【全肯定奴隷少女:1回10分1000リン】 佐藤 真登/凪白 みと  MF文庫J

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大丈夫なの!! まったくもってその通りなの!!!!!!

公園で見かけたボロボロの貫頭衣を身に纏った銀髪の美少女。
あざとい笑顔と快活な声で親身な言葉をかけているが、手には『全肯定奴隷少女:1回10分1000リン』と書かれた怪しい看板? どうやらお悩み相談を受けているようで――。
「奴隷少女はあなたのお悩みを全肯定するの!!!!!
さあ!! 日々のお悩みを叫ぶといいのよ!!!! えへ!」
たかが10分。されど10分。人生を変える言葉がその10分に詰まっている! 自分の歩む道に迷い、悩む、そんな頑張るあなたの弱った心に寄り添う、癒しの全肯定ファンタジー!


まったくもって面白かったの!!!!!!!!!

って、奴隷少女ちゃんの真似事なんてしてしまうと、イチキちゃんみたいに恥ずかしい事になってしまうので自重自重。
というわけで、先ごろGA文庫新人賞にて【処刑少女の生きる道(バージンロード)】にて大賞を受賞した佐藤真登さんの、新作第二弾。それが、この【全肯定奴隷少女:1回10分1000リン】であります。
全肯定奴隷少女:1回10分1000リンってなんぞそれ、と思わずタイトルを凝視してしまうだろうそれは、すなわち作中で件の看板を掲げて公園の真ん中で経っている奴隷姿の少女を目の当たりにした登場人物たちと同じもの。そうやってクエスチョンマークを頭上に浮かべて見守る先で、奴隷少女ちゃんとそのお客となる人たちの人生模様が繰り広げられていくのである。
一回1000リンを払うことで、様々な愚痴や悩みを吐き出す依頼者を十分だけ全肯定してくれる奴隷少女ちゃん。そのハスキーボイスから繰り出される全肯定に基づく勢いの良い励まし、応援、共感はまさに癒やし。日々積もっていく仕事のストレス、行き詰まっている問題や悩みを、奴隷少女ちゃんの全肯定はスカッと吹き払ってくれるのである。それはまさにメンタルヘルスケア。人の心の闇を、少しだけ晴らしてくれる救済のお仕事なのだ。
田舎から都会に憧れて飛び出してきた冒険者見習いのレンは、とある中堅パーティーに採用され、まずは荷物持ちからとダンジョン攻略に参加出来ることになる。しかし、所詮は右も左も分からない素人であり初心者。思い描いていた想像とは全く異なる自分の未熟、何も知らない不見識、ただただ何も出来ないという現実を思い知らされる。
そんな折に、公園で奴隷少女ちゃんとその顧客のやり取りを目撃することになるんですね。自分の檻に閉じ籠もるのではなく、他人の悩み、他人の愚痴を耳にすることでこの世の中、自分ひとりが悩んで闇を抱えているわけじゃない、という当たり前のことに気づくのだ。そんな風に、レンくんは自分の弱さ、情けなさ、みっともなさと向き合いながら、時に自分も奴隷少女ちゃんに励ましてもらう機会を得ながら、一歩一歩成長していくのである。

全肯定、そんな言葉を尽くして人を癒そうとする少女がメインだからか、本作はとかく言葉が重きを成している。語りかける一言一言に、無視できない力があり、心に届く強さがある。言葉ヅラだけの、表面上だけの薄っぺらな肯定ではない、全身全霊の肯定があり、それを受ける側にも全力で受け止める下地があるんですね。
この巻において、二度だけ奴隷少女ちゃんがお金のやり取り抜きに言葉を語りかけてくれるシーンがある。普段は看板で口元を隠して、お金を払うまでは微笑んだまま一言も発しない彼女だけれどに、二度だけ金銭を介さぬ形で、レンに語りかけてくれるシーンが有るのだ。
その時の台詞に込められた、あまりの優しさ、温かさには今思い返しても痺れるものがある。あれほど、慈愛という質量が込められた台詞があるだろうか。人を肯定するとは、実は生中なことではない。しかし、あの2回のシーンには確かにこれ以上ない「全肯定」が存在している。

しかし彼女「全肯定奴隷少女」は肯定するばかりの存在ではない。あの全肯定の看板の裏には「全否定奴隷少女:回数時間・無制限・無料」なる表記があり、下手な以来には奴隷少女ちゃんは敢然と看板を裏返して、全否定を突きつけてくるのだ。あの凄まじい罵倒の嵐は、なるほどある種の界隈にはご褒美かもしれない。
そんな奴隷少女ちゃんとは一体何モノなのか。彼女がチンピラに絡まれたあたりから、その謎さが浮き彫りになってくる。彼女の正体については、主人公のレンが預かり知らぬ場面でこの国の過去、後年前に起こったという革命の話と合わせて徐々に明らかになってくるのだけれど、全肯定奴隷少女という名目は伊達ではないんですよね。
そのバックストーリーは、救国の勇者の登場、或いは帰還とあわせてようやく扉が開かれたところで、その中を除くのは2巻以降の話となっている。もっとも、その開けられた過去と今とを繋ぐ扉の前で繰り広げられる攻防こそが、この第一巻のクライマックスにして目玉になるのだけれど。
全肯定奴隷少女の全肯定、彼女が今までやってきたことの意義を示すための抗いであり、弱い弱い新人冒険者レンの情けなくみっともなく、しかし最もカッコいい戦い。
このレンくん、微妙に雑魚気質があるんだけれど、がんばり屋で直向きでイイ子なんですよねえ。時々、ナチュラルにクズ男ムーブかましてしまうところも含めて、実に可愛い主人公なのである。
同じパーティの先輩方がすごく可愛がってるのもよくわかるんだよなあ。
ちなみに、彼が所属したパーティーってこの世界、この街の基準ではどのくらいなのかはわかりませんけれど、客観的に見て相当にホワイトです。成果報酬制だけじゃなくて、月給+成果に応じたボーナス。緊急の場合のためのパーティー内貯蓄あり。というなにこの超ホワイト企業並。しかも、ド素人だったレンくんに対するケアやフォローもしっかりしていて、彼自身の努力あってこそなんですけど、パーティー全体が彼を育てることを重視して動いてくれてるんですよねえ。個々人もみんないい人ですし。
そんな中で唯一、レンに厳しくあたってくるのが年下の先輩という女魔術師。意識高い系で自分に厳しく他人にも厳しい彼女が、もうひとりのヒロインなのでありますが、最初はとにかく嫌な先輩なんですよね。その尖った性格にはもちろん理由があり、彼女にはひたすら強くならないといけないという理由と覚悟があるからこそなのですが、ヌルい態度で素人丸出しなレンは当初はもう目の敵にする感じで、レンもそのお蔭で序盤は随分と悩むことになります。
その態度も、レンの努力と精進でなんとか見れる冒険者になってきたことで徐々に解消され、見直されていくことになるのですが……。レンの大失敗をきっかけに、彼女との関係もまー、えらいことになっていくのであります。おおむね、レンの誤解を招く言い方とタイミングの妙が悪いんですけどね!
正直、この一巻でレンに妙に意識させられてしまって狼狽えだす女魔術師もこの時点で相当に可愛いのですけれど、本番はまさにあのラストシーンの直後からはじまってしまうんですよね。
ウェブ版の連載時でも、まさにあの直後から女魔術師の人気が起爆爆発してしまう、凄まじいまでの女魔術師タイムがはじまってしまうのですが、それはもう2巻に乞うご期待ということで。
いやあ、あの時期は私も更新されるたびに、あまりの甘酢っぱさと彼女の蠱惑的なあれこれに悶絶しまくってやばいことになってたんだよなあ。あれは本当に凄まじかった。凄まじいとしか言えない凄まじいラブコメ模様だった!
ちなみに、この女魔術師の名前ってウェブ版ではその女魔術師タイムが最高潮に達した瞬間についに作中で描かれる、という悪魔的所業がなされていて、滅茶苦茶効果的だったんですよね。
同時に奴隷少女ちゃんの本名もあかされる、という二重構造の名前公開になっていて、演出としても非常に効果的だったのだけれど、さすがに書籍版だとそこまで一巻ではたどり着かないということで、女魔術師ちゃんの方はちょっと早いタイミングでレンの口から名前が飛び出すことに。
タイミングとしてはウェブ版の方が最高とは思うんだけれど、こっちもレンが彼女に最初にちゃんと認めてもらえた、というシーンでのことなので繰り上がりのタイミングとなってしまいましたけれど、これはこれで良かったんじゃないかなあ。

ほぼほぼ戦闘シーンとはかけ離れた日常シーンの中で物語が繰り広げられる作品なのですけれど、背景となる世界観の設定は佐藤真登さんらしい魅力的で独特なもので、まずダンジョンの設定からして他とは一味違ってるんですよね。人の集まる場所に生じるので大概街中に存在していたり、人々が発する強い思いに応じて、魔物や素材なんかが発生するので強い悪意や負の感情が生じる事件が発生するとダンジョン内でもそれに応じた凶悪な魔物が発生したりする、という設定なんぞは街中で起こっている出来事や事件がダンジョンにそのまま連動しているというのは物語上も結構重要だし、展開の妙にも繋がっているんですよね。
魔法なんかの設定もかなり捻ってて面白いですし、あの度々登場する聖女イーズ・アンとか、色んな意味でとんでもないもんなあ。今までフィクションで出てきた「狂信者」というカテゴリーへの認識を一変させてくれたとんでもないキャラですし。
奴隷少女の妹だというイチキの方も、まだチラ見せ程度の出演、というにはなかなか濃い出番で、女魔術師との出会いと関係は後々もかなり大事な意味を持つのですけれど、彼女の見せ場についても(ラブコメ的な意味においても)これからこれから。

やー、ウェブ版からもちょこちょこと改稿加筆されている部分もあり、改めて読み直しても胸にダイレクトに届くものがある、最高の面白い傑作でありました。GA文庫の方の【処刑少女の生きる道】とはまた毛色に違う作品でもあり、あちらを読んだ方でも新鮮な感じで頁をめくれるのではないでしょうか。
ラブコメ的にフルバーストモードに入る第2巻が、今からヤバイくらいに楽しみになってます。やばいやばい。

佐藤真登作品感想