タタの魔法使い (電撃文庫)

【タタの魔法使い】 うーぱー/佐藤ショウジ 電撃文庫

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2015年7月22日12時20分。弘橋高校1年A組の教室に異世界の魔法使いを名乗る謎の女性、タタが突如出現した。後に童話になぞらえ「ハメルンの笛吹事件」と呼ばれるようになった公立高校消失事件の発端である。
「私は、この学校にいる全ての人の願いを叶えることにしました」
タタの宣言により、中学校の卒業文集に書かれた全校生徒および教職員の「将来の夢」が全て実現。そして、あらゆる夢が叶った世界が現れる。だがそれは、ある生徒の『異世界を旅したい』という願いが実現したことによる異郷の地だった――。
現実から隔絶された世界での彼らの武器は、かつての夢。日本へ帰還するため、全校生徒による過酷な異世界サバイバルの幕が上がる。
これはまた面白い手法、アプローチだなあ。学校ごと異世界に飛ばされ、そこから戻ってきた人たちにインタビューした内容から書き起こされたノンフィクション小説、いやルポルタージュという形式で描かれた物語。
よくテレビ番組で飛行機事故なんかを幾人かの人物にスポットをあてて再現映像として流すことなんかあるけれど、そんな感じか。登場人物の行動や状況の解説なんかが映像とともにナレーションで流れたりするけれど、それをインタビュアーでありこのルポをまとめた主人公の姉が地の文で色々語ったり説明したりすることで、同じように表現しているわけで。
まあなんにせよ、第三者の視点から当時の異世界に飛ばされた人たちの一ヶ月間の旅の様子をインタビューの内容をもとに描く、という方式は、なるほど新鮮で面白い。その時々の行動についても、帰ってきたあとの当事者に聞き取った上で、行動の描写とともに書き添えているのだけれど、この後から振り返って、というのがなかなか曲者で、リアルタイムでその時のその人物の内心を描いているわけじゃなくて、一旦相応の時間を置いた上で自分の当時のことを客観的に思い出して、というのは、齟齬という類いのものじゃないんだけれど、ちぐはぐ……でもないなあ、とにかくリアルタイムでの内面描写とは全然趣が違って、なんとも妙味があったりするんですよね。何気にインタビューに対して正直に答えてなかったりもするし。そういう場合は他の人の見解なんかも添えてあったりして。
うん、そんな感じで全体的に描写に対するアプローチが普通の小説とは異なっていて、それが違う観点をもたらしていて、新鮮というのともまた違うか、でもとにかく通常とは違う味わいがあって、面白かった。ただ、今井くんに関しては初期の振る舞いは特に問題ないように見えたので、当事者たちが感じていた彼に対する感情の変化が伝わってこないまま、突然の豹変を迎えてしまったので、そのへんはけっこう唐突感あったかなあ。いや、この手の当事者たちの人間関係の空気感というのはインタビューを介しているせいか、なかなか伝わってこなかったのは全体的な傾向かも。やはり、インタビュアーを介している分、こういうのはおかしいかもしれないけれど、読み物の向こう側の話であるんですよね。登場人物たちへの共感や、同じ世界を旅しているような空気感、そういうたぐいのものに、普通の小説よりも一枚多く幕がかかって隔てられている感触があったのも確か。
でも、ルポルタージュ風という形式からすると、それが問題かというとそうとも限らないわけで、その隔てられた感じこそが本作の妙味の一つでもある、とも捉えられるんですよね。
ただ、ずっと同じ形式ばかりでシリーズが続いたりすると、それはそれで速攻で飽きが来そうな気がしないでもない。なんかラストでものすごい一文が入ってたけれど、これどうするんだろう。