくんのそれはスパルタではあるのだけれど。あれ、傍から見るとよく着いてってるなあ、というレベルなんですよね。愚痴はこぼしても文句らしい文句も言わずに素直に頑張られると、そりゃ気持ちも入るわなあ。
本来、レイジくんのキャラクターからして、かなりサバサバした、というよりも人間関係ドライなタイプなようにも見えるだけに、ここまで親切に見えるというのはそれだけ思い入れの強さにも見えてくる。
自分の見通しの甘さでひよりちゃんが怪我を負ってしまったとき、レイジくんかなり怒ったしねえ。彼のファミリアーであるミス・レオナも、あれひよりちゃんかなり可愛がってるように見えるし。扱い難しそうなJKっぽいくせに、歴代主人公というか歴代ヒロインの中でもかなりいい娘なんじゃないだろうか、この子って。

でも、レイジくんべったりではなく、同じく大学生と魔術師の二足のわらじ履いて活動してる史鳳と即席でコンビ組んで仕事を請け負って、と半人前なりに独自に情報屋とコンタクト取って活動したり、と自立した行動もとってるのである。この女学生魔術師コンビの半分アングラに踏み込んだような活動も、おおそれっぽい仕事してる、って感じで読んでて心浮き立つものがあったんですよね。
また、警察サイドでも魔術関係の事件の増加で、本物の魔術師のコンサルタントを活用する方針が動き出していて、その接触を受けて公的機関の下請けも兼ねて、みたいな事件との関わり方も出てきて、単なる現代魔術異能モノとは違う、お仕事モノというか、探偵モノみたいな要素も絡みつつ、謎の箱を巡る魔術師界隈の中でもやばい領域に首を突っ込む展開もあり、と現代社会の表と裏の境目、現実と神秘の世界を跨ぐような、ふわふわとしているようで地に足の着いた設定に基づくストーリーは、ベテランのお仕事らしく歯ごたえと味わいが両立してて、ほんと面白かった。
嬉野さんのこっち系統の話はまた読みたいなあ、と思っていただけに、どストライクだったかもしれない。これは期待のシリーズの開幕でありますよ。

嬉野秋彦作品感想