【空飛ぶ卵の右舷砲】 喜多川 信/こずみっく ガガガ文庫

Amazon
Kindle B☆W


人造の豊穣神・ユグドラシルによって繁栄を極めた近未来。人類は植物を自在に操り、時にはビルさえ"育てていた"。そんな文明絶頂期の中で、『大崩壊』は起きた。世界人口の半数以上が死に絶え、各地ではあらゆるシステムが麻痺。さらに突如現れた樹獣、樹竜と呼ばれる異形の怪物たちによって、人類はあっという間に地上から追放され、その拠点を人工の浮島・海上都市へと移した。
『大崩壊』から数十年。小型ヘリ<静かなる女王号>を操り、樹竜狩りを生業とするヤブサメ。彼は妹が患う奇病を治すため、師であり相棒でもあるモズとともに仕事をこなしながら、日本各地を飛び回っていた。そんな中、二人は東京第一空団副長セキレイの窮地を救い、その腕を買われて旧都市・新宿での大規模探索作戦への同行を依頼される。彼らを必要とするセキレイはヤブサメにこう囁きかけた。
「この作戦の成功は、キミの妹の病を治す事に繋がるかもしれない」
しかし新宿は「帰還不可能」とも噂される、Sクラスの危険地帯。割に合わないと、モズは難色を示すのだが――
これは鋼の翼と意志で空を駆り、樹竜を狩る者たちの物語。第12回小学館ライトノベル大賞・審査員特別賞受賞作。
作者がすごくすごくヘリコプター大好き! というのがよく分かる一作でありました。
だって、ヘリ大活躍ですもの。主人公たちが乗る<静かなる女王号>だけならともかく、いわゆるモブに当たるだろう他のヘリ。東京第一空団のヘリとそのパイロットたちも縦横無尽でしたもの。ヘリの機動力、攻撃力もさることながら、なかなか落ちないそのしぶとさ、タフネスさ、万が一被弾しても簡単には墜落しないその生存性。通常なら救援に迎えないような場所でも果敢に要救護者を助けに行けるどこにでも降りれる汎用性。ヘリって凄い、強い、なんでもできる格好いい! というのが伝わってくるんですよね。そのヘリを操るパイロットたちの粘り強さ、技術力の高さ、まさに凄腕たちという感じがまたビシビシ来るんですよね。
ラストの大規模探索作戦なんぞ、激戦も激戦。樹獣や樹竜という怪物の大群相手にあらゆるヘリが獅子奮迅、神がかりとも言っていい機動戦闘を見せてくれるわけです。どのヘリも簡単には墜ちないどころか、思わずブルっとくるような神業や最後まで諦めないプロフェッショナル仕事を駆使するのである。結局、墜落した機体はあってもどの無名キャラでも機体を制御しきって不時着まで粘って持ち込んでましたしねえ。
ヘリは死なぬ! ヘリは死んでも自分に乗る搭乗員は死なせぬ! と主張するようなヘリ三昧でありました。何気に機種も、地上から追いやられて海上都市に生存し、かつての文明を失った人類が運用しているにはびっくりするくらい多種多様の機体が出てきますしねえ。
樹獣や樹竜の素材がヘリ含めて様々な高度な機械にも使える、という要素はあるにしても、まあ大したものである。主人公たちが駆るOH-6Dは観測用の小型ヘリにあたるんだけれど、D型って自衛隊仕様らしいんですよね。相性は幾つかあって、そのうちの一つがフライングエッグ。空飛ぶ卵、すなわちタイトルのそれにあたるわけですね。いや、言われなきゃわかんないよ、このタイトル。
ヒロインにしてボスにして船長たるモズさんは、控えめに言ってもダメ人間であります。ヤブサメくん、どう考えてもとっととこの人見限って、別に就職したほうがいいと思うんだけれど。自堕落とかならまだいいんだけれど、稼いだ金根こそぎギャンブルやら酒やらで速攻使い果たしてしまうとか、完全に離婚案件、昭和のクズ親父である。昭和とは限らんか。古来よりクズと呼称されるダメ人間の典型である。どれだけ機上では有能であってもなあ、生活費も給料も使い込むようなのははっきりアカンでしょう。
ヤブサメくん、腕は確かだし空団からもスカウトされてるんだから、目的があるにしてもこの人の元だとちゃんと情報も入手できるのかどうか。
別にモズさんにベタぼれ、というわけでもなさそうなので、そのうち普通に以前のモズさんの相棒のように見限って離れてっても不思議ではないぞ。
結局、ヤブサメくんが目的としている妹の治療にまつわるあれこれに関しては、ヤブサメくんがそれを抱えている、という話が出ただけで、探索作戦の方にかかりっきりで触れることすらなく終わってしまったので、なんだろうこの一巻はキャラの関係の掘り下げや抱えている事情の解決というところは一切置いておいて、ひたすらヘリアクション! という勢いだったのかもしれない。
セキレイさんの政治的な立場と野心とか、ヒタキとの和解と親睦についても、後回しとか勢いでなんか解決、みたいな感じでしたし。
まあ「ヘリコプター!」という主題については、これでもかというくらい存分に叩きつけた感もあるし、実際ヘリアクションは手に汗握る熱いもので、読み応えありましたし、これはこれで満足度としては十分なのじゃないでしょうか。
変にごちゃごちゃ足止めて個々を掘り下げるよりもこちらのほうがいいのかも。
文明崩壊後の、それでもある程度の技術を維持して果敢に生きようとしている世界観も雰囲気のある良質で味のあるものでしたし。良作良作。