【迷宮の王 1.ミノタウロスの咆哮】 支援BIS/目黒 詔子 レジェンドノベルス

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サザードン迷宮の十階層に出現したミノタウロス。本来ならば中ボス程度の存在だったミノタウロスはなぜか、独自の行動をとり、迷宮内でその存在感を増していった。こぞって「打倒ミノタウロス」に挑む冒険者たち。しかし、彼らは皆、ことごとく敗退していく。そんなミノタウロスを手練れの冒険者たちが放っておく理由はなかった。「天剣」の異名を持つ剣士パーシヴァルもその一人で、彼は普通ならばパーティーで臨む階層にもたった一人で冒険に出て涼しい顔で戻ってくる、真の上級者だった。しかし、そのパーシヴァルですらミノタウロスの前に敗れ去るのだった。
もっとだ! もっと、もっと、闘いを! もっと、もっと、強い敵を! ただひたすら求道者のごとく強さを追い求め、みるみる強大になっていくミノタウロス。ついには迷宮のルールすら超えた存在として、迷宮に君臨していく……。

本邦におけるヒロイックサーガの最高峰の一つ【辺境の老騎士】を描かれた支援BISさんの、原点とも言えるのが本作【迷宮の王】である。書かれたのは2011年から。これを読んだときには「モンスター」が主人公というなろう作品はやはり多くはありませんでしたから、これを読んだときはかなりのインパクトがありました。
しかも、モンスターが主人公と言っても彼に人間と同じような人格、メンタリティがあるわけではなくあくまでモンスターなのです。人のような喜怒哀楽があるわけではなく、野心や責任感を背負っているわけでもなく、彼は本能のままに生きるのみ。
しかし、その在り方は決して獣のそれではなく、戦士なのでした。あくなき闘争心に身を任せ、しかし理性と知性を獲得していくうちにかの魔物は戦士の誇りと魂を芽生えさせていくのであります。
そして、あらすじのように求道者のごとく強さを求めながら、自分よりも強い存在を打倒していくのである。それはときに人類の英雄であったり、大魔導師であり、本来なら自分よりも格上の存在をときに運と偶然を味方にしながら、そして不屈の心と知恵と工夫を駆使して打ち破っていくのである。それはともすれば、強大なモンスターを冒険者たちが死闘の末に討つように。
本来は浅層十階層のボスモンスターでありながら、偶然にして誕生したモンスターの冒険者。それがかのミノタウロスなのである。
彼、本当に格好いいんですよね。ただ強さを求めて暴れるだけの怪物などでは決してなく、彼には常に敵への敬意があるのです。肉体的には貧弱な人間も、強力な武具と練り上げられた技術によって途方もない強者となることに、彼は常に驚きと尊敬を抱いて人間は凄いと思いながら人の強さを学び真似てさらに強さを増していく。その敬意は自分に伍する、或いは上回る強者にのみ向けられるのではなく、まだ幼い子供の冒険者相手でも、強くあろうとする意志、強大な存在を前にして屈しない勇気には英雄を相手にするように接するのである。パンゼル少年への、あの公平極まる将来の英傑への厳かとも慈愛ともとれる姿は、いっそ美しいとすら言える光景で瞼の裏に焼き付いてるんですよね。

これは迷宮の王となるミノタウロスの物語であると同時に、かの王に挑む英雄たちの年代記でもあるのです。強さを求めて迷宮の奥深くへと潜り、やがてその奥底で自分に挑む英雄たちを待つようになった、配された王ではなく自ら勝ち取った王座に座するミノタウロス。その彼に挑む英雄たちにもそれぞれ歩み続けた英雄としての物語がある。そこで英雄として成し遂げられたこと、成し遂げられなかったことが次の世代へと受け継がれていき、新たな英雄譚が開幕しその果てに迷宮の王との邂逅がある。まさに年代記・クロニクルとなる物語が、ここからはじまる。