【セプテムレックス 怠惰の七罪魔と王座戦争】 古宮 雅敬/mmu 富士見ファンタジア文庫

Amazon
Kindle B☆W


次期魔王を決めるバトルロイヤル―“王座戦争”。その開催が迫る中、面倒くさがりの“怠惰”の“七罪魔”・ラグナルは、“王座戦争”の中止を画策していた。しかしそのやり方は、魔界の住人の命を人質に取ったり、お金で解決しようとしたりと手段を選ばないもので―逆に魔王に人質にとられてしまったメイドのメリィを救うため、個性的な“七罪魔”たちを説得し、バトルロイヤルを阻止できるか!?“戦わない”バトルファンタジー開戦!
人に歴史あり、これの場合は悪魔に歴史あり、か。王座を争うことになった七人の悪魔たち。そのうちの一人である「怠惰」のラグナルは魔王になるのも面倒くさく、しかしこの王座戦争、負けると礎として勝ち残った新魔王に命ごと吸収されてしまう。ちなみに、時間切れになると世代交代は果たされずに現魔王に参加者全員吸収されてしまう、と何気にえげつない状況だなあ。ともあれ、魔王になりたくないラグエルからすると、勝っても負けてもろくなことにならないので、なんとかルールのスキをつくことを考えるわけだ。
方法はあるものの、それには他の七罪魔たちの協力が必要でありそのために同盟を交わすために駆け回ることになる、怠惰なのに。
怠け者というのはだいたい二種類居て、目先の暇を優先してあとでえらいことになるのも構わず怠惰かますやつと、将来思う存分怠惰を貪るために必要ならばいくらでも勤勉になれるやつ。
得てして物語の主人公格となる怠惰は後者のパターンが多いので、渦中が描かれることになる物語の最中では、怠惰でありながらむしろ作中で一番勤勉だったりするんですよね、面白し。
面倒くさい面倒くさい言いながら、近い将来思う存分だらけるために、あとメリィを守るために頑張るラグエルくん。ただ彼の頑張る方向性というのは悪魔らしくなく、戦ってねじ伏せるのではなく交渉であったわけだけれど、実のところ早々うまくはいかないんですよね。単純に交渉で協力関係になれたのって、最初の暴食のヴァルくんだけだったんじゃないだろうか。彼はもう根っからの善人だったので、難しい交渉ではありませんでしたし。
以降は見事に交渉そのものは失敗し続けるのだけれど、七罪魔の全員相応に思うところがあり、過去に因縁が在り、現在に至るまでに歴史があり、それを踏まえて彼らなりに将来の展望というのを思い描いていたんですね。そこには拗れた関係や歪みなんかも生じてたりするのだけれど、ラグエルくん全体的な戦略とか色々と作戦は練っているものの、個人個人へのアプローチ自体はあんまり小細工せずにとりあえずアタックしてるんですよね。結構誠実に。
それだけが要因というわけではないのだろうけれど、面白いことに協力関係というか仲間になった悪魔が、次の七罪魔との対決に玉突きみたいに大きな影響を与えていくのである。その人が抱えている理想、劣等感、誤解や成長を七罪魔同士のいろんな組み合わせが色々と噛合い絡まり合って、凝り固まっていたものを解きほぐしていくのだ。
ラグエルが中心ではあるのだけれど、思わぬ人が思わぬところで決定的な役割を果たしたりとか、七人が七人それぞれの関係を築いていくのである。特にセラとナースは一度どうしようもいかないところまで至ってしまっただけに、あそこで自力で自分たちで立て直すとは思わなかっただけに、けっこう感じ入ってしまいましたし。
バラバラ以前に面識すらも乏しい同士もたくさん居た七罪魔なんですけれど、最後には見事なくらいに七人のチーム、仲間同士になっていたんですよね。信頼と絆によって結ばれた七人に。最初にあの様子を見てたら、とてもじゃないけれど想像できない構図でありました。ラグエルのやろうとした協力関係というのも、うまくいっても本来ならもっと冷めた利害関係だけの結びつきがせいぜいという風に見えましたしね。ちゃんと七人全員掘り下げた上でそれぞれの問題に解決を施したわけで、それもある意味みんな自力で自分を変えたり成長してみせたわけで、読み終えてみればなんとも清々しい気持ちにさせてもらえる、なんかこう「いい話だなあ」と感じさせてくれる作品でありました。
現魔王さまだけ、えらい敵役を押し付けられた気もしないでもないですが、ともあれ面白かったです。