F級討伐屋の死にスキル 「死ね」と言ってはいけない理由は? (ファミ通文庫)

【F級討伐屋の死にスキル 「死ね」と言ってはいけない理由は?】 黒九いな/ bun150  ファミ通文庫

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その必殺は無意味!? 竜の棲まう世界での異能アクションファンタジー!

討伐屋になって二年。未だに最低のF級のジンは、ギルドで憐憫の目を向けられても、頑なに単独クエストを続けていたが、C級装備の美少女エインに「秘密をバラす」と脅され彼女とパーティーを組むことになってしまう。しかし、楽勝のクエストのはずが、D級の粘竜に繁殖対象として襲われ、エインはあっさり貞操の危機に! やむなくジンは“あの力”を発動させるのだが――。その"必殺"は無意味!? 最弱のスキルを持つ少年のアクションファンタジー!
これはお父ちゃん病むわなあ。人の死に方にも人間としての尊厳みたいなものがあって、それが踏みにじられるような死に方というのは誰だってしたくないし、見たくない。見ればそれだけで瑕になる。その意味では、このお父ちゃんが即座に発狂しなくて正気を保とうとしたのは深い愛情だったのだろう。でもだからこそ、より酷い惨劇と憎悪を招いてしまった、と言えるのだろうけれど。
主人公のジンの過去が壮絶すぎて、筆舌に尽くしがたい。若干おかしくなっているところはあるものの、ほぼ健全で善良な精神性を保っているのが不思議なほど、というか異常なくらいなんですよねえ。討伐屋稼業をはじめて以来、ずっと最低ランクのまま貧した生活を送っていたものの、何気に周りの人たちに虐げられたりバカにされたりすることなく、けっこう生暖かく見守れてたりと人の悪意に晒されるようなことが少なかったから、というのもあるのかもしれないけれど何よりも彼の心を支える出会いがあったからなのだろう。
尤も、そのかけがえのない出会いが今となっては彼を縛るトラウマとなり、新しい呪詛となっているのだけれど。その呪いに自ら殉じて、残った人生のすべてを叶うことのない願いに費やし、代償行為を以って返しきれない悪夢を清算し続けているのだけれど、彼の偉いところはその行為を一つの信念にまで昇華しているところなのでしょう。代償行為なんてのは、それこそ何も考えず何の想いも込めず自動的に、反射的に行うようなもので、そこに意思なんてなかなか籠もらないものだろうに。
茫洋として希薄に見えて、過去に囚われているように見えて、幻影ではなくちゃんと今、自分の目の前で助けを求めている人の声を聞いて、その姿をちゃんと見据えて、助けようとしている。代償行為ではあっても、過去に助けられなかったあの娘の代わりに、なんてその人を見ていないなんてことはしていない。あれだけ呪われながら、それは本当に偉いと思う。だからこそ、今は彼に向けられる好意や愛情に応えられないとしても、そのぬくもりを否定しないでほしい。彼がいつか報われることを願うばかりだ。
正直、彼のスキルはあまりにも凄惨すぎるし、その過去にまつわる因縁は不吉や不幸をとめどなく引き寄せてしまいそうで、彼と一緒に行動するのは大変だろうけれど、エインにはヒロインとして頑張ってほしい。そのトンチキさとポンコツさを伴う真っ直ぐな好意は確かに、彼の救いになってるから。