【利他的なマリー】 御影 瑛路/有坂 あこ  電撃文庫

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ここカスミシティでは、若者たちは株式会社のように自分をRELEASEという市場に上場し、時価が付けられる。そのカスミシティで事件が起こる。謎のアプリ“パノプティコン”が若者のデバイスにインストールされ、街がバトルフィールドに一変。他人を倒してその価値を奪う争いが始まったのだ。それは言わば億単位の金が平然と動く鬼ごっこ!そんな状況に突如巻き込まれたユウスケは、危機一髪のところをクラスメイトの少女マリーに助けられる。普段は孤立し、RELEASEというシステムからも逸脱しているマリー。はたして彼女は何者なのか。その事実が明かされるとき、もうひとつの真実が明かされる!?
相変わらず特殊な条件下にある一定の閉塞的な空間内での人間関係の鬩ぎ合いとなる対決を描かせると、この作者さんは鋭いエッジが立つかのような作品になるなあ。
今回は特に一から十まで計算し尽くしたかのような構成になってるんですね。スタートからゴールまで想定された通りに敷き詰められた美しいストーリーライン。それでいて、予定調和とは程遠いギミックや展開を仕込んでいるので、読んでいるこっちの思う通りには話が進んでいかないのである。でも、それは無理矢理の方向転換でも突如ルートを外れて獣道を行くようなものではなく、整然としたロジックに基づく急転換であるので、読んでるこっちからすると見事にやられた、という感想しか湧いてこないのである。
そもそも、本当に冒頭の冒頭から伏線は仕込まれていたのに、それを物語においての伏線ではなく世界観の基準となるラインを表現するものと解釈させてしまう巧妙さに、あとあと唸らされることになってしまうんですよね、これ。
主観は本当に信じるに能わないものなんだけれど、そこに客観的な数字や評価を混ぜられてしまうとついついそっちに引っ張られてしまうんですよね。ただし、その客観とやらがどういう基準で示されているものなのか。
このカスミシティの根幹をなすRELEASEというシステムについては、そもそも端っから肝心のマリーがそのシティとして求めている姿勢に真っ向から反抗しているうえに、マリーやユウスケたちが正義のミカタとしてやっていたことは、RELEASEというシステムの陥穽から生じるであろう災厄を防ぐものである以上、そもそもがRELEASEと相対するのがマリーの立場であり主人公サイドの立ち位置であるはずなんですよね、考えてみたら。
だからこそ、RELEASEの価値基準への拘りというのは物語の視点となるモノを根底からひっくり返すに十分な材料となっていたわけだ。最初から、本当に最初から実は既に舞台は根底からひっくり返されていて、それに気づかずに踊っていたと言えるのかもしれない。
自分の場合は本当にギリギリまで、カナタのマリーへの想いが語られるまで気づかなかったもんなあ。これには見事にやられた、という感覚にさせられましたよ。

現在のYouTuberにも似た自分をプロデュースすることで他者から自分の価値を決めてもらい、それによって評価を得て報酬を得るというカスミシティのシステム。その価値基準を悪用したパノプティコンというアプリの氾濫に、そこから生じるであろう世界の危機に敢然と立ち向かおうとする、「利他的なマリー」。他者を助けることに狂気的な執着を見せ、そのために救世主へと仕立て上げられた少女と、その彼女に魅せられて彼女の元に集ったユウスケ、カナタ、リリカという三人の男女による、正義の味方活動。世界のために、カスミシティの価値基準に寄った個々人の未来を叩き潰していくという「正しい行い」。
他者から得られる評価という、曖昧な決して正当でも正確でもない価値の、不安定さと理不尽さと……可能性。正しさというものの利己性と利他性。他者を愛し慈しむことの無残さと尊さ。
そういったものを、クルクルと回る鏡面のように映し出す光景を変えながら一本筋の通ったストーリーラインで描き出す物語。その完成度は、振り返ってみてもやはり見事の一言でした。
惜しむらくは、<NineSK>の面々の活動が変質していくまでのまだ楽しい活動だった時期がすっぱり削られてしまって、活動が始まった途端かなり唐突に危険水域に突入しているところに飛んでしまったところですか。ダラダラと余計な描写を挟んでいる余裕がなかった、とも言えるのでしょうけれど、その余分が欲しくもあった気がします。実際、入れてしまうと物語としてダレてしまったのかなあ。あと、<NineSK>の四人が集まるところ。リリカとカナタの参入がこれも唐突感あったんですよね。カナタに理由があったのはよくわかるんだけれど、最初読んだ時はいきなり脈絡なく集まったなあ、と面食らったところでもあったんですよね。
なにはともあれ、面白かった。個人的にはカナタのあの図々しさというかラストの臆面のなさは応援したくなりました。幼馴染は、噛ませじゃあないんだよ♪

御影瑛路作品感想