漂海のレクキール (ガガガ文庫)

【漂海のレクキール】 秋目人/ 柴乃櫂人 ガガガ文庫

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帆を張れ、碇を上げよ、針路は未知の最果て。

 万能の源・エルにより圧倒的な文明と栄華を誇っていた世界があった。
しかし突如にしてエルが消失し、同時に陸地のほとんどが水没。かつての技術も失われ、全ての権力は唯一の陸地リエスを治める聖王家が握った。
 リエスから追われた人々は寄り集まり、『船団国家』を形成し、海で生活を送るようになる。親王派のアレム、中立派のファシェン、急進派のザレグの3国家が海上権を巡り航行していた。
 そんな中、リエスで突如政変が。聖王の弟が反旗を翻し、王位を簒奪。策略によって故郷を追われた聖王家の末姫・サリューは、父王から謎の海図を託され命からがら逃げのびる。
 その先で彼女が出会ったのは、海に生き自由と未知を求める船乗り・カーシュ。『不沈』の異名を持つ彼に、サリューはある取引を持ちかける。
「わたしを、この海図が示す場所に連れていって」
 航海へ出た二人は様々な思惑を乗り越え、人々がまだ見ぬ『新天地』への手がかりを掴むことになる。
『騙王』の秋目人がガガガ文庫に参戦!イラストは『ベン・トー』や『神殺しの英雄と七つの誓約』の柴乃櫂人! 海を漂い、最果てに想いを馳せる海洋戦記ファンタジー、出航!

せーのっ、海だーーー!!
海です、海である。海なのだ。そう海といえば冒険、そこが宇宙という海だろうと大空という海だろうと、海洋という海だろうと、海であるならばそこには冒険が詰まっている、冒険の世界が広がっている。古今、海という世界を舞台に描かれるのは常に、果てなき未知の世界へと漕ぎ出す冒険譚だった。本作もまた、その王道をど真ん中で突っ走っている。
はぐれものの船乗りの前に現れる逃亡者たる王女様。彼女が握りしめるのは古の海図、求めるのは王家に伝わる未知の大陸への航路。彼女の持つ地図を頼りに訪れた場所に隠されていた、古代文明の遺産。王女を追いかけて襲いかかってくる海軍船団。もうジブリか!というほどの王道の海洋冒険ロマンそのままの展開であり、その展開を持ってきたに恥じぬ堂々たる物語なのであるこれが。
王女さまがお客さまではなく、小さな船の船員として仲間として認められて、お姫様だからではなく自分たちの仲間サリューだから、彼女を護り助けるのだ、という流れもいいんですよね。お姫様にとっても、船での生活はそれまでの王宮での生活では知り得なかった出来事であり、まさに目の前に開かれた新世界であり、そこで出会った人たちの仕事と仲間に誠実な人柄は、そして船長カーシュの彼女を一人の人間として目線を合わせて接してくれるその姿は、身近な人間にも裏切られて傷ついた野生動物のようになっていたサリューの心を解きほぐしていく。小さな船での生活が、一人の王女様を一人の船乗りにしていく様子は、切った張ったの派手な展開ではなくても広い海での航海そのものが冒険であるのだと現しているようで、これがまた良かったんだなあ。そして、ちゃんと後半ではド派手は船同士のドンパチあり、相手の船へと切り込んでいく切った張ったあり、と抑えるところは抑えているのですよ。主人公のカシューは少年というにはあまりにもとうが立っているおっさんだけれど、冒険心をたぐらせている男はみんな少年なのです。そして、自分を待っている女の子のもとへと真っ先に切り込んでいくそれは、立派な主人公なのですよ。おっさんだけど。まだ若い彼をおっさん呼ばわりしてしまうとリアルおっさんなこっちがダメージくらってしまうのですが、ビジュアルイケメンの格好いい若者風なのに対して、言動かなり普通に歳食ったおっさんっぽいので、お前の方がおっさんだこの野郎、と思うことで心は凪ぎます。
それにしても、海水が真水ではないけれど塩水ではなく、不味いけど飲める、という世界はなかなかに意表を突かれました。ある意味、この一点で違う惑星の話という感じが出てるよなあ。