【ひきこもりな余をどうやって魔王にするというのじゃ?】 柊 遊馬/茨乃  電撃文庫

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魔王城(自宅)に皇女籠城中!? あがり症な新魔王の就任式を成功させよ!

メールを開いたら光に包まれて、魔王城に召喚された俺(ベタ展開)。俺を喚んだ家臣によると、次期魔王が極度のあがり症で、就任式が執り行えないんだと。
問題の次期魔王はというと、
「い、いやなのじゃ! 部屋から出たら死んでしまうのじゃ!」
ひきこもりも患っていらっしゃる様子。
不可侵条約の期限が切れる前に就任式を済ませないと、人類との戦争という最悪のシナリオに!? だから俺の感動的な演説原稿とスピーチ術で、彼女の就任演説を成功させて欲しいというのだが。
……待て、どうして俺がワナビだとバレてるんだ!? 俺のことを『漆黒の邪眼天使(PN)』と呼ばないでくれ!

まだデビューすらもできてないじゃないか、この先生。そんなウェブ小説作家先生が書かれたあがり症の女の子を生徒会長にするお話を見込まれて、うちの引きこもりを魔王にしてやってください(拒否不可)と喚ばれてしまった主人公。相当の無茶振りである。小説書いてその道の専門家になれるなら、ミステリーを書いた作家はみんな名探偵である……結構ミステリー作家兼名探偵なキャラもいそうなのであながち間違いではないかもしれないけれど。
でもこの次期魔王陛下のヴィレって、元々は快活な性格だったのが成長に伴う肉体的なコンプレックスや次期魔王という重圧、トドメに父親である魔王の早逝という幾つもの要因が重なった結果、人前に出ることが徐々にできなくなって、あがり症というよりも対人恐怖症気味な症状を発症してしまったために引きこもりになってしまったという経歴の持ち主であって、根っから怠惰でやる気がなくて引きこもってるというタイプじゃないんですよね。いやどっちも軽重はないんでしょうが、ヴィレさまの場合かなり深刻な経過を辿っているだけに、これ本職のカウンセラーが必要な案件だったんじゃなかろうか。
とはいえ、それでは話が広がらないのでワナビ先生が自分が調べた知識を支えに、自分の力でヴィレさまの症状を改善できるようにあれこれ奮闘をはじめるのである。
ただ、ヴィレさまの場合本人やる気は十分あるんですよね。やる気があるからこそ、人前に出れない自分に相当の悔しさをいだき忸怩たる想いを抱えていたわけで、やる気のない輩の尻をペシペシ叩いてやる気出させるという不毛な作業が必要ないだけサクサクと話は進むのである。
誠意を持って接することで信頼を得て、急き立てて立たせるのではなく無理やり引っ張るのでもなく、一緒に一つ一つできなくなっていたことをクリアしていく二人三脚の日々。ヴィレさま側のやる気も必要不可欠だけれど、根気よく地道に一歩一歩進んでいく作業に付き合い一緒にこなしていくのは日置くんの方も大変だっただろうし、彼の誠実さと根気強さが感じられるものでした。
とはいえ、先代魔王様も亡くなっていて人間世界との不可侵条約の更新時期も間近に迫り、のんびりと魔王就任を引き伸ばしているわけにもいかないので、自然と急き立てられてしまうわけですが。
それでも、次期魔王は殆ど彼女に決まっていて、反対勢力も基本的にそれほど厳しい追求があるわけではなく、ヴィレさま自身次期魔王としての能力は十分であり為政者としての知識や目標など勉強も重ねていて、ほんとただあがり症だけなんとかなれば済む話だったのでクリアする壁はある意味一つだけだったのが幸いだったのでしょう。
一つ一つのエピソードもそれほど手間暇かからずサクサク進んでしまったのは、こうなると逆にあっさりしすぎ、という感も否めませんでしたが。コロコロと坂の上から転がしたボールが下までルートをそれずにキレイに転がり落ちたかのような淀みの無さで、そこでのキャラの掘り下げなんかも実はあんまりなかったんじゃないかな、と。死してなお娘の行く末を見守っている父親、とか色々と要素はあったと思うのですけれど、そのあたりの見せ方なんかもサクッとしすぎてたよなあ、これ。
読み手側の興味が薄れてしまったと感じたら、サクッとこれまで書いていた作品を放り捨てて新しい作品に着手して、とこれまで作品を完結させたことがなかった日置先生。チクチクっと悪気なくそんな日置くんに突き刺さるあれこれはあったものの、それを踏まえてという展開があったのかなかったのか、というあたりもフンワリしすぎていたところかしら。
ともあれ、サクッとアットホームな話を読みたいという意味では実に読みやすい作品だったのではないでしょうか。

柊遊馬作品感想