【終末なにしてますか?異伝 リーリァ・アスプレイ】 枯野 瑛/ue  角川スニーカー文庫

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亡国の姫、勇者、13歳。『終末なにしてますか』シリーズもう一つの物語。

【TVアニメでも話題騒然の『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』シリーズから紡がれる、新・外伝。】

リーリァ・アスプレイ――極位の聖剣セニオリスに資格を認めらた正規勇者(リーガル・ブレイブ)の少女。
「あんたって、やっぱりさ。生きるの、へたくそだよね」
人類を守護するという使命を背負う彼女に並び立つことを諦めない兄弟子に、複雑な感情を抱きながら。
怪物(モンストラス)が蔓延る地上でリーリァが過ごすのは、烈しくも可憐な日々。
アニメ化も果たした『終末なにしてますか?』シリーズから紡がれる、いつかは滅びゆく大地で、いまを生きる勇者と人々の物語。

リーリァ・アスプレイは泣かない。
描かれるキャラクターの涙する姿が印象的なこのシリーズのジャケットデザインですけれど、聖剣セニオリスを手にこちらを振り返るリーリァの口元は強く引き結ばれ、その瞳はどこか虚ろでありながら強固な意志を感じさせる。それは多くの感情を封じ込めた、頑ななまでに鎧った表情であり、諦めであり、焦がれであり。このリーリァの物語を読んだあとだと、様々な想いを抱かせてくれるとても素晴らしい表紙絵である。一三歳のリーリァ。すでに正規勇者として最前線で活躍し続けていた彼女ですけれど、後の彼女と比べるとまだ自分の「正規勇者」としての命運に対して吹っ切れていない印象なんですよね。あるいは、その勇者としての命運を受け入れすぎているのか。
人類という総体を救う存在であるが故に、よりミクロな意味での救いたいと思う者を絶対に救えないという勇者という特質性。作中でも、リーリァは自分が助けたいと思った人を実際に助けられたことは本当に少ない、と吐露しているように人類最強級の戦士でありながら彼女は常に絶望と寄り添っている。その根底には諦観があり、それでも諦めきれずに手を差し伸べ続け叶わぬまま果てることに苦悩し続けている。この頃のリーリァはそんな勇者としての自分にのたうち回りながら足掻いている頃なのだろう。より頑なで周りを顧みない子供だったころ。
兄弟子ヴィレムの存在を、彼の在り方をどう受け止めていいのかまだわからないまま、ぐちゃぐちゃな想いを抱えていたころ。
後のリーリァも多分、泣かなかっただろうけれど、このリーリァのように堪えるように口元を引き結んではいなかった。その目を乾かせてはいなかった。最期までリーリァは幸せそうに想いを馳せて笑っていた。だからこれは、そんなリーリァに至る前の物語なのだ。
同時に、はるか昔に終わってしまうことがわかっている世界の物語でもある。結末を既に知っているだけに、全力で生きている姿を克明に鮮烈に描かれるこの作品のワンシーンワンシーンに、登場人物たちの生き様に、アデライードたちの生きるために懸命な輝きに胸を締め付けられる。
きっとこの作中の登場人物たちの誰にも理解できなかっただろう、ヨーズア氏の奈落のような絶望と姪っ子への愛情に共感させられる。
なんかもう、シリーズ全体の中から見た立ち位置として、物語の中身を度外視してもこの巻そのものが切ないんですよねえ。
それでも、彼らはこの時代、この時を現在として懸命に生きている。全力で生き足掻いている。

しかし、後の破滅とは関係なく、星神との戦いとの前段階で既にこの星の人類って容易に滅びやすい状況にあったんですよねえ。ちょっと気を抜くと滅びるよー、みたいな。でなければリーリァみたいな勇者が歴代活躍しているはずがなく、聖剣が開発されるはずもなく。
既にこの頃から人類、一杯一杯のギリギリを歩んでいるわけで、そこに生きる人たちにも瀬戸際の限界の端を歩いているような緊張感が、誰からも伺えるわけです。アデライードにしてもシリルにしてもあの孤児だったエマにしてすらも。
そんな中であのヴィレムである。この人だけ、この子だけ、ヴィレムだけはなんかこう、違うんですよねえ。いや違うくはないのかもしれないけれど、彼もまたこの簡単に滅びてしまいそうな世界の中で他の人達と同じようにギリギリを抱えながら生きているのだろうけれど、そのギリギリの意味が異なっているというべきか、あまりにもヴィレムはヴィレムでありすぎるというべきか。いつの時代、どんな世界でも、ヴィレムはヴィレムなんだよなあ。
そして、そんなヴィレムの凡人であるが故に凡人の極地へと至ってしまった彼の在り方は、その凡庸すぎる考え方の行き果てた先は、リーリァの諦めと絶望に対してあまりにもマッチングしすぎているんですよね。彼女が取りこぼしていくものを、どうしても掴めず拾えずどれだけ頑張ってもどうしようもできなかったものを、全部回収して拾い上げてすくい上げていくスタイル。丁寧に全部全部賄っていってくれるスタイル。
もうヴィレムがヴィレムすぎて、泣きそうになる。そんなヴィレムすぎるヴィレムを目の当たりにするリーリァの中から溢れてきて抑えきれず必死に蓋をしようとして抑え込みながらも、その隙間からこぼれ落ちてしまうキラキラした想いに、やっぱり泣きそうになってしまう。
ヴィレムに向けられるリーリァの笑み、彼女が笑う、笑えるというその意味に、その価値に胸打たれるのだ。
聖剣セニオリスの持ち主たちは、そんな風に笑っていく。そんな風に笑うものたちだからこそ、セニオリスは力を貸してくれるのだと、そんな者たちために生まれた剣なのだと、セニオリス誕生秘話も語っている。幕間に挟まれる初代勇者とそんな彼の人生に寄り添った精霊の物語、聖剣セニオリスがどのようにして誕生したのかを語る挿話がまた……クるんですよねえ。胸の奥からこみ上げてくるものがある。セニオリスが呪われた剣なんかじゃない、幾つもの願いが織り込まれ結実された優しい剣だというのが伝わってくる。

他にも、ヴィレムがどうしてセニオリスの調整が出来たのか、とか。セニオリスがどうして幾つもの護符(タリスマン)を繋いで剣として形成されているなんて変な構造をしているのか、など本編を補完する内容も幾つもあって、その意味でも読み応えある作品でした。
そして極位古聖剣モウルネンの継承条件なんか……あれずるいよね。六巻のラストにティアットがモウルネンを継承したシーンの重みがさらに変わってきてしまう。
なんかもう、色々と堪能させていただきましたよ、うん…………ヴィレムに似た人形ゲットして本能のままに抱き枕にしまくってるリーリァ、可愛かったですうん。目撃者は殺されそうですけどw

シリーズ感想