【キングメイカー! 戦野の隅の大英雄】 串木野 たんぼ/柴乃 櫂人  GA文庫

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「やめてくれ!た、助けぇえぇ!」
観客の盛り上がりが選手の力に変換されるバトルスポーツ・ヨルムンガンド。その日、六道昴哉は“命乞いの演技”によって『ピンチに駆けつける味方の登場』を演出。チームを勝利に導いた。だが彼は―(俺は駆けつける側がやりたい!)内心ブスブスくすぶっていた。そんな彼はある日、軍事の名門・長舟家から家出してきた剣豪少女すばると出会う。無一文で出てきたすばるは、お金を稼ぐために昴哉のチームに入ることになり―!?“歩兵”の少年が、少女を助け真の“英雄”へと翔け上がる!!劇場型バトルアクション、開幕!
これ、好きだわー。
スタジアムで行われるスポーツとしての戦争。観客の盛り上がりがポイント加算されて選手の力に変換される、というのが味噌でただ強いだけじゃなくて、演出が大事になってくるスポーツなんですね。
だからか、とにかく目立つ戦い方が注目されるのですけれど、そんな中で主人公の昴哉は幼馴染のサキとともにチームの花形である「英雄(メサイア)」を目指してヨルムンガンドをはじめたものの、サキがチームの英雄に駆け上がったのに対して、彼は兵士(ポーン)に燻ったまま。
でも、その実態は周りのチームメイトを目立たせ、支援し、カッコよく演出する献身的な立ち回りで駆け回る、いわばチームの屋台骨であり縁の下の力持ちなのである。
当人としては、現状は忸怩たるものがあるものの、決してやらされていることじゃなく、献身的な演出支援は彼自身が率先してやってること。ついついやってしまっていることなので、これ性分なのでしょう。
だから、自分が抱きかかえている夢、幼馴染と交わした約束を果たしたいという想い、自分こそが一番格好いい役をやりたいという願望と、自分以外の仲間たちを助け喜ばせ目立たせることへのやりがい、楽しさ、喜びといった性分という矛盾した本心に挟まれて苦悩することになるのである。
両方とも昴哉の本音であり本心だからこその、苦悶なんですよね。もっとも、性分の方はあんまり自覚なかったようだけれど。

でもね、彼の所属するチームが素晴らしいのは、この昴哉の献身をみんな一兵士がやるべきアタリマエのこと、なんて思わず、彼の献身を心から感謝して、彼のことを都合のいい存在なんて考えずに、昴哉のことを好きで居てくれるところなのである。彼の頑張りに対して、報われるべきだ、報いてやるべきだ、とみんなが考えてくれていて、昴哉のことを信頼して彼ら自身にとっての色んなものを、大事なものをまるっと笑って預けてくれるのである。
昴哉にとっての幸いは、まさにこのチームに入ったことなんじゃないかと思うのです。
いやまあ、対戦相手のチームを見てもみんなカラッとしたいい人ばかりで、目立ちがりやでカッコつけという側面はみんなが持っているのだけれど、切った張ったの戦争がテーマのスポーツだけれど、このスポーツ自体が快活で好漢の集まりなんだよなあ。まあ、切った張ったとはいってもまず怪我をしないように調整してある特殊な武具を使っているので、血なまぐさいことにはならないし、負ける時も散りザマ演出というのを負ける側が嬉々としてやるようなゲームなので、ドロドロとした因縁が生じにくいのでしょうけれど。いやもう、みんな楽しそうなんですよね。善き哉善き哉。
というか、このスポーツ云々がというよりも、作者の作風によるものと言ってもいいかもしれないですね、登場人物が好漢ばかり、というのは。
小気味の良いスタッカートの効いた文章は、作品の軽妙さに良い意味での切れ味みたいなものを付与していて、コメディタッチなノリにもかなり快速なテンポを与えてるんですよね。
この手の、短く切るような文章のスタッカートを効かせていることに成功している作品は、大概かなり面白くなってる所感があります。同時に、内面描写にもこの手法ってアップテンポを与えやすいんだよなあ。個人的にかなり好きな語り口だったりします。
メインヒロインはこれ、すばるになるんでしょうけれど何気に嫁ポディションはしっかりと下宿先の綾ちゃんがガッチリと握りしめて離していないので、幼馴染のサキとすばるが争うことになるのはヨルムンガンドにおける昴哉と並び立つポディション、ということになるわけか。
と言っても、サキはそれこそが主体なのだけれど、すばるの方は家の事情が主体なわけで、そこに昴哉をどえらい予想外の形で巻き込んでしまうことで、昴哉の迷いながらもこうと決めたら命がけでも譲らないという気合入った生き様を目のあたりにすることで、めっさ引き込まれてしまうわけですが。
しかし、その点に関してはむしろすばるのお父ちゃんの方が昴哉に男惚れしてしまっているような気がしないでもない。クライマックス、完全にお父ちゃんの頑なな心を陥落させろ、になってるし。メインヒロイン、お父ちゃんじゃないのかもしかして。
すばるはかっこよさよりもあのスットコドッコイなポンコツ具合の方が魅力ですぞ、うん。
手に汗握る燃える展開もさることながら、カッコつける演出シーンが何気にマジでカッコよくて観客とチームメイトと一緒にうひゃーーとはしゃいでしまうんですよね。読んでて素直に登場人物と同じノリで「楽しい」を堪能できる、実に良い作品でした。これは続きも大いに期待。