【ガーリー・エアフォース X】 夏海 公司/遠坂 あさぎ  GA文庫

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ロシアのアニマ達との共同ミッションを終え、ノヴォシビルスクでの祝賀会に参加した慧とグリペン。各国の要人に囲まれ恐縮していると、ジュラーヴリクから、パクファが調整のため小松へ向かうと聞かされる。フレンチベージュのエプロンドレスに微笑をたたえ、見た目は大人だが中身は赤ん坊な彼女を心配して、面倒を見て欲しいと懇願されてしまう。しかし、小松に帰還するなり行方不明になってしまい!?第5世代の最新ステルス機なので隠れるのはお手の物、ということで、騒然とする基地内を探し回る慧とグリペンだが―。ザイへの大反抗が始まる、クライマックス直前の第10巻!

千年前の地層から発掘されたF15イーグル。この本来ありえない存在が永遠に続く繰り返しを打開する鍵となるだろうことは予想できたんだけれど、まさかこうなってしまうとは。
うぁぁ……。
グリペンの記憶を元にザイの攻勢を効率的に叩き潰していた効果は、本来数年後だったザイとの決戦の前倒しという形になって現れてしまう。しかし、それでも勝てない未来は決定づけられてしまっている。だからこそ、グリペンの繰り返しに頼るかしかなかったところに、蜘蛛の糸として垂らされていたのが、あのイーグルでありそこに秘められていた真実から、慧が僅かな希望の光を探り当てるのだけれど……。
そのあるかなしかの可能性を絶対にあるというところまで押し上げて、それを実現するための道筋を凄まじい馬力と政治力と交渉力と発想力と技術力で構築してしまった八代通さんの、もうこの人すごすぎじゃね!? という凄まじさ。
慧の存在は確かに重要ではあるし、まさにキーパーソンであり、彼はその立場で必要以上の成果をあげていると言って良いんだけれど、彼が何かを成し得るために必要不可欠なすべてを準備し用意し作り出し引っ張り出し根絶やしにして奪い取り与えてくれるのは、全部八代通さんなんですよね。もう魔法使いだろうこの人。技術者としても日本のアニマ開発を主導してきた実績からもすごい人なんだろうけれど、それ以上に組織人としての政治力がバケモノすぎるんですよね。本来ありえないレベルで必要なものを必要なだけ必要な場所に持ってきちゃうんだから、もう信じられんですよ。
この人が居なかったら、本気で慧は何も出来なかっただろうし何にも関われず何も成し得なかったでしょう。癖のあるとんでもない人だけれど、はたしてこれほど頼りになる大人が味方になって、同じグリペンを助けてやりたい、という気持ちを共有して一緒に戦ってくれる幸運が他に在り得ただろうか。
ともすればたわごとにしかならなかっただろう慧の発想と発見を、八代通さんは見事に人類の存亡をかけた決戦にまで、あの僅かな時間で仕立て上げてしまったんだから、もう筆舌に尽くしがたい凄まじさですわ。いや、まじでこれこそが格好いい大人ってもんですよ。マジで格好いい!!
そんでもって、未だ戦力がすり潰されていない人類側の決戦戦力がこれ凄まじいことになってるんですよね。はたしてこの規模で航空機が投入されたのってWW兇任皹笋拜躾瑤埜爐垢襪らいで、一回の決戦で投入される機数としては空前絶後になるんじゃなかろうか。
それも高価極まる現代の最新型戦闘機で、ですぜ。
ザイとの交戦で世界各国、増産に増産を重ねていたようなので単価は下がってるだろうし機数は満たせるのだろうけれど。
映画インディペンデンス・デイかエースコンバットゼロのベルカ絶対防空戦略空域「円卓」ってノリで大いに盛り上がる展開なんですよね。語られる作戦概要を聞いているだけで鳥肌がたってくる。

だからこそ、最後にファントムが告げてきた起こり得る結末の姿が衝撃的すぎたんですよねえ。
まだ未成年の学生に過ぎない慧は、これまでもずっと分不相応なくらいの重荷を背負ってきましたし、グリペンによってもたらされた世界の真実は、慧の心をズタズタに切り裂いて絶望のどん底へと突き落とし、それでもなお立ち上がり諦めず、世界を救う、グリペンを救う筋道を見つけ出した彼に対する仕打ちがこれなんですからねえ。最後の最後まで、あまりに彼に厳しすぎる展開じゃないですか。
しかも、これに対して慧はもう逃げ場がないのですよ。
これまで引っ張り続けていた幼馴染の明華との関係についにケリをつけてしまったのですから。グリペンの真実を共有する過程で、蛍橋として生きた前の世界で慧はこれまで気づいていなかった明華の本当の気持ちを、彼女がどれだけ深い傷を負って生きてきたのかを知ってしまった以上、いつかは……そして早めにその精算をしなくてはいけなかったわけで。
唐突に訪れた、明華の生き別れの家族との再会に伴う別れの時に、行き場のないまま引きずり続け二人の未来にどうしようもない傷を残すはずだった曖昧な関係に、終止符を打った。
その直後にこれですもんね。
もう明華に慰めてもらうわけなんざ行かないし、彼女に逃げるわけにもいかない。振った彼女に背中を押してもらうとか支えてもらうとか叱咤してもらう、なんて見っともない無様な真似ももう出来ない。
この件に関して、慧は一人で決着をつけなくてはならなくなったわけですよ。
キツイなあ。正直この少年、決してメンタル強いわけではなく、自暴自棄になりやすいのに。

でも、この件を秘密にしたまま決戦に赴いてしまったら、いざ事が終わった時に慧に今度こそ立ち直れないほどの深い傷を負わせることになる、とファントムはわかってたんでしょうね。
だからといって、事前に教えることだってどうなってしまうかわからない。それでも、この件を伝えようと決意したことはホントにファントム、フェアだと思うしそれを誰でもないファントム自身が引き受けたあたりなんぞ、この娘の責任感の強さと優しさを感じてしまうのです。
そして、あのセリフ。あれを「私達」ではなく「グリペン」と、彼女一人を指して告げたあたりに、なんていうんだろう……ファントムの乙女の意地、みたいなものを感じたんですよねえ。
この作品、この物語は間に誰も入る隙がない、慧とグリペンのラブストーリーでありましたし、数いたアニマたち、何気にみんな仲間であり戦友ではあってもあんまりヒロインとしては立っていなかった中で、唯一ファントムだけが……グリペンに対抗しようとしたわけではないのですけれど、仄かに乙女心を垣間見せていた気がするんですよね。だからこそ、他でもない自分を恨めと言ってのけたところに、彼女の意地を見たのです。
面倒くさいけど、やっぱりイイ女ですよ、ファントムは。あと、キャップにパーカー姿のファントムは新鮮な可愛さがあって実にヨカッタです、うん。

ついに正真正銘のクライマックス。決着の時来たれり。空戦アクションにして壮大なSF作品として綴られたこの物語の結末、正座して手に取ります、はい。

シリーズ感想