Zの時間 (HJ文庫)

【Zの時間】 榊一郎/活断層 HJ文庫

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久しぶりに外に出ると、世界は滅亡していた。

廃人FPSゲーマー・出庭博明が久しぶりに外に出ると、世界は既に滅んでしまっていた。
偶然にも出会ったゾンビオタクの少女・樹堂乙羽と共に、生き残るための準備を整えていく博明。
一息ついた頃、彼はゲームサポートAI・レイヴンが不審な挙動をとっていることに気づく。
画面にに表示されたのは、見慣れぬキャンペーンとメッセージ――『生き延びろ。世界をやり直す為に』
誰も見たことがない最高のハッピーエンドを、一芸に秀でたオタクたちでつかみ取れ!!

……あれ? あれれ? 
本作、いわゆるオーソドックスなゾンビ映画っぽいゾンビもの。突如発生したゾンビパニックによって現代文明が崩壊してしまった中で、生き残った僅かな人間たちがサバイバルしていく、という映画や漫画だとよく見る展開なんですよね。本邦だけでも、あまりにも有名な【バイオハザード】をはじめとして、【ハイスクール・オブ・ザ・デッド】とか最近では【がっこうぐらし!】とか。
ただふと振り返ってみると、ライトノベルだとこの手のオーソドックスなゾンビものって実は殆どなかったんじゃないだろうか。全然、読んだ記憶がないんですよ。
辛うじて、大樹連司さんの【オブザデッド・マニアックス】(ガガガ文庫)が思い出されるくらいか。
他はというと、十文字青さんが異世界でのゾンビハザード【断末のミレニヲン】なんてのを描いてらっしゃるのだけれど、やっぱり思いの外少ない!
他にもあるのかもしれないですけれど、少なくとも自分は知らないです。
他の媒体ではわりと定番なジャンルなだけに、これはちょっと意外でした。何気に話作るの難しいのか?
ともあれ、本作を手がけているのはベテランも超ベテランな榊先生であるからして、堅実な王道路線をしっかりと描いてくれるので非常に安心感が在る。その上で、オーソドックスな展開にも関わらず他に類型が見当たらないせいか新鮮味が多分にあって、これがまた面白かったんですよねえ。
そんなメイドが居てたまるか、というのもまたご愛嬌。アメリカのホームセンターならともかく、日本のホームセンターってそんなに凶器になりそうなものあるかしら、てなところもご愛嬌。いや、ホームセンター根城にしつつも、そんな大した活用はしていなかったあたり、ゾンビオタクの乙羽ちゃんの兎にも角にもホームセンターに籠もらねば、という使命感によるものだったような気がしないでもない。
なぜか要塞化された高級住宅があって、そこに知り合いが籠もっているのも定番ですよね!
一応、世界は殆ど滅亡しているようで、まともに生きている人の気配はなく、将来も未来も絶望的、という状況なのですが、そのわりに登場人物たちはそこまでネガティブにならずにどこかコミカルに描かれているのも特徴的と言えば特徴的。特にヒロインの乙羽がゾンビオタク、という以上にどこかピントの外れたキャラクターをしていて、面白い子なんですよね。榊先生、【棺姫のチャイカ】のチャイカ以来、わりとこの手のキャラクターを武器にしてヒロインとして多用してきてるなあ。
しかし、作品の雰囲気自体暗くせずわりと呑気というかライトに展開していく一方で、この災害の中で主人公もヒロインたちも身内を亡くしているのも確かな話で、家族仲が良くなかったメインの二人はショックを受けつつも、まず目の前の対処を優先していくのですが、あとで出会うもうひとりのヒロインであるところのお嬢様は、自身の家族との別れを真正面から克服しなければならない場面に直面していくことになります。
生きるために戦い、活路を見出し、先のない未来に閉じこもるのではなく、当て所のない果てを目指して旅に出る。結局のところ、ゾンビものの中でも世界崩壊してしまうものは、安住の地を求めてのロードムービーみたいなものになっていくのですかねえ。
ただ、本作に関しては果たしてこれ「現実」なのか、という謎がまだ残っているのですが。果たして大どんでん返しのひっくり返される舞台がどこまで広く深く根ざしているのか。乞うご期待、って感じで楽しみです。

榊一郎作品感想