【第六皇女殿下は黒騎士様の花嫁様 2】  翠川 稜/赤井 てら  ヒーロー文庫

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帝国の第六皇女ヴィクトリアと、屈強な強面騎士アレクシスの婚約発表は成功に終わり、二人は新しく辺境領を治めることになっていた。「何もないところなんだから、何でも作っていい」とワクワクするヴィクトリアは侍女のアメリアの提案も入れつつ、どんどん開拓計画を進めていく。しかし一方で、隣国から留学しているイザベラ王女の暴走は続いていた。一国の王女である自分を差し置いて、子供にしか見えないヴィクトリアばかりチヤホヤされる現状は屈辱そのもの。苛立つイザベラのもとに、イザベラに熱を上げる男、シュレマー子爵が現れて…。

ヴィクトリアのアレクシス好き好きっぷりが微笑ましい。あからさまなくらい好意を振りまいているので、ようやく周りの人たちもヴィクトリア……トリアが本当にアレクシスの事を好きだというのを理解して、小さな姫から無辺の愛情を差し向けられているというフィルターを通すことでアレクシスという騎士が恐ろしい怪物ではなく、不器用ながら実直な男だというのが彼を詳しく知らぬ人々の間にも広まっていったの、若干トリアの思惑もあったんですかねえ。あの好き好きっぷりはわざとではなく素のものなんでしょうけれど、自分のそうした態度がどういう作用をもたらすのかについては、この聡い姫様は承知の上ではあったんだろうなあ、と思えるくらいには強かさが垣間見えるんですよね、このヴィクトリア姫。
ただ、一方のアレクシスの方はトリアに対する感情は忠誠以外のなにものでもなく、かろうじてそのか弱い見た目から庇護しなくてはならない、という使命感が寄り添っているようなもので、その可憐な容姿に見合わぬ統治者としての才覚に対して尊敬の色を隠さないのだけれど、どこからどう見ても彼の態度は主従のそれであって、自分の奥さんになる人に対するものではないんですよねえ。
女性に対する接し方、レディの扱い方以前の問題であることは明らかなんだけれど、アレクシス自身はまったくそのあたり自覚も認識もないんだよなあ。
幸いにして、彼の周りの人間が正確にアレクシスの錯誤を認識して積極的にフォローし、彼の思い違いをその度ごとに指摘し修正し説教しているので致命的なことにはならず、なんとかうまくまとまってはいるのだけれど……。
これだけ指摘されていながら、根本的な認識が揺るがずにこの姫様を娶ることの意味とか夫婦とは!というあたりの事についてわかっていない、或いは認識するのを無意識に拒否しているのか、どうやっても理解できない筋金入りの朴念仁なのか、理由はともかく打開の隙が見えないアレクシスはこのままだとちょっと危ういんじゃないだろうか。
トリア、今領地の開発の件とアレクシスの婚約がうまくいっていることで舞い上がってテンションMAXですけれど、彼女も一番根底のところで自分に自信がないところがあるし、アレクシスに自分は似合わないんじゃないか、というコンプレックスもあるだけに、どこかで大きな齟齬が生じてしまいそうで怖いところである。ただの痴話喧嘩とか誤解とすれ違いの結果とかじゃなく、これに関してはアレクシスがヴィクトリアを主君ではなく一人の女性として愛することが出来るのか、というところがスタート地点でゴール地点なだけに、今の状態から一度食い違うと簡単に仲直りして終わり、といかないだけに……。まあ、今から心配しても仕方ないのだけれど。

しかし、帝国は戦勝国であるはずなのになんで敗戦国のイザベラの国にそんなに気を使う必要があるんだろう。いやまあ、良識的に勝った国だろうと何やっても良い、という野卑な認識を持たずに負かした国に対しても礼節を持って接しているというのは尊敬に値する態度だとは思うのだけれど、あれだけ無分別無神経に振る舞われて黙っているのも、どうなんだろう。いや、黙ったままでは終わらなかったのだけれど、これを奇貨としてさらなる要求を突きつける、みたいな交渉材料にしてしまうくらいの強かさはあってもよかろうに、と思ってしまった。気を使うべきは本来ならあっちだろうに。
帝国の姫様たち、みんな有能優秀極まる傑物姉妹なわけですし。
そもそもイザベラの物語の中での役割がよくわからなくて、単なるトリアの噛ませかと思ったら意外にもちょろっとイザベラにもフォローがあったのには驚いた。でも、トリア関係ないところで姉姫さまがやったことなので、あとで敵が翻って友達に、みたいな流れでもなさそうですし。

ちょっと面白いのが、メインのトリアとアレクシスとは関係ないところで、いや関係なくはなく彼らの身近な人間、ということになるんだけれど、そこにチラホラと前世が現代地球人、と思しき人たちが散見されるのが面白いアクセントになってるんですよね。今の所アクセント、くらいの影響力ではあるんですが。いや、あの発明姫さまは影響力だけなら完全にやりたい放題ではあるんですが。
姫様の魔法もちょっと便利がすぎる。あれ、何気に今まで街道工事に携わっていた現場の人たち立つ瀬ないんじゃないだろうか。ちょっとした工事関係者へのフォローやこのまま派手に魔法を使い続けていることへの危惧みたいなものは挟まれてはいましたけれど、あの一瞬で道が完成してました、ってのは結構キツイものがあると思いますよ、なかなか好意的にすごいすごいと言えるだけの感情では済まないものだよなあ、とちと想像してしまいました。そのへんのさじ加減、果たしてトリア姫の無自覚の僅かな無神経さにつながるのか、単なる姫様凄いのシーンなのか。はてさて。

1巻感想