【ミリオン・クラウン 4】 竜ノ湖 太郎/焦茶  角川スニーカー文庫

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刮目せよ、人類最強の力――決戦の刻、来る。

遂に動き出した王冠種・大山祇命。三四に刺され、倒れ臥す一真を尻目に、九州は死地と化した――。
中華大陸連邦、シャンバラ、そして極東都市国家連合は、共同戦線を張りながら大山祇命に対抗を続ける。そして、迷いながらも立ち上がった一真は、三四の真実に思いを巡らすことで、一つの結論へとたどり着く。
一真の覚悟、三四の決断、ジャバウォックの変心――死地と化した九州にて交錯した想いが結実する時、遂に人類最強戦力と王冠種が激突する! 竜ノ湖太郎が放つ新シリーズ第四幕―――刮目せよ、人類の力!!
純情かよ、ジャバウォック。
前回でその虫酸が走る悪辣さから、霊長を争うライバルとして相応しいのかとすら疑問を覚えたジャバウォックなのですが、蓋を開けてみるとなんだろう、この迷子の子供みたいな存在は。
死の価値を知らず、生を冒涜する存在。でもそれは裏返すと、生まれたてでまだ何も知らない無垢な存在であるとも言えるんですよね。さり気なく語られていましたけれど、死体を操るような冒涜的なやり方も、実のところ人間の真似をしたみたいなこと言ってましたし。
同種同類の存在しない唯一無二の存在であるが故の孤独。最初からそう生まれたのだからそれが当然と感じることが出来たのなら、ジャバウォックは完全であったのかもしれません。でも、彼はその在り方に孤独を、寂しさを感じてしまった。だからこそ、集である人間の存在に惹かれ、その他者を虐げる実態を目の当たりにして失望し、人類史で人類が重ね続けた悪行を真似することで蔑み、突き放そうとする一方で、他の王冠種のように人の群れを配下に置こうとしたり、三四に入れ込んだり。
効率の問題だの契約を果たしているだけだ、なんて言ってるけれど終わってみるとどう考えても建前ばかりで、そこには寂しさを埋めようとする感情があり、繊細な情動があり、未練があり、捻じくれた悪意ある言動の裏には素直なほどの愚直さと誠実さが伺えてしまう。傷つきやすい柔らかな心根が伺えてしまう。
三四に問いかけた、自分が醜い龍だから? なんてセリフはそれを気にしていないと出てこない言葉ですもの。
それだけてひどい裏切り、と捉えられかねない選択をされたにも関わらず、激高して何もかも潰してしまうような感情的な行動を選択せず、最期に彼が行った幾つかの行動は、お前どれだけ純情少年なんだよ、と言いたくなるような振る舞いなんだよなあ。

那姫を一度信じると決めたら、どんな疑わしい側面が彼女に現れだしても疑念を挟むことすら無く信じ抜く一真もまた、恐ろしいほどに愚直で誠実である。その傾向は殆どの登場人物、ミリオンクラウンと呼ばれる人類最強たる逸脱者たちも、双子のような将来の幹部候補とはいえ一兵卒な若者たちまで、みなこの人類退廃の生き残ることからまず困難な時代でありながら、それとは裏腹にあまりにも誠実な生き様を示しているのが印象的なのだ。それが、この生き苦しい時代を生きる上で、未来を指し示す上で必要なことだからなのだろうか。
一方で三四たちを生贄にするような実験を強行していたような原罪を生み出し続けるような人間たちもいる。だけど、恩恵を一方的に享受しながらその犠牲に真摯たろうとしない面々もいるけれど、この実験を主導していた九州の指導部は、それはそれで生き残るために誠実であったとも言えるんですよね。
でも、三四はそんな彼らを拒絶し、でも双子たちに出会い、友のために自分の役割を受け入れてしまった。それで、怪物と少女は共に行く未来をなくしてしまったのが、こうなってみると少し哀しい。ジャバウォックは、無知であったがゆえに人との関わり合い方を知らなさ過ぎた。露悪的な言動は、憎しみをもって共感を抱こうとしたやり方は、結局不器用に過ぎたのだろう。それでも、三四には彼の一番根っこの部分は伝わっていたはずだ。だからこそ、自己評価の低い彼女は自分では彼には相応しくない、と思ってしまったのかもしれない。
ジャバウォックにとって、三四こそがアップルパイを一緒に食べてほしい人であっただろうに。残念ながら、彼がそれに気づけたのは多分、彼女にフラれたその時なのだろう。
ともに生きる、寄り添う相手が果たしてこれからの彼に見つかるのか。三四を助けて、新たな共生者の誕生を選ばず孤独に去っていったジャバウォックの行く末を、今強く想う。

茅原那姫の実体というか正体らしきものも見えてきた上で、ついにまたぞろ「ウロボロス」なる暗躍者も姿を見せてきた。ミリオンクラウンも王総統にカルキと登場して、そのキャラ以上に現在の人類における存在意義みたいなものも伝わってきて、同じミリオンクラウンとなるだろう一真が今度どう在っていくのかの指標ともなるのではなかろうか。まあ、彼はどうあっても彼らしくしか在れないのだろうけど、さてそのまま那姫といい雰囲気になるんだろうか。
お膳立てが整って、これから大いに物語が動き出しそうな予感。の前に、次回ははじめての日常回、らしいけどそれで果たして済むのか否か。

シリーズ感想